68 スカイハイ攻略戦 3
◆
兜から覗くラシードの顔は、このような状況にありながらも愉悦に満ちていた。
武人の本能とでも云うべきものであろうか、身体の奥底から血が滾ってくる。
ラシードは馬の腹を蹴り突撃を命じた。
主の気合いが伝わるのか、栗毛の軍馬が一声嘶き猛然と走る。
ラシードは馬上槍術に自信があった。
かつて彼の前に立ちはだかった勇者は、悉くその技によって打ち倒している。
たとえウィリス・ミラーと云えども、自分の土俵であれば戦えると考えていた。
「ハァアアッ!」
槍を水平に構えたラシードが、ウィリスの胸に狙いを定めてひた走る。
しかし恐るべきは、自らの勝利をまったく描き得ぬこと。
騎馬の速度と重さを長槍に乗せた一撃。まともな人間が相手なら――いや――人間でなくとも喰らえば致命となるだろう。
それなのにラシードは、目の前のウィリスを貫く未来が見えないのだった。
「フゥゥウウウウ――」
ウィリスは呼吸を整えると、ラシードの突進を静かに待つ。
先程とはうってかわり、彼の動作は流水の如し……。
ゆらり――ウィリスは身体を斜め前に流すと、半月を描く様に斧を振る。残像が見えた。
刹那、ラシードの馬の首が根元から落ちる。
馬は自らの首が落ちた事も分からず、三歩――四歩と駆けて行き――ドドゥ――と前足から崩れた。
ラシードは槍を持ったまま転げ落ち、しばし呆然。
けれどすぐに槍を捨て、剣を構える。
徒歩となれば、長槍は扱いづらかった。
ラシードの腕に激痛が走る。
見れば左手が、あらぬ方向に向いていた。
落馬の衝撃で骨折したらしい。
両手持ちの剣を右手だけで振るのは困難だ。
ましてウィリス・ミラーを相手に徒歩で、しかも負傷している状態。
もともと小さかった勝機が、目の前で霧散した気分だった。
これで決着かと思えば、ラシードは悔しくてたまらない。
左腕の怪我を隠し、ジリとウィリスに迫る。
この上はせめて、潔く戦って死のうと考えたのだ。
「馬を殺した程度で、勝ったと思うなよ」
「馬だけではない。その左腕、もはや動くまい」
「ふん――ほざけ」
ラシードは剣を振りかぶってウィリスに肉迫した。
もはやウィリスは躱さない。正面からラシードを見据え、馬の脂がついた戦斧を横に薙ぐ。
するとラシードの右腕が肘から飛ばされ、宙を舞った。
「――これで右腕も失ったな。降伏しろ、貴様程の将――殺すには惜しい」
右腕を失ったラシードが、尻餅をつく。
見守っていた兵達が、ラシードの前に壁を作った。
「将軍! お逃げ下さい! ここは俺達がッ!」
しばし呆然――だがすぐにラシードは立ち上がった。
「馬鹿野郎! お前達の勝てる相手かッ! どけッ!」
「しかし将軍! 腕がッ!」
「腕がなくても、戦い方はあるんだよッ!」
ラシードは兵を下がらせ、攻撃魔法を唱えはじめた。
それは“旋風のエマ”仕込みの「風刃」である。
しかし――手慰みに程度に覚えた攻撃魔法が、ウィリスに効く筈も無かった。
風の刃はウィリスアの鎧に弾かれ、そよ風へと変わる。
彼の黒い鎧は何も、不死兵としての獣性を引き出させるだけではない。
相応の防御力も備えているのだ。
ウィリスが何事も無かったかのように、ラシードへ近づいて行く。
「もう一度言う、降伏しろ」
ラシードは右腕から零れる血に目をやって、このままでは長く持たないことを悟る。
すでに足下は、自らの血で溢れていた。
自らの傷を考えても兵達の未来を考えても、降伏が最善だろう。
しかし……。
「降伏して跳ね橋を降ろす手伝いをしろと――とでも言うのか?」
「そこまでは言わん。ただ、黙って見ていろ」
「……ふん、それでいいのか。だが何故だ?」
「貴様ほどの男を、殺したくはない」
ラシードは自嘲気味の笑みを浮かべている。
もう少し、自分はやれると思っていた。
だが結果は手も足も出ず、情けをかけられる始末。
彼の周囲には身体を両断された兵達が、恨めし気に虚空を睨んでいた。
それら全ては国の為、自分の命令で死んだ兵達だ。
