・初心者の酒場
「来たか。
要塞落とし」
「要塞落とし……?」
泡が溢れるビールジョッキをドッコンと卓上に叩きつけて、
あの黄金の騎士が豪快に足を組んで背に凭れている。
「お前の二つ名だよ。アズル・アズアール。
マキナの要塞を単独で墜としたお前には「要塞落とし」という称号を授けようッ!
ウィックッ♪」
シャックリを飛ばして酔っぱらっている黄金騎士は、
実は酔っぱらってはいない。(どっちだよッ!)
「ノンアルコールだッッ!!!
ウィ~、ひっくッ。
へへへ~、気持ちがいいぜ♪
このままここで寝ちまうのもいいかもな?」
「下品は許しません。ギルガメス」
黄金騎士の悪態に皇女がねめつける。
「ひ、皇女さまっ?いけませんっ。
帝なる国を背負って立つお方がこのような掃き溜めな場などにッ!!」
「掃き溜めで悪かったですねッッ!!」
ズドンと新たな8本のジョッキを片手で叩き置いて、
この酒場の看板娘が、ジロリとこちらを見る。
「私の名前……まだ考えてないの?」
……ドキリっ!
だって、もうすぐ完結なのに、
そんな女の子の名前なんていちいち考えてられないんだモンッ!
「……不遇だな、娘?
だが気にすんな。オレも女なのにギルガメスで終わりそうだ。
まったく信じられねぇ作者だよなァッ?!!!!」
お淑やかな女性らしくガハハハハと豪快に笑って、
アズルたちにも円卓のテーブルに着くことを薦める。
「おい、嬢ちゃん。緑豆、三つなっ?
あと手羽先もだッ!!!
やっべ、食事を書いちまってるぜ?
どうする?
出てきた緑豆や手羽先が、
いったい何粒ゆでられて、何本揚げられて死んでるか、
数えてみるか?」
楽しい酒宴を一気に、いらない事まで考えさせて地獄に叩き落として、
場を沈黙させる。
「なんだよ。食事中にこんな話されたぐらいで辛気臭い顔すんなよッッ!
で?なんだっけ?
あ、そうそう、話の続きだったな?
まずネタバラシからするか?
オレたち、マキナの要塞側に組した帝国騎士たちの主な目的は要塞に侵入してくるバカ達の迎撃だった。
その為の力は、探査中だった要塞の機械のヤツラに与えられた。
その時に他のことも色々と教えてもらったぜ?まあ、詳しくはもう世間的には公表したから言わねえがな?
そんで機械のヤツラの目的は「ある人間」を身近で観察する事だった。
そのある人間の中の一人が、運悪くウチの皇女様だった、ってワケだな。
そんな理由で、おれたちが母国を襲撃してかっさらったと。
皇女が「ある人間」として機械たちに認識された理由は、
どうやら人間には「二つ」、機械では絶対に持てない性質がまだ残って持っているらしい。
その二つの内の一つが「自己増殖」だ。
機械は「自己増殖」をしない。
何故なら機械は一体で「自己完結」しているからだ。
『増える』という機能や意思までは持ちあわせていないんだな。
機械側から見ると、人間や他の生き物のこの「増える」という挙動が「自然に出てくる」ことが「不思議」なんだそうだ。
これが機械だったら、増えるにはその機能をわざわざ「作為的に付与」させなくてはいけないからな?
だから、なぜ?人は自然と増えようとするのかがわからない、ってな具合なのだろう。
機械たちは自分たちを自然に増やそうという意思を持てない。
そこに苦悩している様子だった。
で、残り二つ目だ。
二つ目は、この世界、ハイファントに住む人間特有のモノだ。
ハイファントの人間の中では時折、意思だけで世界に触れてしまうヤツが出てくることがある。
お前もその一人だ。アズル・アズアール。
お前は意思だけで世界を斬ることができるそうだな?
機械はお前にもある程度、関心を示していたが、その力はやっぱりあまり興味も無い分野だったようだ。
皇女さまの場合は「拒絶する」力だった。
近づく物や触れる物を弾く力だな。
要塞までお連れするのは大仕事だった。体が機械にでもなってなければ無理な話だったが。おっと?今はもう元通りの人の体だぜ。
機械たちの技術はなかなか凄くてな?機械の体になったり元に戻ったりはできるんだよ。
まあ、おれはどっちの体でもいいんだがな?
