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ガガガ

「ガガガ」

あの世 輪太郎


夜は暗く

朝は明るく

人の心は


腐ったような外装が

辺りの家々の壁を彩っている

「で、君が、新入警官佐々木 野五路君ですか」

隣で、制服を着た猫が、髭をだらりと伸ばし

若い男に聞いた

その男の目は、ビー玉を、裏側から懐中電灯で

光らすように輝き

口元は、意味のない余裕が、緩み出ている

「はい、本日より入隊します

佐々木 野五路です よろしくお願いします」

町は、がやがやと忙しく

誰もが誰かをみてはいない

そんな中、厚手のコートを男が、ふらりと現れる

「おい夜見野」

猫はそう言った次の瞬間には

男は、若者の顔を壁に押しつけて

目を、のぞき込んだ

「君は、幸せかい」

若い男は、うなずこうにも

ぴくりとも動かない

「君は」

男の目がのぞみ込む

眼球の網膜同士がぶつかりそうになる

若者は、それでも、目の光を、失わなかった

鮮血が、一瞬 壁を舞う

夜見野は、きびすをかいしたように

後にする

「そんな顔をしていると、黄泉の明かりが、激しく写る」

汚い壁に、寄っかかるように

若い男は、両目から、血を流し突っ伏していた

「おい、よみの」

猫が、そう叫ぶが、そこに、よみのの姿はどこにも確認できず

雑多な人の足音が、わらわらと、辺りに響く


1「手術」しゅじゅつ


「それで、目の方は」

もうだめですなと言う意味を込めて

医者は、首を横に振る

「よみの奴め、こんなことが、まかりい通ると思っているのか」

猫は、ふさふさの黒髪を、マスクに隠して

そうつぶやく

「義眼の方は、どれくらい」

医者は、紙の箱を、猫に渡す

最近は、ただの形だけってわけではないですが

それでも、ぼんやりと、辺りが、見える程度です

まあ、これなら、見えない方が、聴力の発達を、促し

よっぽどはっきりみえますが

彼は、すぐにでも、仕事をしたいとおっしゃっていますから、これになります」

「そうですか」

黒猫は、ちらりと、手術台を、見て、外に出た


「しかし、きりがないな」

コーヒーを片手に、黒人のこびとあの夜輪太郎が

紙の束の溜まった机をみる

しかし、それは、丸く黒いサングラスにじゃまされて

感情を読みとるには至らない

「まあそう言うなよ、仕事をこなすしかない」

トロ船の二倍はありそうな水深の水槽に座り

ゴミ袋のかけてあるパソコンを打つ少女

凶乞 骨湖 きょうこつ ほねこ

が、そう言うと

「違いない、しかし、どうして、まだ紙の書類を

作るのか、俺には理解できないね」

そう言って、あの世は、紙に、鉛筆を走らせた

「そんなの簡単じゃない、ルールよルール

それがないと、人間、自分が立つことさえ自分でできないんだからさ」

彼女はそう言うと、水槽の縁に腰を下ろし

タオルで拭き始めた

「もう帰るのかい」

ええ

彼女はそう言うと、コートを羽織って

外に出た

「はあ」

燦々とした事務所で、一人コーヒーをあおっていた

男が、ため息をはく

暗い室内で、男の目の奥がかすかに

青白く光った気がした


2「事件」じけん


「それで、僕はなにを、すればいいのでしょうか」

猫は、男に、もう二三日休んでいてもいいことを

伝えるが、男は、青一色の目を猫に向けて

問題ないと話した

「しかし、悪かったね、あいつは、問題なんだ」

「大丈夫です」

男は、そう言うと、二人で、事務所に入った

「やあ、おはよう」

猫が室内にはいると

部屋には誰もいない

代わりに、猫の机に、大量の資料

「じゃあ、とりあえず、君には、簡単な雑務の説明をするよ」

この場所は、未確認の事件に発展しかけない

そう、この世の中の法律で、裁くことのできない案件

まだ、立証の取れない危険な行為を、調べ

それを、取りやめるために設立されたんだ

「はい」

うむ、猫はうなずいて、コーヒーを入れると

氷を、自分のコーヒーに

もう方をほう、若い男の机においた

「どうぞ」

若い男は、それに手を付けず頷く

で、ここでやることは、

世の中で事件が起こり

その根元が、どこにあるのか

人間の人生を、バラバラにして

その一つ づつの根元を調べるんだよ

ありゃ、根元二回言っちゃった

「それで、僕は何をすればいいのでしょうか」

猫は、簡単だよ、そう言って

自分のところに届いた

資料の一枚を、手に取ると

男の前に、置く

「これは見えるかい」

男は、頷く

「この男は、12歳までの少女を、監禁

体中切り刻んだ上に、自分の家のお墓に、生のまま

遺棄していた

その数十六人

君には、彼の食生活から、調べて貰う」

「なぜ」

「仕事で、疑問など必要ない

それは、趣味の時間でいい」

「しかし、その程度のことなら

ロボットでも」

最近では、その人間のDNAを、調べるだけで

その人間の今まで食べてきたものの

食品が、わかる程度には、情報量が蓄積されていることが

わかっている

しかしだ

その食品が、安全なのかどうか

