・予感
カランコロンと扉が開いた。
軽い鐘の音が鳴るドアだった。
テーブルの上にあった黒い珈茶の湯気が揺れた。
黒い薫りの珈茶の香ばしい水面もタワタワ揺れる。
マグカップが揺れていた。
石のように分厚い持ち手のマグカップ。
「ここだな」
「そうね」
一人で座っていたテーブル席の反対側に、
ドスントスンと二人が座った。
「ん?」
広げて読んでいた新聞を折りたたみ、
喫茶を満喫していた少年が、正面に座った二人を覗きこんだ。
「ふん、はじめましてでよいか?」
「お初にお目にかかります」
横柄な態度と丁寧な態度。
色に分けると黒と白と言ったところ。
そんな少女たちが二人して少年を見ている。
「……あの……なにか……?」
少年は困惑して、二人に訊いた。
この二人の少女の事を少年は知らない。
この村では見たことがない。
そもそも服装がおかしい。
偉そうにどっしりと座った少女は黒髪だ。
黒髪の短髪。体は細く、肌は白い。
その白い肌がやっぱり黒い髪を映えさせている。
服は着物だった。おそらく着物と言うのだろう。
少年はよく知らないが、日本でいう着物という服は恐らくこれに近い物だと思う。
衿と襟とを左右から胸元で合わせて帯で締めるという服。
白い色の着物だった。
白というよりも薄い白紫の色の着物。
その生地に少しだけ濃い紫の紋様をあしらっている。
締めている帯はベルトよりも細い紐だった。
もう一人の少女は金色の長い髪だった。
綺麗に流れ落ちる優しい髪。肌はやはり白い。
服は……まずい。
胸の谷間が見えている。
信じられないほど、ふくよかな胸の中心部分の肌が丸見えで肌蹴ているのだ。
膨らんだ胸そのものは、
ちゃんと二つとも襟首から垂れ下がるように伸びている長い二本の布生地で隠れているのに、
胸と胸の間にある曲線の「胸の谷間」が丸出しなのだ。
思春期の少女には不釣り合いな豊かな胸の谷間から続く肌が、腹部まで丸出して露出している恐ろしい服だった。
一応、ドレスなのだろう。
淡い青みが差す蒼白い色のドレスだった。
襟首からタオルを掛けたように、少女特有の膨らんだ胸の先端範囲だけを生地で隠して、
そのまま腰まで落ちていくドレス。
だから胸の谷間の肌までバッチリ見えている。
これほど肌を露出させた服を着る女子はそうはいない。
背中など完全に丸裸だろう。
襟首だけが服の細い生地で掛けられている女性のドレス。
胸の形や大きさは美しく、顔はおっとりとした美人だった。
「……揉んでみるか?」
「は?」
「揉んでみるか?
そんなにセーラのオッパイをまじまじと拝んで。揉みたいのだろう?
揉むがいい。
欲に任せて、揉んで揉んで揉みしだくがいい。
この乳、もうキサマの物だからな
吸ってもいいぞ。
目の前で吸いついて、むしゃぶりついてやれ。
きっと「あ、」とか「っん、」と煽る事を言うから、押し倒せ。
そしたら今度は頭を、後頭部から押さえつけられて、
さらにそれを強くさせる為に押し込んで求めてくるぞ?
中一のガキの女がだ!
お前は特別だからな?特別じゃないヤツがそんな事をやったら抹殺ものだぞ。イケメンに限ると言うヤツだな。だがイケメンにもいろいろ定義があるからな?人気があるからと言って特別だとは限らない。人気がないヤツこそが実は特別だったなんて事例は腐るほどあるからな。
おっと話がずれてしまった。
続けよう。コイツのオッパイの話だったな。
はやく吸いつけ。
ちゃんと吸ったら聖母乳もでるから安心しろ。飲め。ミナギるぞ。
それが出るのはコイツだけだ。
赤ん坊になれる。
それとも作るか?
小学生や中学生のエロ男子はそれがユメなのだろう?
なんだ言い過ぎたか?これは規制か?大人はそれを押さえこみたいのか?
お前たちは、コイツが最近こういう表現をすることがエスカレートしていると思っているのか?
だが勃つだろう?
その子供の体が勃ってしまう事実はコドモに教えなくていいのか?
その勃って色ボケたガキの男子を見て、騒いで嫌悪するガキの女の心の理由は教えてやらなくてもいいのかッ?