幸い皇女様の力はまだ弱かったから要塞の中で観察できたってワケだ」
「それで機械たちは、もう気が済んだのか?」
魔王少女の問いに黄金の騎士は頷く。
「ああ。あらかた欲しい情報は手に入れたようだ。
ま、情報を手に入れたからどうだってわけでもないらしいんだがな?
満足したヤツラの、その後の事は知ってるだろ?
大地に墜ちた要塞ごと活動を弱めている。
機械たちはオレたち人間に興味がなくなっている。
ヤツラが何を考えているのかは今も分からないが、今の所はお前に落とされて満足しているようだぞ?アズル・アズアール」
黄金の騎士がアズルを指差して、せせら笑った。
「もう一つ聞いておきたい。
キサマ、交戦中に第三惑星地球史をリアルタイムで知っていたようだったが、どういうカラクリだ?」
魔王少女の視線に黄金騎士はおどける。
「別にこれだよ。機械技術のタブレット端末だ。
これの小型化したヤツをオレも持ってたってワケだ。
第三惑星地球史を発行している世界樹書杜は世界樹ヤギドラシルにある。あ、これも名前変えたぞ?ヤドギラシルからヤギドラシルに変えたからな?
で、このヤギドラシルが最近、電子書籍配信も始めててな?
その第三惑星地球史を電波配信ならぬ魔波配信でリンクで繋げてリアルタイムで受信していたってワケだッ!
これでいいんだよな?挫刹ッ?」
黄金騎士が著者であるワタシに確認をとってくる。
……うーん。
えっとぉ?
お前が出てくるとオレも地の文でセリフを言わなくちゃいけないから、
やめてくんない?
「ああ?そんな調子のいいことが通るとでも思ってんのかッッ?
丁度いい。
お前、お前の現実世界の所の中国の香港、知ってるか?
なんか最近、香港が動いたな?
そんで香港の民主派のリーダーの一人らしいベッピンな若いネーちゃんが何か健気に少数民族の言語である日本語もわざわざ使って自分たちの意志の主張をしたらしいじゃねえか?
あれ、日本人のお前へのラブレターじゃねぇの?
なんか答えてやれよ?」
黄金騎士がワタシにヘラヘラ笑ってせっつく。
……。
では一応、キマリが悪いから言っておくが、
2019年9月8日現在の香港市民と香港政府へ。
ワタシ、
挫刹は、この9月4日にあった、
「条例の撤回」を表明した香港政府と中国政府の対応を『評価している』。
繰り返す。
ワタシは「撤回」という選択をとった香港政府と中国政府の対応を評価している。
この言葉の意味を分かってくれるか?
香港市民?
今度は、君たちが止まる番だ。
繰り返す。
今度は、君たちが止まる番だ。
止まれるか?
デモ?
止まってもらえるか?
ワタシは「撤回」という「止まる」選択をした香港政府や中国政府を評価している。
そして、もっと言うなら。
今も止まれずにデモを続けている君たち民主派「よりも」評価しているッッ!!!
これがなぜか、分かるか?
香港政府や中国政府は「止まった」からだッッ!!!
ワタシはそれに対して、正当な報酬と対価を払わなければならない。
それが、ワタシからのこの「今回の評価」だ。
だからこそ、デモを続けている香港市民へ。
ワタシは、君たちこそを「評価したい」
今回の香港政府や中国政府よりも「評価したい」のだッッッ!
だがッッ!!
それには君たちも「止まる」必要があるッッッ!!!
ワタシ、挫刹に評価されたいのならば「止まる」ことだ。
デモを止めて欲しい……。
できそうかい?
もちろん、部外者の私の評価など要らないというのなら、それも当然だ。
だが、今の私は、
先に止まった、市民を管理したい香港政府や中国政府こそを評価している。
君たち民主派よりもだッッッ!
君たちはそれでいいか?
そのまま、
君たち、民主化を訴えている側が「止まらない」つもりか?