そんなことはわからない

今飲んでいるコーヒーだって、同じだ」

そう言って猫は、コーヒーをぺろりと舐めた

「じゃあ、よろしく頼むよ」

しかし

「しかしなんかはない

それが仕事だよ」

若い男は、手に持った資料を持って

資料室にいた

そこには、見渡す限り

膨大な紙の束が

自分の身長の何倍もある高さの棚に無限と思わしき量が、陳列してある

「これすべてですか」

猫は頷いた

「まあ、やり方は、言ったとおりだ

わからないことがあるなら聞いてくれ

紙の予備は、そこの机

それがなくならないとは思うが

なくなれば、奥の倉庫だ

この事件で、書き換えが、必要になったものが

1016件ある

すべてが、同じ食品を、口にしていた

それすべてを、一応調べること

時間は、五時まで

残業は、出ない

それじゃあ、気楽に」

猫はそう言うと、長い長い階段を、上に登っていった

ぼやけたような視界の中で、男は、横に揺れるしっぽを見た


男のやることは、チェックしてある事件の項目に

赤イチゴと言う単語を、書き足していくことだった

要は雑務なのだ

気づくも気づかないも

こんな膨大な資料一々比較しようがない

しかし、男の場合は、違った

パソコンのように、その頭は、機会仕掛けのように

すべてを、暗記しており

ぱらぱらと紙をめくるだけで

そのすべてを、暗記することが出来た

しかし、出来たからと言って、そこに、共通点があるとも思えない

大体食品に、難があるとも分からないのだ

やはり

「おい、暇そうだな」

その取り留めもない声は、最近聞いたことがある

「よみの」

「ああ、すごいだろ、この膨大な無意味な資料

パソコンで、糸道は、いくらでも見つかる

でも、誰も逮捕しないのはなぜか知っているか」

男は黙る

「金がないんだよ

この世の中の大半が、犯罪者になる種を仕込まれている

そんなものを、逮捕して見ろ

この世界は回らなくなる

しかも、社会のトップは、そんなものの巣窟だ」

「じゃあ、ここでやってることは」

「そうだ、無意味だ

世の中は、常に、新しくなっている

やっていることは、昔と代わりはないが

しかし、その邁進は、追いつくことをさせない

常に新しい犯罪が、生まれては、その殺意を伝染させている

俺らがやろうとしていることは、そう言う芽を潰すことだ

毒すまえに、毒される前にな」

「そんなことが」

「やりゃなきゃならならんだろ

悪意と善意なんて大差はない

だから人は無関心に閉じこもるしかないんだ」

あの世は、そう言うと男の顔をのぞき込んだ

「この世を信用するな」

男は、ただ、このめを奪った奴に、どう仕返ししてやろうかと思ったが

振り上げた拳は

回し蹴りで、床にたたきつけられた

「希望を持つなと言ったのに」

男はそう言うと、男に、一言「じゃあな」

と言うと、棚から資料を調べ始めた

「いたい」

若い男は、冷たい床に、寝そべりうずくまっていた


「おい、腕が折れているぞ」

猫は、医者にそう言われ

ため息を、ついた

「また、あの世に、やられたのか」

男は、頷くと

さらに、ため息をついた

「おまえ、何かしたか」

殴ろうとした胸を伝えると

「なあ、幸せとは、何だと思う」

猫は、若者に聞いた

「それは、慎ましい生活をすることです」

「うむ、でも、それが一番難しいとは思わないか」

「なぜです」

「簡単だ、誰も、そんなことが、分からなくなっているからだ

すべて自分本位

これを、学歴社会の弊害と呼ぶ」

「そうでしょうか、そんなものがなくても

人間は、自分本位です」

医者に、ギブスを、巻いて貰った男を乗せ

黒猫は、一人夜の道を運転している

「君は、大勢の人間に会うのと

少数の人間に会うのどちらがいい」

男は考え答えた

「多ければ、人は、

色々な道に進みやすくなります

しかし、少なければ、視界は狭くなります」

黒猫は

「そうだろうか」

と言う

「人は、人を、必要としなくなったとき

それは、自滅の道を進んでいるような気がするよ

小さな集落 孤立した島では

個人は個ではない

それ故に、圧倒的な自由とも取れる」

「では、発展よりも、不自由を、取るのですか」

「いや、自由とは、時として大きな代償を払うものだ

それは、個なのか他なのかは知らないが」

「何の話か見えてきません」

「ああ、俺もだ」

さぶい町を黒塗りの車が走った


3「だいいちの事件」だいいちのじけん


「それで、あの世の状態は、どうなんだ」

黒猫の言葉に骨子が、電話を片手に

「それが、片足を、砕かれているようで

問題は、その出血量が、辺り一面にまで、覆っているそうで、生死はもとより、生きていたとしても」

「そうか」

黒猫は、コートを取ると

場所を聞いて出かけていった

「あいつ、なんか、事件に、首を突っ込んでいたっけ」

首を傾げる骨子

「ねえ、新人君、骨折の方は大丈夫」

若い男は

「ええ」と言うと

階段を下りた



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