それ、すぐに思い出すぞ。
どうした?吸わないのか?」
横柄にテーブルに肘をつく少女を見て、
いきなり聞きたくもなかった性的表現という暴力を、
目の前で、ぶちまけられてしまった13歳の少年は首を傾げた。
「き……きみの……お、オッパイは?」
すると乱暴な態度だった少女も目を丸くする。
「私のオッパイか?
いいぞ。それでお前が我が物になるものなら安いものだ。
今すぐ吸わせてやるからこっちに来い。こっちに来て今すぐに私の……」
「アンマリーッ!」
叫んだ髪の長い少女が、話しを止めさせて少女を睨む。
「私たちはそんな話をしに参ったわけではありません。
申し訳ありませんでした。
あなたには、すぐに私たちと来ていただきます。
さあ、こちらへ」
すくと立ち上がって、丸裸の美しい背中を見せる。
服の生地があるのはやはり胸を隠している布へと繋がっている襟首の生地だけだった。
「あの……できれば女の子と男の子は、
そういう性的なことについて直接「話す」っていうことは、しない方がいいと思うんですよね?」
なんで中学の体育やプールの授業では着替えも運動する場所も分けられてしまう思春期真っ盛りの男子と女子が、こんな公衆の面前では面と向かって性的な話を真っ向から会話する光景をしなければいけないのだろうか?
これは間違いなくガイドラインや利用規約の違反ではないのか?
実際、このような会話をしている不純な男女交際中の中学生の男子と女子を目にしてしまったら、
大人たちはきっと……。
それ以上、先に進むと、不幸しか待ってないぞ?お前ら?
とでも言いたくなるだろう。
それは恐らく、嫉妬からくる大人の醜い心に違いない。
よい子の諸君、
小学生や中学生の男子と女子が仲良くイチャイチャと話しているのを見て大人が怒ってきたら、それは嫉妬だッ!
間違いなく嫉妬だッ!
大人たちだって、本当はそういうイヤらしい「青春時代」を過ごしたかったのだッ!
でもな。
できればそういう事は、キミたちには控えて欲しいのもまた本音なのだ。
なぜなら、それをすれば、君たちはきっとそれを「隠す」ことになるからだ。
きっと隠すことになるだろう。
私たち大人たちが隠したい事は、君たち子供たちもあとで隠したくなるモノなのだ。
なぜなら私も隠しているからな?
私も隠しているよ?色々とね?
私たち大人も色々と、
子供の時にしてしまった「何か」を君たち子供に隠して生きている。
君たちの親は?
君たちと同じ頃に、いったい何をしていたのだろうね?
きっとそれを君たちが知ることはないだろう。
でなければ、君たちが生まれることはなかった……。
君たちが「生まれている」という事実が既にね?
君たちの親もまた、君たちに「隠し事」をしているという事なのだ。
だって、君たちの親が中学生の時に、君たちは生きていたのかい?
では、君たちが中学生の時に君たちの子供は生まれるだろうか?
もし、生まれるのなら……君はそこで隠し事を始める。
そうではないか?
隠すだろう?全てから……。
自分の子供を……。
もしそれでも隠さないのであれば……地獄が始まる。
親も子供も、全てを何も隠そうとしない「地獄」がね?
隠そうとしなくなった世界は地獄だよ?
当たり前だろう?
君たちの体の中には一体、何が隠されている?
それが外に出たら大変だろう?
しまえなくなるよ?元の体にね?
だから、
世界は隠されている時までが天国なのだ。
事実とは「知りたくない事実」しかないのだからね?
だからね?
やめて欲しいのだよ。
少女と少年が接近しすぎるのは。
少年と少女が近すぎるのは、
あとで隠すことになるから止めてほしいのだ。
大人はね?
ま、そうは言っても子供はやってしまうだろう。
せいぜい気を付けてくれたまえ。
私という大人は、君たち子供にはそれだけしか言えない。
私も、君たち子供には知らないうちに刃を向けてしまう大人だからね?
事実と言う刃を……。
だから、今は物語を進めるとしよう。
皆が立ち上がって、
カランコロンと店から出る為の鐘の音が響いた。
「……そう言えば、君たちの名前って?」
外に出ていこうとする少女たちのあとについていくしかない少年が尋ねる。
「我らの名か?
よかろう。
では、私から名乗ってやろうか……。
よいか?
私の名は……」
黒い短髪の少女が、少年を見て口を開いた。
【次回予告】
次回!の更新は明日の為に、ちょっと無口な かんたんファンタジー 第25話
「第99代魔王アンゴルモア」
新キャラが出来てきたぞ、やったな!少年!(デン♪デンデデデン♪)




