11‐ 投下
『テレサ、アイリーには連邦捜査局の強襲チームと意識を同調させる。同調している間アイリーの体に刺激を与えると集中が阻害される。アイリーを余計な外部刺激から遮断する様に取り計らって』
『リッカちゃん、あなた対応早いわねえ』
『もっと誉めても構わないよ?』
誇らしげなリッカの声音を聞いてテレサが微笑む。
アイリーが自分の命を削りながら大金を稼ぎ、惜しげも見せずにリッカに投資しつづける目的が分かった気がしたからだ。
人の頭脳では瞬時に判断しかねる状況に遭った時に自分と同じ判断を並行して瞬時に行い行動を開始できる。アイリー自身の即応力の強化こそがリッカの支援能力の真髄なのだとテレサは理解した。
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窓もない密閉されたコンテナの中で自分はバイクにまたがっているのだとアイリーは認識している。
目に映る自分の腕は見慣れない程に細く長い。
轟音が聞こえている。風切り音とプロペラの回転音。視線を右にずらすと視界は右へと移動する。
『ようこそ、あたしの頭の中に。あなたの大きいモノがあたしのデリケートな場所に入ってるのを感じてゾクゾクしてるわ。可愛いアイリー坊や』
クラリッサの出す甘い声がアイリーの意識の中に聞こえてくる。
『メモリーの話だからね? アイリー。こいつの下品に反応することないからね』
リッカの塩っぱい声も聞こえてきた。あは、という笑い声はクラリッサのものだ。
『協力に心から感謝します、クラリッサ。今、右をみようとしたら視界が右に動いた。視界は俺の自由になるんですか?』
『あたしの目は複眼構成になっているからね。顔の向きまでは自由にならないけれど視界は自由に動かしてもらって構わないよ』
それは視界の中心が視界全体に並行して存在するという意味だ。正面を注視しながら視界の隅にうつったものを拡大注視する事も出来る。
人間には訓練しても到達できない領域の視界をクラリッサは獲得している。
『ただ最初に言っておく。あたしの行動は連邦捜査局の指示が最優先される。あんたの意志や希望と全く違う行動をとる事もある。特に人命保護については、最善の正論や道徳よりも次善の結果というモノが優先される。分かるよね?』
アイリーは沈黙した。躊躇いなく二十名を銃殺したクラリッサの姿を思い出す。
『……。 立場の違いも考え方の違いも理解しています、クラリッサ。考え方の違いに善悪や優劣の差はない事も。でも疑問のない状態で貴女を信頼したい。貴女は人の命をどう定義づけますか?』
クラリッサからの回答は間髪を入れなかった。
『生体脳の耐用期間の概念化。健康なうちに思考アルゴリズムを数式化して記憶と共にバックアップを万全にしておけば、生体脳が失われても同じ個性を再構築できるのに人間はオリジナルにこだわる。オーバーホールも拒み自分の勝手でスペアを用意しないでいて、替えがないから大事にしてくれと他者に強制するのは滑稽よ』
『ありがとう。その定義で俺は貴女の行動を理解する事ができる。よろしく頼みます』
『あ、そう。じゃあ降下するよ』
床が開放された。アイリーは自分が跨るバイクごと空中に放り出されたのを感じた。
触覚の同調がないにも関わらず、1秒を待たずに落下速度が倍加している様な感覚がアイリーの全身を包む




