01‐ 大規模災害対応視察団
「ニナが起こしてきた事件には目的との不一致が多い」
自分の提案に驚くエドワード達にアイリーは説明を始めた。
「警察官殺害事件の現場では遺体は全て銃を持ったまま絶命していた。そして部屋の入口に向き合った状態でニナの能力に感染させられていた」
アンジェラから受け取った映像を見たアイリーが最初に疑問に思った点だった。
「ニナは犠牲者1人1人と対面して初めて能力を発動させている。次のレストランコート襲撃ではジューリアからの二次感染が起きた。この時もニナは最初から最後まで現場に留まっていた。最後にヒューマノイドと入れ替わったのは事件を自爆テロに偽装する為と思われるが…… これは今は考えなくていい」
アイリーの話を聞くドロシアとアンジェラの表情に強い興味が浮かぶ。
「病院襲撃の時は本人が40キロも離れた場所にいるのに発症が起きた。物理的に遮断されている別棟にも二次感染が拡がった。そして今回の首都襲撃だ……。 ニナは出現するたびにより強力な殺傷能力を見せつけている……。 ここに目的との不一致を感じた」
姿を現したままでアイリーの話を聞いていたクラリッサが表情でアイリーに話の続きを促した。クラリッサはレストランコート襲撃と病院襲撃でアイリーと行動を共にしている。
「無差別に人を殺す以外に、ニナには俺に自分の力を見せつけるという目的があったはずだ。俺を事件の当事者と強く認識させるために……。 ならばレストランコートや病院で実力を出し惜しみする理由がない。 首都を襲撃した時の彼女ならレストランコート全域を壊滅させる事も容易かったはずだ」
「ニナはここ数日でその能力を向上させている?」
ドロシアがアイリーに尋ねた。アイリーの顔に嫌悪感が浮かぶ。その表情のまま頷いた。
「警察官殺害事件をゼロ地点として……。 ニナは俺が…… 青い衣のエレメンタリストから生き延びたのを知った。 レストランコート襲撃では俺に自分の能力が通用しない事を知った……。 病院襲撃では自分がプロファイルされたと気づいていた」
「アイリーさんと接触する度に自分への危険度が増していると自覚したはずですね」
「既視感のある嫌な話だが……。 俺にも覚えがある……。 目前に確定した死をつきつけられた時に起こる感覚向上だ……。 ニナは俺との接触回数を増やす度に俺に対して何らかの危険を実感してその能力を向上させている可能性が高い…… 」
「……。 ニナは君の何に脅威を感じているのか? その心当たりはあるかい?」
エドワードの問いにアイリーは首を横に振った。
「ありません。想像もつかない。 ……ならば会って確かめるしかない。恐らくはもう一段階上の能力を彼女は手に入れるでしょう……。 引き換えに俺はニナの致命的な弱点を読み取ってみせる」
その為に東フィリピン海洋自治国へ自ら乗り込むというのがアイリーの考えだった。
「君の命の保証についてはどう担保をとるつもりだ?」
エドワードの問いに対してアイリーはすでに答えを用意していた。
「大規模災害対応視察団を組織するなら第三資源管理局に護衛を申請できます。彼らにも断る理由がない……。 エレメンタリストを俺の護衛にします」
カイマナイナとエイミーの顔がアイリーの脳裏に浮かんだ。エドワードが頷く。
「いいプランだと思う。ボクの方からも提案があったんだ。併せて検討して欲しい。今朝、東フィリピン海洋自治国の傭兵がこのセーフハウスに辿りついた」
エドワードの声に呼応する様にセーフハウス奥のゲストルームから男が一人現れた。
「紹介するよ。ミサキ・サラザール……。 水界のエレメンタリストだ」




