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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第八章 激突
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09‐ アイリーの反撃(2)

 柔らかな肌に覆われたニナの細い手首にアイリーの指が食い込む。肘の関節を巧みに捻じる様にニナの腕を掴んでいる。



 捻じられた関節に痛みを感じるかどうかは分からないが可動範囲の限界に到達しているニナの肘はアイリーの拘束から逃れる事ができない。



『いたたったったったったった…… 痛い痛い痛い痛い痛い!俺が痛い!』



 顔色を変える様な無様は見せないがアイリーの思考も悲鳴を上げる。アイリーの手を包む形で自分の手を添え、アイリーの拳ごとニナの腕を握り込んでいるのは迷彩を発動しているクラリッサだ。



『我慢しなよベイビー? 自分で考えついた作戦だろ? ……。しかしスゲえなアイリー』



『まあね。わたしのアイリーだからね。もっと誉めても構わないよ?』



 生きている人間を数分、狙いを定めれば数秒で白骨体となるまで腐敗させる。雷撃を自在に操る。目に見える範囲の空間を文字通りに削り取る。



 人間であるアイリーに真似出来る事ではない。当然に特殊な装備もない状態では防御も出来ない。最先端科学を集結させたヒューマノイドであるクラリッサでも無理だ。



 ニナを捕縛するという事に関してはアイリーは有効策さえ思いつけずにいた。僅かな可能性としてミサキによる捕縛の成功、あるいはカイマナイナの再度の介入を予想はしたがアイリーが自発的に取れる行動はない。



 ニナの能力に対しては“生還する事”だけを目標にして少しでも情報を得る事を優先するつもりのアイリーだった。



 腕を掴まれたままのニナの表情に大きな驚きが浮かぶ。その視線の先をアイリーは見逃さない。彼女は周囲の景観そのものを見て驚いている。



『転移を試みたが失敗した……。 そんな感じだ。俺がニナに触れている事でニナは全ての能力の発動を封じられている?』



『ミサキは、“カイマナイナは自分の周辺の存在全てを自分に融合させて吸収する能力がある”と言っていたよね? アイリー? 多分、ニナは能力を封じられているんじゃなくてアイリーを通してカイマナイナに向けてドレイン(強制排出)させられている』



 捻じりあげられた腕に自由を取り戻そうともがくニナを注視しながら、アイリーは先ほど感じた疑念を思い出す。



 ミサキの家族がセントタラゴナに在住していると聞かされたニナの顔に一瞬だが悔悟と自責の表情が浮かんだ。



 殺人行為による死亡の経験もあるアイリーは知っている。殺人に慣れ切った者は他人の命に頓着を感じない。仮に目の前の人間に“お前は親の仇だ”と言われても他人事としか感じられない。



 へえ、そうか。 ……だから?



 それはニナの返答そのものだった。だが表情は裏腹に自責の気持ちをアイリーに見せてしまった。 ……ニナの心は、まだ殺人行為に摩耗しつくしていない?



『ヘイ、アイリー? 今からあんたの空いてる方の手でニナの顔を思い切り張り倒すよ。その後髪を掴んで強引に唇を奪う。手はあたしが動かすけどキスはあんたがするんだ。覚悟決めな』



 クラリッサの声に冗談を言っている雰囲気はない。



『何のために?』



『ミサキの言葉を聞いた時のニナの表情は不自然だった。あんたもそう感じただろ? アイリー? ニナ自身が暴力にどれだけ慣れているのか確かめる。まだ不慣れな様なら状況はこれから悪化する。ニナの頭の方がぶっ壊れるのはこれからってコトだからな』



 アイリー自身には人を殴った経験がない。無防備な相手を殴っていいと言われても体の動かし方、力の入れ方が分からない。体の方が脳の指令を拒むといった方が正しいかもしれない。クラリッサはその事も見抜いている。



『……。分かった。手間をかける。併せて観察も続けてくれ』



 そうクラリッサに伝えた途端にアイリーの左手が動きニナの右頬を激しく叩いた。



『いっ…痛っ……』



 アイリーが思わず小さく息を詰めてしまう。殴打の瞬間に手を開き指を拡げたためニナの顔を平手打ちする形になった。アイリーの指が衝撃で逆に曲がり折れる寸前の痛みをアイリーに与える。



『殴るっつっただろアイリー!? 手を開くバカがどこにいるんだよ!?』



『アイリーは女の人を殴れないんだよ? でもムリキスは手を抜いたらダメだよ?アイリー?』



 リッカのフォローと同時にアイリーの左手が意志に反してニナの頭へと伸び、荒々しく髪を掴んだ。 ニナの顔に驚きと恐怖が浮かぶ。 



 本物の恐怖だ。



 ……。何万人も殺しておいて、なんでそんな当たり前の表情をするんだ。



 アイリーの心に生じたのは悲嘆だった。

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