16- 強襲作戦
クラリッサの視界に通信窓が二つ開く。アンジェラとブリトニーの笑顔が映る。
クラリッサから見て右側に現れたのがアンジェラ。両肩から背中、腰の両脇に巨大な外骨格の様なプロテクターを装備している。肩甲骨の辺りに小型の噴射口と薄い羽の様な装備が見える。
シンプルなボディスーツながら右手に肘から手首までを覆う手甲をつけ体の各所に予備の弾倉を装着しているのがブリトニーだ。ブリトニーが着ける手甲には長い砲身が一体化されている。
『うおお…どっから出てきたの?』
『あら? リッカは光学迷彩を見たのは初めて?』
自分の背後の風景を認識し前面に近似の風景を再現させる光学迷彩は発動に電力を要し重量もある為人間が装備する事はほとんどない。だがヒューマノイドにとっては余りある長所を兼ね備えた装備と言える。
アンジェラが上半身を捻じって振り返った。ミラータイプのバイザーを下ろしているので顔は全く見えない。
光学迷彩を解除したコンバットスーツはラテックス素材の様に光沢を持ち全身を締め付けるような、あるいは裸体に直接着色した様な素材感でボディラインを露わにしている。
『アンジェラ!! おっ…お尻がエロい!!うわ、胸もでっか!!』
『リッカ、変なトコに興味持つなあ?アイリーの趣味か?』
『わたしの視覚はアイリーに依存してるからね。アイリーがアンジェラのお尻ガン見してるんだよ』
『あら…!』
アンジェラが嬉し気にアイリーへと悩ましく尻を振ってみせた。
話題を振られたアイリーに焦った雰囲気は見られない。会話を聞いていて自分も発言できるタイミングだと思ったのだろう。アンジェラに問いかける。
『アンジェラ……。 いま見えている貴女はホログラムか?』
『……へえ? どしてそう思ったの?アイリー?』
『貴女の体が反射させている光は今現在の太陽光と構成が違って見える』
アンジェラとアイリーの会話には取り合わずに目前のテロリストを観察しつづけていたブリトニーが不意に口を開いた。
『……。 なんか、向こうもメチャクチャ驚いている様に見えるわ』
『彼らの会話を拾ったわ。どうやら野戦重砲が周囲を制圧した後に勝ち名乗りを上げるだけのつもりで此処に来たみたいよ』
アイリーとの会話を中断したアンジェラがそう答えた。頷いたブリトニーがさらに問う。
『アンジェラ、敵の戦闘能力を評価して』
『逃げ足は速いけれど判断が遅いから結局最初に全滅するタイプだと思うわ。ドロシア、一応武装を解除する様に伝えて』
クラリッサの視界の中にドロシアからの通信窓が開く。同時に臨戦態勢を整えたテロリスト集団の上空、何もない空間から声だけが降ってきた。
ステルスドローンに搭載されているスピーカーからの声だ。
「こちらは連邦捜査局です。直ちに武装を解除し投降しなさい。武装を解除しない場合5秒後に制圧を開始します」
「不当に拘束されている我らが同胞・大アジャーニを解放しろ!」
「パスポートと合衆国の滞在許可証を提示して下さい。提示がない場合は拘束します」
ビザの発給も受けていない者を拘束するのは当然の事であり不当でもなんでもない。
ドロシアはそう言っているが当然に、ビザの発給など受けている訳がない。
「攻撃を開始しろ!!」
テロリスト達の間で音声による伝達があった。一斉に銃を構えるがその時にはもう彼らの背後で光学迷彩を発動したままのアンジェラと彼女の炸裂蜂が展開を終えている。
自分達が持参した銃器が火を噴くよりも前に自爆ドローンの強襲を受けたテロリスト達が堪らず視線を背後に移してしまう。
その瞬間にスタリオンが疾走を開始する。車上ではクラリッサが鼻歌を歌いながら二丁の散弾銃を構えた。ドラゴンブレス弾。この弾丸には無数のマグネシウム弾が詰められ、射程内に散弾と火炎放射の二重の被害を与える。
炎に前後を挟まれたテロリスト達が狼狽しながら其々に標的を探す。
その目に映ったのは背中の飛行ユニットを起動させて空中へと躍り出たアンジェラ。テロリストの銃弾がアンジェラを追う。
展開した火線の片側に意識が偏ってしまったテロリスト達の逆側面へブリトニーによる狙撃が浴びせられる。ブリトニーは再度光学迷彩を発動していてその姿を捉える事は出来ない。
敵勢力に対してアンジェラが頭上を旋回飛行して注意を引きつける。
実際には光学支援ドローンが見せるホログラムだ。
あらぬ方へ注意を向けてしまった敵勢力にさらにクラリッサが弾幕を張りながら肉迫。
攻撃対象が散漫になったところで不可視化したアンジェラのドローン群とブリトニーの狙撃が挟撃する。
彼女達が最も得意とする強襲プランだった。