ここで自分が降伏などしては、彼等が浮かばれない。
何の為に死んだのか、分からないではないか……。
「ウィリス・ミラー。いや――ミラー将軍。その申し出は何よりの誉れだ。しかしな――俺の兵は俺の命令で死んだ。なのに俺だけが降伏してなんやかんやと――まあ、なんだ……また誰かを死地に送るってのは違うだろう。
責任ってなぁ死ねばとれるって訳じゃあねぇが、それでもやっぱりここは、俺の死に場所なんだろうよ」
ラシードは苦痛に顔を歪めつつ、左腕で長剣を握る。
うろ覚えの回復魔法が、少しは役に立ったようだ。
腕は今だらりとぶら下がるだけだが……頑張れば突進して肩を動かし、剣を振る程度のことなら可能だろう。
ラシードは歯を食いしばり、再びウィリスに突進した。
「……そうか」
ウィリスは雑作も無く、ラシードの剣を弾き飛ばす。
ラシードは、思わず苦笑してしまった。
なおもウィリスが、自分を殺さなかったからだ。
「俺に情けを掛けてる時間なんぞ、あるのか?」
「無いが……考えが変わればと思っている」
「ふん――じゃあ一つ、いいことを教えてやる。北門を守るトゥースって将軍な――すでに五十を過ぎてるが、まぁまぁ使えるぜ。あんまり言いたかねぇが、まさしくミリタニア最強だ。アイツがここを守ってたら、アンタだって易々と入り込めやしなかっただろうよ……」
「友か?」
「ハッ、まさかだ。けどまぁ、よろしく頼むぜ、ミラー将軍――それから……我が忠勇なる兵士どもッ! 俺が死んだら降伏しろッ! こうなっちまった以上、東ミリタニアは今日で終わりだ、てめぇら、俺の代わりに未来を生きろよッ!」
言葉の後半は、兵士達に向けたものだった。
実に清々しい笑顔で、ラシードが拳を振り上げている。
ウィリスはラシードの顔を見て、眉を顰めた。
なんと満足そうな顔をしているのか――これでは、生かしておく事が出来ないではないか。
仕方なくウィリスは斧を振るい――ラシードの首を刎ねる。
高々と舞ったラシードの首は、目を見開いて嬉しそうに笑みを浮かべたままだった。
その後ウィリスは跳ね橋を落とし、ローザリアと合流。
程なく騎馬隊が突入してスカイハイの西門は落ち、守兵はラシードの遺言に沿って降伏した。
一方ラシードの死を見届けた伝令は、急ぎ王の住まう宮殿へと向かう。
その目に涙を溜めて、しかし彼は確固たる決意を持って王に見えようと思うのだった。
◆◆
ミリタニア王アルギルダスは、ウルド=シラク連合軍の攻撃が始まっても暫くの間、眠りから覚めなかった。
それはカースフィアが頭を優しく撫でてくれていたからであり、彼女の魔力が部屋中を覆っていたからだ。
そのカースフィアことミスティは部屋の外に聞き耳を立て、口元を綻ばせている。
「まったく人間というのは、落差が激しいの。醜き者は何処までも醜く、美しきものは宝石よりも美しい……」
彼女がそう言ったのも今、宮殿の中が血に塗れていたからだ。
といって別に敵兵――ミスティから見れば味方だが――が侵入して戦いが始まった訳では無い。
むしろ敵兵が侵入することを見越して、反乱が起きたからであった。
戦況の報告を受けるや、「スカイハイの落城は避け難し――」と判断した大臣達が結託し、先ほど王妃と王子を殺め、この部屋へと向かっている。
彼等は王室一家の首を手土産に、ウルド軍に降伏するよう決めたのだ。
ミスティは太った王の頭を膝の上に抱きながら、小さな溜め息を吐いた。
思えば哀れな男も居たものだ――と思う。
夢の中を覗けば、その人物の性質も分かるというもの。
アルギルダスは元来、善良な男であった。
それが王に祭り上げられ、愛情を抱けない家族を与えられた。
全てはグラニアという国がミリタニアという国を統治する為のシステムだが、イラペトラ帝の死後――それが正常に機能していたとは言い難い。
結局はグラニアの威光を傘に、大臣達の専横を許しただけ。
そして王妃はグラニア貴族という特権を振りかざし、王を歯牙にも掛けなかった。
