11‐ テレサの依頼
テレサは最上階層にある職員専用ラウンジにアイリーを招いた。
「怒ってる? ねぇねぇ? 怒ってるぅ?」
ラウンジの個室に入るなりテレサがアイリーに尋ねた。アイリーの怒りを怖れて機嫌をとろうとする口調ではない。
「ちょっとショックを受けています」
顔色を失くしながらアイリーが暗い声で答えた。
「テレサが俺に話しかけてきた様子を見て俺の事を投稿する人が増えました」
テレサがオモチャを目の前で振られた猫の様な表情になる。
自分でも確認したのだろう。素直な感想をそのまま口に出した。
「スレンダーな女の子の投稿が増えたわね。アイリーが私みたいな未成熟な体のフィギュアロイドを愛玩すると思って自分にもチャンスあると思ったのかしら?」
「俺は… 知らないうちに誰かの自信を損なわせる様な言動をとっていたんでしょうか?」
テレサがアイリーをみつめた。
折りたたんだ鳩の羽を背負った蛙をみつけた様な反応に困った表情だ。
「タイニィな体型の女の子たちが投稿を躊躇していたのまで自分のせいだと思うの? その感覚はさすがにおかしいわよ?」
「俺は誰に無断投稿されても文句をいうつもりはありません。その投稿すら遠慮する人がいるなんて想像したこともなかった。誰を疎外するつもりもないのに。何といえばいいのか…… 」
「どんなドブスが無断投稿してもそれを理由に拒絶したりはしない?」
「…… うん…… そうです」
「そうよね。あなたは投稿者全員を黙殺で全否定する素晴らしき平等主義者だものね」
アイリーの顔が土気色になる。
「幼いわねアイリー。勇気を出した子にはご褒美を与えなさい。最後まで無視して相手が冷めるのを待つのは残酷よ」
アイリーの思考が大混乱に陥るのを見て取ったテレサが本題を切り出した。
「投稿者への評価が今日の本題ではないわ。貴方を呼んだのは調査の依頼よ」
その一言でアイリーの思考が切り替わる。
「調査依頼なら通常の連絡ルートに乗せてもらえれば済む話だと思いますが?」
「見て欲しい資料があるの。思考通信で視覚同調回線を開いて」
アイリーが目の前のフィギュアロイドに思考通信の深層回線を開いた。