……では、少し話をしようか?
君たち香港の民主派には、君たち民主派が気付いていない「財産」に気付いてほしい。
君たちには「五つの要求」があったそうだな?
「条例の撤回」はそのうちの一つに過ぎない。と?
……では訊こう。
その他の四つは……「今」でなくてはダメか?
「急がなくては」ダメなのか?
「急ぐ」程のモノかッ?
また他の市民を危険に晒してまでッ!
他国の観光客に不自由を強いてまでッ!
デモを続けてまでッ?
「急ぐ」ほどの事なのかッ?
ワタシは……、
君たち香港の民主派の人々に「黙ってくれ」と言っている訳ではない。
「声は上げたままでいい」
「黙らなくていい」
そこで「叫んでいい」から……、
まずは「止まって」欲しいのだ……。
仲間を返してほしいなら……、
君たちは「一般市民」と同じように止まるべきだ。
止まってから、返してほしいと訴えるべきだ。
それでも自分たちの香港政府は信用できないか?
本国の中国政府が、どうしても信用できないか?
そんな無防備な言葉は、
自由な普通選挙ができている平和ボケな日本に住む、
幸せな日本人の妄言でしかないか?
では、
普通選挙ができない君たち香港市民には?
安心して普通選挙が出来るこの日本国での、ありきたりな日本国民の「悩み」は分かってもらえるだろうか?
現在の普通選挙で選ばれたハズの日本政府を、
日本国民が支持している主な理由が何であるかが分かるだろうか?
教えてあげようか?
それはね?
〝他にいい政党がない〟からだよ?
『他にいい政党がいない』から?
現在の日本政府は「とりあえず」選ばれているだけなのだッッッ!!!!!!
これほどの、平和な日本市民の苦悩を分かってくれるだろうか?
今の香港市民の君たちには?
君たち香港市民には?
もう少し「普通選挙」というものが、どういうものかを知ってほしい。
君たちはどこか、「普通選挙」というモノに夢を見過ぎているフシがある。
君たち香港市民は?
「普通選挙」というものを誰から学んだ?
それをどこから学んだ?
香港は、中国の前はどこの国の街だった?
その国では今、何が起こっている?
民主主義のはずの普通選挙や国民投票の結果で、
『国民は騙されていた』とか言っていないかッッッ!!!!!!!
……。
やはり忠告しておこう。
君たち香港市民の民主派の残り「四つの要求」は「急がない」方がいい。
ワタシは、それらは「ゆっくり」でいいと思う。
「ゆっくり」そして「確実に」歩むべきだ。
だから今は止まってほしい。
声を上げたままでいいから、止まってほしい。
無くせとまでは言わない。それはワタシの実利でもない。
だから、声は上げたままでいい。
でないと私にもその叫び声は届かないから。
だが、止まって欲しい。
できそうかな?
ではここで、
もう一つ、「いいコト」を教えてあげよう。
君たち、香港の声は、
日本にとっては「沖縄の声」だ。
例えを出そう。
知っているだろうか?
日本では今、沖縄での在日米軍基地の辺野古移設の問題がある。
例えばだ?
仮に今ここで、
現在の時の日本総理大臣が辺野古移設を取り止めたと表明したとする?
するとその時に、「沖縄」は何を言うと思う?
……。
……今の君たちと一緒だよ?
今の君たち香港市民と完全に一緒だ……ッッ!
『決断が遅すぎたッッ!!!!』と、きっと必ずそう言うだろうッッ!
……。
……でもね?
ワタシは「違う」んだ。
日本の本土側に住んでいて?
香港から見れば他国に住んでいるに過ぎない私からすると、違って見えるんだ。
ワタシは今、こう思っている。
『間に合った』と。
ワタシは「間に合った」と思っている。
君たちはどうしても「遅すぎた」と思っていることだろう。
だが、
部外者のワタシからは「条例の撤回」は「間に合った」と思っているッッ!
『間に合ってくれた』とッッッッ!!!!
取り返しのつかない事態になる前に「間に合ってくれた」とッッ!!!!!