「ふうむ――大臣ども、どのような面でやってくるかのう? 普通であれば主の一家を殺すなど、良心の呵責に苛まれていようものだが……」
ゆらり――ミスティは立ち上がると、扉の前で「彼等」の到来を待つ事にした。
“ドンッ”
純白に黄金の装飾が施された重厚な扉が、無粋な音を立てて開かれる。
ミスティは小さく欠伸をして、「ようやく来おったか」と呟いた。
部屋に現れた闖入者は五人。皆、国政を司る大臣達であった。
「王よ! 御覚悟召されいッ!」
大臣達は目の前のミスティを無視して、大声で叫ぶ。
彼等の背後には、武装した兵士達が固まっていた。見たところ三十人弱といったところか。
ミスティは両手を広げ、大臣達の視界を遮った。
「覚悟召されとは、穏やかにあらず。如何なさいましたかな、皆様方?」
「売女如きに言うべき事ではないッ! 兵士どもッ! まずはこやつから首を刎ねよッ!」
ミスティの赤い唇が広がって、弓なりになった。「クック……」と忍ぶ笑いは陰惨で、思わず大臣達が後ずさる。
しかし同時に――彼等はミスティから目が離せない。なぜなら大臣達は、皆が男だからだ。
ミスティは薄絹の下、なんらの衣服を纏っていない。
つまり目を凝らせば胸の先端や股間の茂みが、見えそうなのであった。
「いや待て……この女、殺すには惜しい。一先ず捕えよう」
大臣の一人が妥協案を出し、皆が頷く。
ミスティに近づく兵士達も、思わず生唾を飲んでいた。
とはいえ、事態は一刻を争う。
だから最も状況を憂慮している大臣が、するりと前に出た。
ここで王を取り逃がせば、全てが台無しとなる。
だから彼は王が眠っているだろう寝台へ進み、周囲を覆う紗に手を掛けた。
勢い良く紗を捲る。中では王が幸せそうに眠っていた。
「陛下! この期に及んで、まだ眠っておられるのかッ!?」
「な、なんだ……?」
絹が擦れる音がして、寝台の中の影が揺れる。
どうやら、ようやく王が目覚めたらしい。
ミスティはその影を見て、まるでガマガエルのようだと思った。
「誰だ? ん……カースフィア? カースフィアはいずこ?」
「陛下、わたくし、ここにおりますわ」
「おお、おお、カースフィア。余を一人にするでない……」
ヨタヨタと寝台を降りて、アルギルダスが扉の前にやってくる。
ミスティの方は「ガマガエル降臨」などと楽し気に嘯いて……。
こうして王は愛するカースフィアを見つけることが出来たが、同時に五人の大臣達も目にすることとなった。
アルギルダスは首を傾げ、「何事か?」と問う。
大臣の一人が答えた。中肉中背を緋色の衣に包んだ男だ。
「我らウルドに対する忠義を示す為、陛下のお命を頂戴に参りました」
アルギルダスは意味が分からない。
目の前にいる大臣達は、全員がグラニア派。自分は傀儡に過ぎないのだ。
にも拘らず傀儡である自分を殺し、ウルドに忠義を見せるという。
コインの裏と表ではあるまいし、ひっくり返せば良いというモノではなかろうに。
「なに? 何の冗談だ?」
「冗談ではございませんぞ、王よ。既に王妃と王子は旅立たれておりますゆえ……潔い御覚悟を」
薄暗い通路の中から、二人の兵士が進み出た。
彼等はそれぞれ、手に丸い物を持っている。
王は彼等の手の中にあるものを見て、思わず悲鳴を零してしまった。
「ひぃぃぃっ!」
それもそのはず――彼等は王妃と王子の髪を掴んで、その頭をぶら下げていたのだ。
つまり生首である。
アルギルダス王にとって王妃は、一度も情を交わした事の無い不貞の妻。
けれど生前の美貌はミリタニア随一とも言われていた。
それが今や白目を剥いて、舌をダラリと出したまま死んでいる。
頬にはまだ乾ききらない涙の後を残していることから、さぞや無念の死であったことだろう。
一方王子の方は恐怖で顔が引き攣り、十歳にも達していない年齢にも関わらず、まるで老人のように皺だらけの表情であった。
アルギルダスは茫然自失の体である。
なぜ自分が、このような目に遭わねばならない?
