・自室
村に辿り着いた。
生国を離れ
草原を進み、
沼地を回り、
密林を抜け、
大海を望み、
塔を眺め、
岬を辿り、
洞窟を出て、
砂漠を越え、
渓流を渡り、
火山を跨いで、
遥か彼方の、
ここまでやって来た。
故郷は、もはや届かぬほど想く遠い。
今日からは、ここが故郷となる。
辺境の村、
雪に閉ざされた小さな村だ。
閉ざされた?
閉ざされたというよりは、雪解けに近い。
ここは、雪溶けの村だった。
茅葺き屋根にも似た反りのある焦げ茶色の屋根に、
どっしりとした白い雪が積もる村。
雪は分厚く分厚く積もっている。
煙突からは、まさか湯気とも思えるほどの暖かそうな白い煙がもうもうと立ち上っている。
蒸気と雪と、湿った草で緑が食み出るのは道なりの地肌。
そんな村には、永遠に「春は来ない」と噂で聞いた。
永年、雪溶けだと。
その事がこの場所を選んだ理由の一つでもある。
興味があった。
暖かさと冷たさが永遠に綯い交ぜになるだけの境界の場所。
白い息を吐く。
門はもう目の前だった。
くぐって抜けると斜面から下に見下ろして村が左から右に細長く広がっている。
この光景を見て、
どこか懐かしくはならないだろうか?
立ち止まれば、不覚にも懐かしさを感じてしまった。
ちょうど、
そこで誰かを待っているような町娘を見かけた。
物は試しで、この村について訊ねてみる。
「……ん?
あっ、お待ちしておりました。
我が村の補充要請で、
今日からこちらに長期滞在していただく新人の方ですよね?
ようこそ、雪溶けの村「モフリ」へっ。
まずは、ご用意したお部屋へとご案内いたします」
丁寧に頭を下げて、村なのに町娘のような少女は村の入り口からすぐ左にある、
小さな民家の戸を開けて入ると手を差し伸べて招いている。
招かれたまま、雪の積もる民家に入ると
古い木の床がギシリと鳴る廊下を通りすぎて、
すぐに用意されていた部屋へと着いた。
「こちらが今日から、
あなた様にお使いいただくことになる、お部屋でございます。
それではお荷物を置いて、しばらくしたのち。
村の代表が、これからの説明の為に伺いにいらっしゃると思いますので、
それまで、どうか、ごゆっくりおくつろぎいただき、長旅の疲れをお癒しください」
丁寧に頭を下げて町娘が部屋を後にして去っていく。
残された部屋に一人で立っていると。
開けっ晒しの突き立て窓から、一羽の青い小鳥が迷い込んできた。
囀く小鳥の来訪と同時に、
寒そうに思える壮大な景色からの雪解けの冷気が暖かく部屋に舞い込んでくる。
目の前にはシーツを白く布かれたベッドがあった。
ここで、
これから巻き起こっていく出来事をこまめに記録していくことになるのだろう。
寝室と外の出入り口との間にある部屋には、
装備品を整えるためのクローゼットがある。
……、
え?
これは、
何かのパクリか、と?
そう思っていただけたあなたであれば、
きっとその「何か」を探して引っ張り出して、また没頭したくなることもあるかもしれない……。
そう思わせたいだけで始めた、このファンタジーなのだから……。
さあ、装備を整えたら、
つぎはこの村の見分だ。
この村には、まだこれ以外にも『似た場所』がある。
それをパクリか、パロディかと受け取るかは、読者であるあなた次第……。
しかし、
ここまで読んでくださったあなたであれば、きっとこの後で、
その『電源』を入れてみたくなってくれるのかもしれない……。
そうなるといい……。
それでも、ここで念を押したておきたい「注意事項」が……。
これは、冒険譚やモンスターをひと狩りするとかのお話ではなく、
剣と魔法の、かんたんな『ファンタジー』……。
次回予告、(※お好きな次回予告BGMを鑑賞しながらお読み下さい)
到着してから間もおかずに、さっそく村の中を散策していく。
民家、宿屋、武具屋、道具屋、教会、鍛冶屋、そして酒場。
壺の中は漁らない。無断で民家に侵入しない。人の家の棚など物色しない。
そんな当たり前な事を守りながら、
まずは各店の品揃えなどを下調べする中で、
最後に立ち寄ったのは、村の右下にある最も重要な区域だった。
次回! かんたんファンタジー 第二話。
『農採園』
あなたは、左の崖で『ひと堀り』しますか? それとも、右の桟橋で『ひと釣り』しますか?
お好きな方をご堪能ください。(デン♪デンデデデン♪)