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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第七章 虐殺の幕開け
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19‐ 経験不足が原因の失敗

※婉曲した表現が多くあります。意味が分からないという方がおられましたら表現力不足をお詫びいたします。








 翌日。時刻は昼前近くになるだろうか。

 アイリーが保護されているセーフハウスのリビングにはクラリッサとアンジェラ、アイリーの姿がある。



 昨夜は護衛の為と言って姿を消していた二人だが今はアイリーの前にその姿を現している。クラリッサはソファに深く腰を下ろし高く脚を組んで上体を逸らしながらアイリーを見下す様な姿勢でにらみつけている。



 クラリッサの隣に座るアンジェラの表情に怒りはない。アイリーから目を逸らしながらまるで彼に興味がなくなった様な顔をしていた。



 アイリーはソファに腰かけながら両膝に肘をのせてうなだれた姿勢でいる。



「……。 あたしの本業は荒事専門の捜査官なんだよ、アイリー? ジュニアハイスクールのスクールナースじゃねんだ。 なあ? 知ってた?」



 アイリーが言葉もなく頷く。



「知ってたか。そりゃあ話が早い。そんなあたし、ヒューマノイドのあたしだって知ってる。腹筋のガードなしの内臓に打撃を与え続けたらそのダメージは大きい。……。 な? 分かるか?」



 アイリーが言葉もなく頷く。



「……。それを、おめぇ……。 固く絞ったタオルみたいなバカでかいので……。 しかも全弾、ガゼルパンチのデンプシーロールスタイルじゃねえか……。 イノリが起きてこれなくなるのも当然だよ?」



 堪らずにアンジェラが口元を手で覆って横を向いてしまう。笑っている。アイリーは深くうなだれて言葉もない。



「ツヤっとした肌で反省しても伝わってこねえよ!! アイリー!!」



 そう言う事なのだ。どのような喫緊の問題であれ、むしろ暗闇の中に落ちている針を探す様な難題の時こそ適時適量の休息が人間には不可欠となる。



 アンジェラとドロシアがニナの過去の経歴に、イノリが言動に秘められているであろう真意と目的に、アイリーがアクティビティ能力の分析にそれぞれ特化して情報を集め、時間を改めて再び意見交換をする事で昨夜は一旦解散となった。



 意図してリラックスした状態を作ろうとしたアイリーとイノリが何を最も欲していたのかは述べるまでもない。ただ、アイリーは経験不足から限度を知らなかった。



 ダメ、という意思表示がある。拒絶の場合は相手の行動を抑止できる。こともある。叱声の場合は相手の背中を押す様な効果しかもたらなさない。イノリはわざと後者を選んだ。



 今頃はイノリの枕元で別筐体に入っているクラリッサとアンジェラが同じ説教をしているだろう。



「……。 でも状況は明らかに好転したわよ、クラリッサ? 私とエドワードがどうやってアイリーに伝えるか迷っていた彼自身の問題をイノリが既に解決してくれたわ」



「そりゃな」



 エドワードと彼のチームはアイリーの目的意識に危惧を覚えていた。



 何のために虐殺のエレメンタリストに対峙するのか。対テロ事件を専門に扱ってきたエドワード達は幾度も苦い経験を重ねてきた。



 仮にアイリーが自分の命を守る為に虐殺のエレメンタリストに立ち向かおうとしていたとしたら。作戦は最終的に失敗で終わるだろう。



 自分の能力の限界に到達した時に諦めが生まれるからだ。これは自己防衛本能の一つで防ぎようもない心の動きだ。



 仮にアイリーが民衆の為にと考えているのなら事態はさらに悪化しただろう。民衆の命と引き換えにする自分の命は本人自身が軽く評価するからだ。



「イノリを守りきる。イノリを救う。それ以外の動機は全てオマケでいい。そうでなければアイリーは、人間は、自分の限界を突破できない」



 それがエドワード達の共通した認識だった。そしてイノリは自らアイリーをその境地へと導いて見せた。



 そして夜が明けて。アイリーは一人寝室から出てきてエドワード達に提案したのだ。



「ハッシュバベルから大規模災害対応視察団を編成して東フィリピン海洋自治国へ乗り込もう。災害状況確認担当官には俺が志願する」



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