27‐ テレサの驚愕
『リッカ? なにニヤニヤしてる?』
『してねーし?』
テレサに自分の考えをオープンにしていたリッカがアイリーの言葉で我に返る。アイリーにも聞こえる範囲での会話も続けなければいけない。
アイリーは‟なぜ自分がこんな目に遭うのか”と嘆かないのか? テレサはそう訊いてきた。
データパッケージで送信した本心とは別にリッカは胸を張ってテレサに宣言する。
『多くの人命が危険にさらされるのなら!!そのリスクを排除するのが事故原因調査官の仕事だからね! 虐殺阻止はアイリーの本業だよ!!』
そんな簡単に。
システムエラーを正せばリスクが減少する事故防止対策ではない。アンチクライストが仕掛ける虐殺とは最先端の軍事力と科学力を以てしても対抗も逃亡も出来ない大虐殺だ。
この子達、本当に分かっているの?
テレサの驚愕を無視してリッカがさらに続ける。
『それにアイリーはジューリアが巻き込まれて死んだ事を後悔しているんだよ。事情を知らない人が記録映像だけを見たらジューリアは最初の加害者って誤解されるかもしれない。アイリーは遺族に彼女には何の過失もなかった証を伝えたいんだよ』
『実際に大量殺人を始めたエレメンタリストからハリストスと指名されて、もっと大きな虐殺に巻き込まれる事がほぼ確定してしまっているのよ? 一方的な虐殺よ? 叫喚鮫の映像を見たでしょう?』
リッカが短く笑って答えた。
『でも誰かが何とかしなきゃでしょ? テレサはわたし達に感謝しても構わないよ?』
リッカの思いを知った上でテレサがゆっくりと頭を横にふった
『すごいわ…… アイリー。貴方は既にアンチクライストと対峙する覚悟を持ったのね?』
テレサの言葉にアイリーの顔から表情が抜け落ちた。
意表をつかれた言葉だったのだろう。
『そんなつもりはありませんよ? 過去に出現したアンチクライストと俺を襲撃したエレメンタリストでは殺傷能力の規模が違いすぎる。今回は自意識過剰のエレメンタリストが勘違いを起こしただけというのが現実的な推測じゃないですか? 人選のセンスも酷い。俺は何の力もない一般人です。本物のアンチクライストが受け継いでいるであろう情報を手に入れた上で勘違いを正して動機を挫くのが俺の考えている方針です』
『はあ?』
まだ話題に出してはいなかったがテレサは過去に出会った歴代のハリストス達の顔を思い出す。こんなに後ろ向きでやる気のない黙示録を描いたハリストスはいなかった。




