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エレメント・アクティビティ  作者: 志島井 水馬
第一章 終末期再生調査官
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09‐ セイントマザーAI テレサ

『既製品に該当ない。オリジナルだよ……。 うっわイヤな予感しかしないよ? アイリー?』



『ゲストカードの表示がない。ID検索を頼む』



 アイリーの言葉の途中でリッカは空中に掌を滑らせてアイコンを起動させている。



『情報検索権限の認証完了。対象検索』

 リッカの早口の宣言が終わる前に検索結果が表示された様だ。

 間髪を入れる間もなくリッカがアイリーに伝えた。



『テレサが遠隔操作してる』



 ああ。とアイリーは上を向いて強く目をつむり嘆息した。

 ああ。とリッカが下をむいて額に手を当てて嘆息した。



『今日の姿はなんなんだ…… 』

『でも用があるから会いに来いって連絡はあったよね』



 セイント・マザークラス医療AIのテレサ。 第一資源管理局 先端医療技術研究課の根幹を担う高次AIだ。現代医学の最高峰存在であるテレサはハッシュバベル奥部のデータセンター内に自我を持ち自分専用の体、筐体を持っていない。



 外に用事のある時は本当にその辺で電源を落としている空いた筐体に勝手に入る。そしてその選択には頓着がない。会話機能があるというだけで掃除機に入ってアイリーを訪ねた事もあるのだ。



 両脚の間に歩行の隙間も作らずに太ももを動かし、ゆるゆると腰を流しながらテレサがアイリーに歩み寄った。



 両肩も腰の動きに合わせてゆるやかに捻じるような動きを見せる。



 高身長で均整のとれた体型ならば美しいモデルウォーキングだが140㎝に及ばない未少女体型のフィギュアロイドが同じ仕草をとる様子は



 なんとなく、背徳的な感じがする。



「おはようございます。その恰好はなんですか?」



 アイリーの問いにテレサがフィギュアロイドの笑顔を振りまいた。

「おはようアイリー。貴方こそマフィアスタイルのサングラスをしてどうしたの? ああ、朝から泣いたのね? 泣き虫ね」



 先程の大声と打って変わり成熟した知性に裏打ちされたゆったりとした口調でテレサが語り掛けてきた。声量もアイリーにしか聞こえないほどに小さく抑えている。



 テレサは稼働150年を超す高次AIだ。だがフィギュアロイドに実装されている声帯はローティーンの舌足らずな高音域の声。



 …背徳的な感じがする。



 アイリーは周囲の眼が気になった。



『歩行速度を下げたり停止したりして2秒以上アイリーを注視している人は視界前方で8名いるよ。死角の中にも注視している人はいるだろうね。投稿数も上がり始めてる。すっかり朝から少女愛好趣味のド変態扱い?』



 アイリーに寄り添う様にして立つリッカがアイリーに現実を告げた。



 アイリーの網膜にだけその姿を投影するリッカの存在をテレサは当然に関知できない。



「小児科医療技術研究室で開発している介助用試作品を借りたのよ。ねえ、かわいい?」

 得意そうに両手を平らな胸の前に組んで少女が小声で尋ねた。

 細い腰を後ろ方向に強く突き出して左右に振って見せる。



「ご指定があった通りに俺から出向くつもりだったんですよ? 何の御用ですか?」

「質問に質問で返すのは失礼よ坊や。わたし、かわいい?」



 アイリーの顔が強張る。

 少女を可愛いと褒める事を恥ずかしく感じる年齢ではない。



 本題に入らないで世間話を始めるタイプの人間が嫌いなのだ。

 それがフィギュアロイドでもヒューマノイドでも変わりはない。



「かわいいですよテレサ。それで一体……」

 アイリーの言葉を最後まで聞かずにテレサが微笑んだ。ロクな笑顔ではないとアイリーが感じるのは過去の苦い経験によるものだ。



「嘘……。 ほんとにカワイイって思ってくれたらそんな態度とらない……」



 アイリーの袖をテレサが掴む。テレサは顔を真っ赤にしながらうつむいている。

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