・第99代魔王アンゴルモア
「我が名はアンゴルモアだ。
第99代魔王アンメリエット・ロズマリー・ゴア。
皆は略してアンメリーかアンマリーと呼ぶ。
お前もそう呼べ、アズル・アズアール」
「なんで……ぼくの名前を……」
「お前はもう有名人だぞ……。
知らんのか?
座っていたテーブルにも置いていたではないか。
第三惑星地球史。
あの中で「かんたんファンタジー」とかいう物語が書かれているという記述があったはずだ。
それをこの世界で同じく購読しているヤツラも見逃すと思うか?
そんなワケがなかろう?
お前のプライベートは今や筒抜けだ」
店から外に出て、
腕を組んで笑っている黒髪短髪の少女が目を向けてくる。
さっきまでは店内で座っていたので分からなかったが、
彼女の服は着物ではあるが、下が袴だった。
浴衣のように薄い生地の白紫色をした振袖と濃い紫色の袴。
紫色の袴の煌びやかな黒髪魔王の少女。
「隣のこいつはセーラだ。
セーラ・ロザリアス・ヒロイム。
聖地ロザリアを治める聖女だ。
聖剣の巫少女といえば分かるか?それも知らないか?」
魔王の少女が手で示すと、清楚な金髪の少女も深々と頭を下げる。
頭を下げるとやっぱり胸を隠していた服もたわんで中身が見えそうになった。
「こいつが主とする聖剣はロザリアにある。
威力は強力だが、それを引き抜いている暇はない。
きっとお前は引き抜けるのだろうが、
どうせ聖地に安置されている聖剣ゼクスカリオンはロザリア領地内でしか本領は発揮できん。
聖剣は聖地守護を目的として鍛造された絶対剣だからな。
それ以外に機能はせん」
独り言を続けて魔王少女は聖少女を見る。
「だが、今はコイツの力も必要だ。
既に聖軍と我ら魔王軍は協同で総戦力を布陣し展開している。
戦闘が近いのだっ」
「……戦闘?」
「それだよ」
魔王の少女が、少年の手に持っていたままの羊皮紙の新聞を指す。
「一面にあるじゃないか。
『連合軍、最前線に集結』と。
連合軍とは我が軍の事だ。
セーラの神族と我らが魔族、
それに残っていた反帝国勢力の人間たちの全戦力が合流した超巨大連合軍!」
「……いつもいがみ合っていた魔族と神族が協力する……?」
「それをするだけの理由がこっちにもある。
掻い摘んで説明する。
一か月前の事だ。
帝国が派遣していた探査隊が消息不明になった。
消息を絶った場所は古代遺跡、マキナス遺跡だ。
探査の予定表の申告書は魔王城には出していなかった。単独でやりたかったらしい。
申告とはいっても領有権がこっちにあるわけじゃない。
マキナス遺跡は不干渉領域だ。
探検や探査がしたいのなら周辺の国に報告ぐらいしておけってほどの意味合いしかない。
問題は、そこで帝国のヤツラが消えたという事実だ。
そして一週間前、お前もご存知の同時多発の襲撃事件が起こった」
「なんだっけ?
帝国の軍人が自分の国も含めた各地の城を攻撃したんだっけ?」
魔王は頷く。
「長距離砲でな。
超遠距離からの砲撃攻撃を殆どの城と街が受けた。
幸い死者は出たが全員が蘇生できた。
負傷者も回復。
被害は建物の全損ぐらいで済んだんだが……。
攻撃してきたヤツラが未だに野放し状態になっている。
その攻撃してきたヤツラっていうのが……」
「帝国の遺跡調査隊……?」
魔王少女はやっぱり頷く。
「メンバーは少数だが精鋭だったらしい。
おかげでこっちの何割かは返り討ちにされた」
「人間が魔族を返り討ちッ?」
「……されたんだよッ。
それもM8級の魔族がなッ!
Mとはモンスチュード。
これが力の規模を表わす単位だっていう事は知っているだろう。
力の大きさの推移もほぼマグニチュードと同じだ。
その為、現在、我々は崩された体勢を整える為に足踏み状態を余儀なくされている」
言って、今度は聖女が口を開く。
「探査隊と魔族たちの戦闘には我々、神族も介入を試みました。
しかし歯が立ちません。
彼らは、なぜか人の力を超えている。
さらに、そのまま我々が手をこまねいている間にも打開の糸口は掴めないまま、
目の前で、遺跡そのものが浮き上がり始めたのです」
「う、浮き上がった……」
「そうです。浮上したのです。
遺跡は空中に浮遊する軍事要塞へと姿を変えました。
事態は深刻化しています。
現在、要塞は戦闘態勢を継続中。
事は一刻を争う。
私たちは、要塞に攻め入るタイミングを掴み切れていない」
「それがどうして、ぼくの所に君たちが来ることになるの?」
少年の当然の疑問に、
魔王の少女と聖女の少女が互いに目を合わせる。
「我々はいま、総戦力を必要としている。
だから魔族、神族、人間族の持てる力の全てを一点に再結集させたいわけなのだが……、
一体、招集に応じなかったヤツがいる」
「は?」
「そいつは「黒い幻獣龍」でな?
けっこう主力を張れるヤツなんだが……、
何度、呼びかけてもウンともスンとも応答しない」
沈黙が……降りる。
「そこで、この第三惑星地球史だ。
この本の中に出てくる「かんたんファンタジー」とかいう劇中劇。
なんか、その話の中に似たような竜が登場していてな?
村も実際に、我々のこの世界で実在していた……。
ここまで言えば、なんとなくでも分かってもらえたか?」
「……黒い、響キ……?」
主が名前を呼んでしまったので、観念して、
ドスンと背後で巨体が着地したッッッ!!!!!
「やっぱりいたな?来てもらおう」
「否ッッ!!!断固、認メズッッッ!!!」
ドスの利いた低い声を聞いて、少年の目が据わった。
振り返って……ジロリと見る。
「ファ……、ファファ~ア……?」
…………。
疑いの眼差しが、
今さら可愛い子ぶって顔を取り繕っている黒龍の視線を射る。
「来てもらうぞ?メガフレアン?」
「否ッッッ!!断固、断ルッッッツ!!!!!」
さらに少年がドギツイ視線を送った。
「ファ……、ファファ~ア~……」
いまごろ可愛く言っても、もうムダである。
「分かったよ。行けばいいんでしょ?」
「話が早いな。助かるぞ」
「ちょっと待って、用意するから」
「必要ないわ」
そう言って全ての話を聞いていた、
この村に新しくできた魔法屋兼喫茶店の店員らしき少女が少年の剣と青いマントを少年に差し出す。
超展開。
「これをどうぞ。
剣はあなたの席から持ってきました。マントはお貸しします。
それがあなたの身を守ってくれるでしょう。」
「あ、ありがとうございます。
用意がいいですね?」
「ええ。こんなこともあろうかと思っていたもので……」
こんな事もあろうかと思った、なんてことが普通あるのだろうか?
少なくとも少年は全然、思ったことはなかった。
「では行くぞ。ラルーダ」
魔王が赤い怪鳥を呼ぶ。
「ヒビキ。お前はオレたちの後についてこい。これは罰だ」
「ファ、ファファ~……ア……」
しくしく項垂れる黒竜を見て、少女たちと少年が赤い怪鳥の背に飛び乗った。
少年少女たちを乗せた赤い怪鳥は飛び立つ。
目指すは、これから待つ決戦の土地へ……。
後半、「・子午線の祭り」は今日の9時に更新!
後半に続く。