心の中で、自問した。
王だからだろうか。
無能だからだろうか。
涙が零れた。
死ぬと思えば、小便も漏れた。
けれど同時に、理不尽さを感じて怒りに震えてもいた。
だから最後に、言いたい事を全部言おうと思ったのだ。
「そ、その女は、そなた等がここへ連れて来たのだろう? その子は――そなら等のうちの誰かの子ではなかったのか?」
大臣達は答えない。代わりに一人が俯いて、ギリッと奥歯の軋む音が聞こえてきた。
「お前達は虚しく無いのか? グラニアに金を払い自らの権力を買って、それが栄華か?」
後ずさる大臣達。王の瞳が、妖しく燃えていた。
「お前達がグラニアで何と言われているか、知っているか? 寄生虫だ――言い得て妙ではないか――ほれ、お前達は宿主をこうして殺すのだから!」
涙と鼻水と小便に塗れた王が、最初で最後の威光を示す。
ミスティは彼の背後で一人、「うんうん」と頷いていた。
けれど王は口だけで、力を持たない。
その事実は、すぐにも露呈した。
大臣の一人が冷や汗を拭きながら、ニヤリと笑って進み出る。
「残念ながら西門が落ちたようで、時間がありませぬ……このままでは我らが戦犯に、なってしまいますからなぁ。陛下には、是非にも責任を取って頂きたい」
「せ、戦争指導は、貴様等がしていたのではいかッ! それがいざ負けるとなれば、全ての責任を余に押し付け、新たな政権で力を振るおうとでも言うのかッ!」
「さよう――統治するには力を持った者が必要ですからな。ま、何と言われましょうとも我ら一同、今後はウルドの為に力を尽くす所存にございまする」
アルギルダスはブルブルと震えながら、カースフィアを見た。
せめて彼女だけでも逃がしたい――そう思ったのだ。
しかしカースフィア――何故か眠そうに欠伸を繰り返していた。
彼女は怯えるでもなく、ただ冷然と大臣達の顔を見回している。
ここに至り、カースフィアことミスティは色々と考えていたのだ。
考えていたら、どんどん眠くなってきた。
あと彼女は悪魔なので、生首を見ても怖がることなどない。
(なにこの女、ウケる〜〜ブッサイクな顔で死んでるな〜〜我だったら耐えられぬぅ〜〜)
などと思っていた。
要するに話を聞いていただけだったので、ミスティ、ちょっと暇だったのだ。
ともあれ、ミリタニア政府がウルドに降伏するのは良いことである。
けれど、この大臣達はどうであろう? なんというか、いけ好かない。
確か全員がグラニア派であったと記憶しているし、それが王室一家を殺して手柄とし、寝返ろうというのなら……。
ミスティ、むきー! っとなった。
別にミスティは潔癖な性格ではないし、保身はとても大切だと思っている。
だけどこれは何だ? 小悪党だ。
対して自分は何か? 大悪魔さまだ!
しかし相手は人間。
単に殺せば良いという訳では無い。
ほら、この前言われたではないか――あんまり人を殺すなよって。
だからミスティ、脳内裁判を行った。
「えー、ミリタニアの大臣達に全員死刑を求刑します!」
「裁判長、賛成です!」
「裁判長、我も賛成!」
裁判長ミスティ、検事ミスティ、弁護人ミスティ、全員の意見が一致した。
よし、考えた。問題無いぞ!
こうしてミスティは上機嫌になった。
しかしミスティ、ここで少し考える。
いくら公正な裁判の結果でも、降伏しようというヤツ等を殺したら、もしかしてローザリアさまに怒られちゃうかな?
怒られるのは困る。とても恐い。ウィリスさまに殴られたら我、死んじゃう。
だからミスティ、己の保身を考えた。
この時点で正直、目の前の大臣達と同じである。
そのとき、雷鳴の如く名案がミスティの脳に閃いた。
要するにミリタニアが降伏すれば良いのだからして、アルギルダスに降伏させれば良いのでは?