その為に、
君たち香港のことは、「間に合った」とワタシは理不尽でもそう思っている。
そして「間に合ってない」のが今の沖縄だ。
だから君たち香港には「沖縄」の先例になって欲しい。
「間に合った」のだと証明してほしいッッッッ!!!!
その為にも……、
今も続けている、そのデモは今は止まってもらえないか?
きっと出来るはずだ。
なぜなら、今の君たち香港には、
今の沖縄でさえも手に入らないものがあるからだッ。
いるだろう?
市民の為に止まってくれた「政府のトップ」が?
その人を大事にしろッ。
その人の存在は普通選挙では手に入らないぞっッ!!!
普通選挙では手に入らない人物をッッ!!!
もう、既に君たちは手に入れているッッッ!!!
市民の為に「自分を止められる」トップは貴重なのだッッッ!!!
それは「普通選挙」ができる国に住むワタシが断言するッッッ!!!!!
「止まる」ことは失敗にしか見えないし、成果としては見えにくいだろう。
だが、それでも、「自制」が出来る政治家は貴重なのだッッッ!!!!
ワタシは、君たち香港市民がうらやましい。
自分から止まることのできた君たち香港政府のトップは、
君たち香港市民が誇るべき、かけがえのない貴重な財産だと私は思うからだ。
……デモ、止まれるかな?
ゆっくりでいい。
だが、確実に止まって欲しい。
止まれたら、ワタシは喜んで君たちを評価しようッ!
君たち香港の民主派が、暴徒ではなく一般市民であることをワタシに見せつけて欲しい。
他にもワタシは君たちに色々と期待をしている。
チベットにウイグル……。
親である本国を嫌悪し憎む君たちには彼らの「叫び」が分かるだろう。
だが、彼らにとっては君たち香港市民も、やはり同じ「加害者」側でしかない。
ワタシは、香港が沖縄に見えている。
チベットは広島で、ウイグルが長崎だ。
この言葉の先は……君たち香港市民の手で想像して実現して頂きたい。
非常に困難で険しい道だが。
ワタシは君たちに期待をしている。
日本は日本で、沖縄と広島と長崎を一つにする事が先決であり重要だ。
もちろん平和によって。
香港には、中国でのその役割を期待している。
ワタシは、内政干渉はあまりしたくはないのだッッ!!!
ついでに話を変えて、
国際社会の諸君へ、
いい加減、
ワタシのこれらの言葉は、
君たち平和を重んずる国際社会の国際世論から聞きたいものだッッッ!!!!!!
ワタシをこれ以上、失望させてくれるな。
あとアメリカへ。
イランについてだが?
イランと会話をしたいなら、
まず貴様が核合意に戻れッッ!!!
それが絶対の必要最低条件だと私は考えている。
ワタシに評価して欲しければ、まずは核合意に戻る事だ。
それをしない限り、話は進まない。
有事だけが進む。
断言しておく。
大国アメリカの思慮を見せて頂きたい。
敵と平和でいたいのならば……。
「……んで?
話、終わった?」
手持ち無沙汰に、ワタシのうんちくに飽きてきた黄金騎士が聞いてくる。
……、
話が終わったどころか、
この回のお話も、これで終わらせたいのだが……?
「ち、
じゃ、しゃーねーなー。
こっちはこっちで宴といこうやっ!
あ、画面の前のお前ら読者はお預けな?
んじゃ、バイビーーーーーーーー♪」
笑って手を振って、
今回の話はここで終わった。
(※お好きな次回予告BGMを鑑賞しながらお読み下さい)
【次回予告】
やっと週一回の更新に戻ったと思って油断をしていたら、
結局、更新期限に追われているこの不始末。
やっぱりワタシには更新不定期が性に合っているようで……。
……おや?なんだか読者のみな様からの視線が痛い。
あの~、一ついいでしょうか?
これから現実で何が起こってもワタシはもう反応しませんよ?
もう反応しませんからねッ?それ、ちゃんと言っておきましたからねッ?
次回! なんかプレッシャーに感じている かんたんファンタジー 第63話!
『本当に書きたかったこと』
そうです。
私がこのファンタジーで本当に書きたかった事は「現実」の事ではないのです。
(デン♪デンデデデン♪)




