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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第七章 虐殺の幕開け
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17‐ 虐殺行進

「合衆国政府が俺を国外追放しようと判断する可能性はありますか?」



 アイリーの問いに対面に座るエドワードとドロシアが揃って不思議そうな顔をした。



「その可能性はない。何故そんな突拍子もない事を?」



 エドワードの反問にアイリーも問い返す。



「俺を拉致する為に世界中の紛争地から東フィリピン海洋自治国出身の傭兵が入国してきているのでしょう? そんなトラブルの原因を放置する位なら理由をつけて政府の方から俺の身柄を差し出す事は当然の選択肢だと思いますが?」



 ドロシアが微笑んだ。アイリーも、アイリーの視覚を通して彼女を見るリッカにしても初めて見る好戦的な微笑だった。



「アイリーさんに辿りつけた時点でその傭兵は合衆国の水際作戦を突破できたテロリストという事になります。そんな稀有な実力を持つ犯罪者が向こうから罪状まで背負って訪ねてきてくれる好機はまたとありません……。 連邦捜査局だけでなく中央情報局も軍もそれぞれに囮のアイリーさんを用意して彼らとの衝突に入っている状況です」



「ヒューマノイドや工作員を君と同じ容姿に整形した上でアラスカやネバダ、アリゾナでの潜伏情報を地下ルートへ流しているところだよ。我々が本気で君を隠匿保護しそうな場所を厳選している。もちろん、万全の迎撃態勢を取った上で」



「相手が死んでしまった場合でも合衆国への脅威は低減されたと評価できます。生きて捕縛できた場合司法取引で得られる情報や協力関係には得難い価値があります」



 エドワードとドロシアの説明にアイリーは驚愕する。他国の国民が蹂躙されている最中だというのに、こんな対策にばかり即応する政府の判断が信じられない。



「アイリー? 複数の囮が散開している状況は結果的に私達の安全に直結しているわ。怒りや疑問を抱くより私達が優先して考えなければいけない事を考えましょう」



 イノリの言葉がアイリーの暴走しかけた感情を制御する。



「ドロシア? 東フィリピン海洋自治国で実際には何が起きているかの映像を見る事はできる?」



 イノリの問いに応える様にドロシアが仮想現実データを送信してきた。



「今から22時間前の首都襲撃直後の映像です。海洋自治国は今回の事件について映像を一切公開していませんが国外メーカーからリースされていた幹線道路の非破壊検査アンドロイドが取得していた映像がメーカーから提出されました」



 リッカがデータを解凍しアイリーの視覚へと連結させる。



 近代都市としては異様なほど低層のビルばかりが並ぶ街並みが見えた。経済が未発達だからではない。



 諸島を買収して建国したこの国は空港と都市が隣接しているため超高層ビルは飛行機の発着の妨げになると規制が入っているのだ。



 ビル街の中でも金融と行政が集中するエリアは一見してそうと分かる。ビルの外壁に看板が乱立していない。



 そのオフィス街を貫く大通りから徒歩の一群が近づいてくる。

 アイリーは最初、デモ行進の類かと思った。それほど歩みの遅い行進だ。



 映像を送ってきたアンドロイドは地中に埋没している設備の点検をしている。行進に興味を示した訳ではない。作業領域周辺の人間の安全を確認するためにカメラを向けているだけだ。



 その為にクローズアップなどは一切ない。それでもその異様さは遠目からも見て取れた。



 先頭を悠々と歩くのは簡素なローブの様なワンピースを着た女。アイリーを襲撃したエレメンタリスト、ニナだった。



 背後に付き従うのは一般市民。大通りに面したビルから次々と現れては行進に合流していく。



 南国らしい薄手の仕事着から露出した腕と顔に現れているのは薄緑色の発色。全員が致死性のアクティビティに感染している。



 その表情に個別の意志は見られない。恐怖も諦めもなく無表情に行進を続けている。



 まさか……。 アイリーが絶句する。



 行進に参加させられている者は、自由意志を奪われている。



 自分の仮説が今回の襲撃で崩された事をアイリーは知った。



 行進はさらに異相を呈しはじめた。ニナのすぐ傍に付き従う様に歩いていた市民の体は次々に薄緑色の発色を強め、光が限界に達したところで白骨となって路上に倒れ伏す。



 その遺骨の上をまだ発色を続ける他の犠牲者が黙々と踏み越えてニナに付き従う。行進そのものが虐殺であった。


 

 拡声装置も見えないが人間が発する音量の限界を超えた声が響き渡った。



「私は世に悪を示すエレメンタリスト。一切の抵抗を放棄し私の声を聞け。繰り返す」



 そこでカメラの視点にニナが気づいた様だった。カメラへ目線を投げる形となる。ニナは笑顔でカメラを見つめた。



 そこで画像は途切れ、アイリーの視界はセーフハウスの室内へと戻された。



「…続きは?」



「ありません。以降の通信は途絶しています。恐らくは破壊されたのでしょう」



 ドロシアの問いにアイリーは深く息を吐いた。

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