「クフ、クフフ……判決を言い渡す。大臣ども、全員死刑ッ!」
「な、なんだと? 売女如きが……!」
「だ〜か〜ら〜死刑ッ!」
赤い瞳を輝かせ、ニンマリとミスティが笑う。
右腕を中空に翻すと、巨大な漆黒の鎌がユラリと現れて……。
黒や紫色の妖し気な靄が室内を包み、大臣達の身体を覆っていく。
「カ、カースフィア……?」
「おののけ人間ども! そして我が刃に掛かり死すこと、せいぜい光栄に思うが良いぞッ!」
呆然としてミスティの背後に隠れたアルギルダスは、状況の変化に付いて行けない。
一方、危険な雰囲気のミスティに慌てた大臣達は兵士達に攻撃命令を下し、彼女を包囲させる。
だが――ミスティが悠然と鎌を一閃。
瞬時に兵士達の首が宙に舞った。
「――ニンゲンども、これはとても良い切れ味であるが、物理的な武器ではないのだ。暗黒鎌――即ち闇魔法であーる」
悦に入ったミスティは、何故か余計な講釈を始め……。
“ヴヴヴヴヴ”
まるで空気が振動しているような鎌の音が、室内に響いていた。
突入した兵士は十人――その全てが芝刈りのように首を刈り取られている。
この様を見て、背後の兵士達は浮き足立った。
二歩、三歩と後退して行く。
「闇魔法だと? ……あ、悪魔かッ!」
大臣の一人が蒼白な顔で叫んだ。
逃げ出そうとするも、紫色の靄に足を取られて転んでしまう。
「我は確かに悪魔であるが――でも……悪いサキュバスじゃないよ」
ぐりん――と首を巡らし、ミスティが大臣達を睨む。
コオォォォォ――と、夏にも関わらず空気が冷えた。
ミスティが絡めとったのは、大臣達だけ。
兵士達は我先にと逃げ出し、去って行く。
「我、良いサキュバスだからね。王さま――いやさアルギルダス。貴様が降伏するなら、我が取りなしても良いぞ。そして丁度ここにグラニア派の大臣の首がある。手土産としてローザリアさまに持って行けば、命くらいは助かるかもね、かもね?」
アルギルダスは呆気にとられ、ミスティに頷いた。
「そ、そうか……! そ、そうしよう! だが――カースフィアは一体……何者なのだ?」
「我が名はミスティ。カラード軍が副魔術師である」
言うや再びミスティは巨大な鎌を振るい、大臣達の首を全て刎ねた。
呆然と膝を折り、床に突っ伏したアルギルダス王。
「なんと……ここまで入り込んでおったとは……」
そこに一人の伝令がやって来て、ラシードの言葉を彼に告げる。
「陛下! ラシード上将軍は命懸けで西門を守らんと致しましたが敵将ウィリス・ミラーに敗れ、お討ち死に! しかし将軍は最後にこう申されました! これ以上の交戦は無意味! 陛下におかれましては、潔く降伏なされますように――とのことにございます!」
「なに……ラシードは、我が国の為に死んだというのか?」
「御意……! 潔き、実に見事なご最後にございましたッ!」
「そうか……ラシード……命を途して国を守らんとしたか……それなのに余は……あやつも他の大臣どもと同じく見ておった……なんと余の、人を見る目の無きことよ……」
こうしてスカイハイは落ち、ミスティには“黒鎌”の二つ名が与えられた。
彼女が国王アルギルダスの命を救ったことは後に様々な意味を持つのだが――その点に関しては今、語るべきではないだろう。
――ともあれミリタニア戦役はウルド側の勝利によって、幕を閉じたのである。
なお――大臣達を全員殺してしまったミスティは、やっぱり怒られてしまったという。
「グラニアの情報が聞き出せぬではないかッ! もうッ!」
ローザリアにこう言われてションボリ。
けれどウィリスに「無事で良かった」と頭を撫でて貰えたので、プラスマイナスで言えば、ちょっぴりプラスな気分のミスティなのであった。
面白いと感じたら、評価、ブクマ、感想、宜しくお願い致します。
作者のやる気が上がります!
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