・モンスターが現われた!
氷の洞窟の中にいる。
吹き荒れる猛吹雪から逃げ込んで見つけた洞窟の中を歩いていた。
内部が蒼く灯る洞窟の中は空気が鋭く凍てつく静寂な世界。
ピチョンと天井から水面へ雫の落ちた音が響き渡る。
息も凍る山の洞窟で、
水が氷になることもなく存在していることを不思議に思う程度の人間では、
ここに辿り着くことはできない。
とめどない不思議な滴音に耳を傾けながら、
ふと見ると洞窟の壁には、
ところどころ人の等身大ほどの切裂のような裂け目があった。
昨日の村の農園でも見た、鉱物を採掘するための亀裂の場所だ。
試しに持っていた小振りなハンマーで裂け目の部分をカチ割ってみた。
裂け目の一部が欠けて、石ころがコロリと地面に落ちる。
鉱火石を手に入れた!
もう一回、ハンマーを振るう。
鉱水石を手に入れた!
もう一回。
鉱氷石を手に入れた!
もう一度。
鉱風石を手に入れた!
まだまだ。
鉱雷石を手に入れた!
もういっちょ。
鉱地石を手に入れた!
……、
…………え?!
ハンマーを振る手が止まった。
……鉱「地」石……?
通常、このファンタジー世界では、
鉱物は基本的に大地から産出されるために、
すでに鉱石自体が、大地係の属物のはずなのだが、
その大地系の鉱物鉱石の名に、
わざわざ「地」という言葉がさらに付くとはどういうコトなのか?
不思議に思ったが、この場は寒い。
もうそろそろお昼も近かった。
ならば、さっさともう一度だけハンマーを振るって切り上げるとしよう。
それ、最後の一振り。
カツーン。
宝火晶を手に入れたッッッ!!!!!
ドッーカン!
背後で凄まじい爆音と爆風が巻き起こって、
巨体が着地した。
巨体が着地した衝撃で、
地面はグラグラと揺れ、
天井からはパラパラと洞窟の石のカケラが落ちてくる。
熱い息吹が、
壁の切れ目に小鎚を打ちつけたままの丸い猫背に降りかかる。
ブヒュルルルルルルルルルルッッッ……!!!!
……スンゴク……イヤな……予感がする。
恐る恐る後ろを振り返ってみた。
でっかい巨大な漆黒の竜が、ネコのように可愛くおすわりしている。
「……」
目をこすった。
「……」
やはりいる。
「……」
とりあえず、手に入れた鉱物を皮袋から一つずつ摘まんで、
こちらの様子を観察しているだけの竜に見せて確認させてみる。
まず、鉱火石。
竜はゆっくりと首を横に振った。
次に、鉱水石。
竜はゆっくりと首を振った。
鉱氷石。
竜はゆっくりと首を振った。
鉱雷石。
竜は残念そうに首を振った。
鉱地石。
竜は断固として首を振った。
そして最後に、いま手に入れたばかりの赤く輝く小さい宝石。
宝火晶を竜に見せると……。
竜はゆっくりと頷いて、物欲しそうにヨダレを垂らした。
……デスヨネー。
軽く摘まんでいた赤い宝石を、少年と竜は互いに見ている。
やるか……やらないのか……。
少年は盛大に、ため息を吐いた。
この著者が描く虚構の登場人物はよく、ため息をする。
というか、私にはそこまでの想像力しかないのです。
少年は覚悟を決めて、
赤い宝石を手の中に握りしめて竜から隠すと洞窟の出口へと走りだした。
ここから生きて帰る為の条件はただ二つ。
赤い宝石『宝火晶』を村まで無事に持ち帰る事。
そして、
最初に出会った大物は種類を問わず、
かならず、そこで仕留めることだった……。
(※お好きな次回予告BGMを鑑賞しながらお読み下さい)
【次回予告】
おすわりをするのはネコではなくイヌであるはず。
その事について延々と語りたいが、
作者は次回予告を長くするとつまらなくなることを今まで読み直して悟ったので、
あと一行で次回予告を終わらせることをここに誓う。
いやー、推敲って、本当に大事ですよね♪
次回! いきなりボスモンスターが出現した、かんたんファンタジー 第14話。
『狩猟』
……確か、今回のサブタイトルが「回収」だったはずなのは、
きっと、あなたの気のせいだろう……(デン♪デンデデデン♪)
来週もまた読んでねー!!♡




