・子午線の祭り
黒龍よりも、気持ちだけ遅い速度の集中線から、
景色が切り替わって、
雲を抜けると、飛空艇の大群の上空へと出た。
「あ、あれはッ?」
「姫さまだッ!戻って来られたっ」
「用意しろっ!お出迎えするッ!」
「構わぬッッ!!!!」
怒鳴って天空へと上昇した赤い流れ星から、
三つの人影が舞い降りた。
「お出ましになるッッ!!!!」
その言葉で、
スト、すと、ストンと少年少女たちが着地するッッ!!!!
紫色のマントが翻った。
紫のマントは魔王のマント。
和服に袴姿の黒髪美少女のマントだった。
「ご命令をッッッ!!!!」
怯みながら立ちあがった青いマントの少年を真ん中にして、
魔王の少女と聖女の少女が両端で片膝をついて跪くッ!
ここに絶対的な主従関係が決まった瞬間だった。
「……帰っていい?」
その一言で、現場の空気が凍り付いたのは言うまでもない。
「……もう少し空気を読んでもらえないか?
このヤロウな未来の夫よ……」
「ひ、姫さまッ?なにをッ?」
少年の立っている位置から右側の軍勢は何やら黒い鎧や衣でいっぱいだった。
雰囲気の物々しさからいって、
右手側に展開している軍が魔王軍といったところだろう……。
「現在の状況は?」
「見ての通りだ。
五対五で聖軍と我が軍が半々で戦線を展開している。
総勢は約一億二千万人強!!!!!完全な国民総生産戦力だッッッ!!!
残りはここより少し上空で人間どもによる、少しは戦力になりそうなヤツらがチラホラいる。
本来なら、オレさまの首を狙ってくるハズの勇者どもだっ」
いきなりオレっ子になった魔王少女から視線を外して、
空を見上げると確かに、
ここよりもさらに上空で数人規模のパーティーが固まって空中で待機している。
「……おい、あれって」
「ああ、あれは……アズアールか?」
……まずい、どうやら顔見知りがいるようだ……。
知らないフリをしておこう。
目を正面に戻すと、
地平線の彼方から、
足元のここまで、雲の流れのように、
遺跡とでも言えばいいのか、
空中に浮遊する数え切れない小島が諸島となって、右から左へとゆっくり移動している。
「あれ、どうなってんの?」
「敵の本拠点を中心に離れ小島が小惑星群のように浮遊しているのです。
右から左へ時計回りで。
ここから敵本拠点までは距離にして約360km。
これ以上近づくと攻撃されます」
ということは、
ここまでが敵にとっての攻撃可能圏外ということになる。
少年は剣を抜いた。
「陣は鶴翼。
このまま真っ直ぐ突き抜けて、中央を突破する。
ヒビキ、お前は高空で待機だ。情報をぼくに寄こせ。
両翼内の綱紀は、両名からの直言を許す。
鶴翼の綱紀を改めよ」
「承知ッッ!
鶴翼、右翼は魔軍アンゴリアーダが綱紀するッッ!」
「畏まりました。
鶴翼、左翼は聖軍ロステリーザスが改めます」
魔王と聖女が、
命令を放つ少年に付き従う。
三人が立っている場所は空中の小島。
敵本拠点からの公転軌道同期圏内から外れた、空中に静止する小さな島だった。
「姫さまっ!危険です、お下がりください」
「告下、同感です。騎士軍にお戻りください」
「よい」
「構いません」
「姫ッ」
「告下ッ」
「くどいぞッ!
黒騎士団、暗黒騎士団の各長は右翼にて左右に部下小隊を展開配置ッ!
急げ!
我に続けッ」
「告げます。
各白騎士長、聖騎士長に伝達、聖地聖騎士団の長は速やかに陣頭配置へ。
妾が一生に慕う主は、鶴翼は陣の最先端、首鶴を担う。
わかりますね?
我が契る夫は一点突破をお望みです。
主命は鶴翼といえど、左翼の形状は魚鱗を維持。鶴翼魚鱗型。
これは間違えなきように」
「……は」
「ははっ」
「ゆけッ」
「よきにはからえ」
腕を払って命じる魔王。
いつまでも手を前で組んで目を瞑っている、お淑やかな聖女。
「いつでもよいぞ?
アズル・アズアール。
踊ろうではないか?
私はいつでもキサマと踊れる」
言って、
魔王は戦闘用の黒い皮手袋を両手に填める。
代々、魔王だけに着用を許されたM12級専用装備「千年掌」。
そして、
紫色の着物を、バッと脱いで振り払うと、
中から聖女と同じ、胸だけしか隠れていない、
背中も脇腹も小さな胸の谷間も地肌で曝け出した襟首からが帯だけの黒い拳法着ドレスを曝け出した。
「ふん、やはりこうでなくてはな。
久々に全力を出すか」
「回復はしてあげますが、補助まではしませんよ?
周りを見失うのもほどほどに……」
千年の歴史を背負う、
魔王拳士は魔法拳士。
そして、
千年の歴史を誇る聖地の聖女は、
回復役の僧侶ポジション。
これで念願のパーティーの仲間は出揃ったッッッッ!!!
「じゃあ行くけど……あんまり期待しないでよ?」
頭を掻く、
鉄の剣と布の青マントと布の服で、
戦争を完全に舐め切った初期装備しかしていない少年が呟く。
全員が前を見た。
「進めッ!」
目指すは、決戦の地へッッ!
【次回予告】
「……敵陣地に人影を確認、魔王と聖女が帰還したようです。
あと見慣れない人間が一人」
「やっとか。魔王と聖女が連れてきたのは奥の手かもな?体で釣ったか?」
「敵編隊に動きあり。推定陣形は鶴翼の陣。どうします?」
「敵陣攻略に鶴翼の陣だと?孫子の兵法も知らねぇのかッ?」
「孫子の兵法って何ですか?」
「孫子の兵法ってのは陣形運用専門の超強力な戦術指南書だよッ!常識だろッ?」
「……(たぶんちがうな)……。それよりこちらはどうします?」
「オーロラ・ロードを開けろ。道を作ってやれ。鶴翼で来るなら鶴首を潰す!」
「著作権的にもいろいろマズイ気もしますが、初動の指示をお願いします」
「ハゲの御大で著作権のもめ事は聞いたことねえな。と、ミノフ節、戦闘濃度散布!
世界樹ヤドギラシルとはリンクしたままでいいッ。
威嚇用の艦砲射撃後、3.04秒後にショックウェーブを準備。
その間に全騎士団は出撃シークエンスだ。ブルーナイツとレッドナイツが先発。
主砲は別箇、俺が出撃した後でエネルギー充填を開始。俺の合図でぶっ放せッ!」
「艦砲射撃30秒前」
「敵が鶴翼で来るなら、こっちはパンツァー・カイルで迎え撃つッ!
準備はいいな?」
「それも孫子の兵法ですか?」
「当たり前だろ!定石だッ」
「……(ぜったい違うな)……」
「ゴールド・ナイトッ!
エンキドゥ・ザ・ギルガメッシュ・バビロッ!出るぞッ!
闇歴史ッ!
艦隊戦もないリアルロボットアニメは全てがクソだという事を教えてやるッ!」
次回! これはロボットアニメではない かんたんファンタジー 第27話。
『ビッグマウスの死闘』
次回予告では、あまりキャラクターたちの会話は出さない方がいいですね。
あと次回は土、日、月と三日連続二本立ての更新予定です。
(デン♪デンデデデン♪)




