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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第六章 パターソン病院の攻防
128/377

17‐ 突入

 火線を突破して銃撃戦を背後に聞きながらクラリッサとスタリオンは病院の正面玄関へと辿り着く。



 正面玄関の内側からヒューマノイドのナースが駆け寄ってくる。クラリッサが躊躇いも見せずに散弾銃を構える。



「撃たないでください!ドロシアです!バカ!!」



 立ち止まったナースのところまで乗り込んでからクラリッサがスタリオンから降りた。周囲を見回す。



「病院内の監視設備はあたしの指揮下に入っている。今回の仕事はやりやすいわ」



 クラリッサの言葉にナースの筐体に入っているドロシアが頷く。



「アンジェラさんの偵察用ドローンも各階に配置済みです。棟内でまだ発症は確認できていません。移動が可能な人間は全て機密性の高い放射線科と呼吸器科の病棟に移動させています」



 クラリッサが頷いた。ベッドから起き上がれない患者の事は質問しない。



「ライアンが眠っているベッドはあたしが遠隔操作できる。ベッドごと移動させてエレベーターで屋上にあがる。ドローンで回収してライアンを上空に避難させる。経路の確保は終わってるね?」



 訊きながらクラリッサが銃に弾丸を入れ直してドロシアに手渡した。



「あたしは上階から壁を伝って襲撃者を攻撃する。あんたは病室のドアを開けてコレで襲撃者をぶっぱなす。挟撃するよ」



「散弾銃で!?ライアンさんも被弾してしまいます」



「障壁破壊用スラッグ弾だよ。襲撃者を壁ごと建物外に吹き飛ばせ。私が空中でヤツを攻撃する」



 スラッグ弾とは扉や壁に発砲して扉を蝶番ごと吹き飛ばし、壁に人が通れるサイズの穴を開ける単発弾だ。



「そのプランでは襲撃者が空間転移で逃亡した場合に身元の特定が出来ません」



「エレメンタリストがこの程度の牽制で獲物を手放す訳ないだろ?それに特定はリッカとアイリーがやってくれる。一瞬あれば十分だろ? ……なあ?」



 リッカの周囲には既に無数のアイコンが点滅している。



『相貌認証データ連結・歯牙鑑定データ連結・虹彩鑑定データ連結・耳介鑑定データ連結・声紋鑑定データ連結・体臭鑑定データ連結・骨格サンプリング連結・形態学分析サンプリング連結…クラリッサ? 匂いの収集もできるよね?』



 リッカの言葉にクラリッサが小さく呻く。



『そりゃ…… もちろん大丈夫だけどさ……。 リッカ? あんたドコのデータベースと連結してるんだよ?』



『第二資源管理局の‟知りたがり”。だから未だに人間社会との接触を拒否している少数民族と生後30分以内の赤ちゃん以外はたいていデータがあるよ』



『‟知りたがり”と情報連結できるって…』



 クラリッサが絶句する。相応の相手なのだろう。横で聞いているアイリーには驚く判定基準がないために実感がない。スゴいのか? 程度の認識だった。



『クラリッサはもっと誉めても構わないよ? わたしの目は1秒27000フレームを記録できる。感覚向上している時のアイリーの認識画素数は未計測だけど観察力はアンジェラのホログラムを一瞬で見破るレベルだよ? ……あとわたしもアンジェラのホログラムは気づいていたよ!』



『リッカ? ダウトぉ』



 ショックから無理に立ち直ったらしいクラリッサが笑った。アイリーは沈黙を守っている。笑いを収めてクラリッサが尋ねた。



『リッカ? 聞くまでもないけどアイリーのメンタルは大丈夫なんだろうな? ライアンに気をとられて襲撃者の情報収集に支障が出るなんて勘弁だぜ?』



『スタリオンはライアンと盟友関係、種族が同じなら親友同士の信頼関係があったんでしょ? クラリッサ達に失敗は許さんとか指示してこないの?』



『素人かよ』

『ワッチ・ユア・マウス』



 クラリッサが苦笑をもらした。ライアンがいる部屋を2階分真上に移動した部屋に移動を終えて室内の要所にワイヤーを固定し外壁へと躍り出る。



 スタリオンは1階ロビーで待機している。周辺はアンジェラが指揮する偵察ユニットが護衛している。



『こちらクラリッサ。アンジェラ、襲撃者は院内の状況をどうやって把握している? あたし達の動きを全く関知していないって訳じゃないだろ?』



『襲撃者は病院の内外に4機のドローンを飛ばして映像と音声を拾っている。2機は正面玄関外の銃撃戦を中継して1機は正面玄関内部に滞空させている。あとの1機はドアの外に滞空させているわ。どれも市販品で襲撃者の手元のモニターで制御するタイプ』



『ザルだな。ドアの外に滞空しているドローンに侵入して1分前の映像情報を繰り返し流す様に欺瞞指示を与える。ドロシア、監視を気にせず部屋の前に移動して突入準備をしろ』



『了解』



 音もなくドロシアがライアンの眠る病室の前へと接近する。



 市販されているドローンが滞空している。通信販売で子供でも入手できる量産型だ。警戒する様子もみせずにドロシアがドアの前に到着した。



『突入します。ドアを開けて』



 銃を構えた姿勢でドロシアが伝えてきた。



 部屋の間取りは把握している。自動ドアが全開放する時間を待つ必要はない。数センチ開いたところで襲撃者を狙撃できる角度でドロシアは待機している。



 アンジェラの管理下にある自動ドアが開き始めた。



 窓のすぐ上の外壁に取り付いたクラリッサが紐状に伸ばしたスコープで室内の様子を観察している。



 眠るライアンの傍らに座る人物はドアが動き出した事にも気づかず、いや周囲を警戒する様子も見せずに愕然として立ち上がりライアンに歩み寄った。



「あなた!?」



 ドロシアが発砲。その直前、1秒を遥かに切ったコンマ数秒のタイミングでリッカの叫びがドロシアに届いた。



『ダメ! それイノリだよ!!』



 ライアンの体がベッドの上から忽然と掻き消える。



 ドアが開ききり、銃を構えたままのドロシアの姿がクラリッサのスコープに映った。

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