14‐ アイリーへの調査依頼
※痛い描写を含みます※
見終わったアイリーの顔に格別の表情はない。
リッカもまた沈黙したままアイリーの横顔を見つめている。
大きく一つ息を吐いてからアイリーがテレサに尋ねた。
『犠牲者の遺体は?』
『埋葬された後よ。データから3D復元は可能だけれど』
『事故車両は?』
『事故から2週間経過しているわ。もうスクラップになっている』
『リッカ、遺体の写真をよく見せてくれ』
具体的な指示を介さずにリッカが空中に展開される画像に手を伸ばした。指先で何かを操作する様な動きを見せると画像が大きく拡大される。
痛ましい遺体だった。
血液は洗い流されて全裸で固い検死台の上に横たえられている。
検死を担当した警察から資料として提出されたものだ。
当然、一般人が目にする事のできないものだ。
服を脱がされて裸体となっているために損傷の様子がより生々しく映されている。
右腕は完全に断ち切られている。
胸に深い傷が刻まれた画像と、開胸後に心臓と肺の損傷を撮影した画像がある。
顔の下半分は抉り取られて表情筋が力で千切られた様子が大写しになっている。
顔の上半分は大きく陥没し脳挫滅を起こしている。
顔面に衝突の痕が残るのは胸に裂傷を負った時に一緒にシートベルトが切断されたためだ。
『右腕の断面をよく見せてくれ』
リッカが画像に手を伸ばしてこれを拡大する。
アイリーは黙ったまま、その画像だけを注視している。
1分、2分と画像を注視したあとにアイリーはテレサに視線を向けた。
『事故原因の特定なら事故原因調査室に依頼すれば詳細な報告が出せるでしょう。担当は俺でなくてもいいと思います。ただ…… 動画で予兆を発見する事はできなかったがこの事故は再発の可能性がある……。 それに生き残った奥さんには事故原因とは別に知っておくべき真実があると考えられます。 これは…… その予兆とご主人についての真実は…… 俺でなければ辿りつけない…… しかし……』
アイリーの口調はだんだんと重く、遅くなりついには言葉を濁したまま黙ってしまった。テレサはじっと、アイリーの言葉を待っている。
リッカが画像をみながら口を開いた。
『うおぉ、痛そうな死に方!! わたしが人間だったらこんな死に方だけはしたくないよ、アイリー!! 』
リッカの言葉は故人に対して非常に不謹慎なものだ。だがテレサもアイリーもその言葉を咎めなかった。
『腕を切断されて! 肋骨ごと心臓と肺を裂かれて! まだ意識のあるうちに顔の下半分をえぐられて!! 最後は脳挫滅を起こすほどの顔面強打で死亡!! この即死レベルの致命傷が一番最後っていうのが痛すぎてムリムリムリ!! 死に方として最悪!! ほんっっと最悪!!』
『死に方が最悪だからこそ、旦那さんが何故死ななければならなかったのかを夫人は知っておくべきだ』
意識せず、自然と低い声となっているアイリーの言葉にリッカは彼を注視する事で応えた。
目を細めて白く小さな歯列をきれいに見せながら唇を横に大きく広げて笑う。
『まあね。その通りだよアイリー? だから真実を知ること以外の問題はわたしに任せて。わたしのアイリーは世界最高の特別事故原因調査官。“天才を凌駕した調査官”なんだぜ?』
答えずにアイリーはリッカから目をそらした。顔が少し赤くなっている。
リッカが小さなあごを上にあげて得意そうに笑った。テレサに対して、アイリーに代わって言葉を続ける。
『遺体は埋葬済み。車両はスクラップされた後。事故原因の特定だけなら3D再現された遺体と動画で足りるけれど、原因解明の報告に‟夫人を救う事ができる”っていう条件を追加するならアイリーによる終末期再生調査の実行が不可欠になる……。 テレサはこの意味わかる?制度的な意味で?』




