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美空は自分のことをほとんど話さない性質であった。たとえ相手が康子でも、自分の弱さをさらけ出すような真似はしない。
康子が美空と過ごした日々の中で、自分の弱点をさらけ出している美空姿を見たのは、初めてキスをしたあの日……あのロッカールームで見た姿きりだ。
これが康子の不満の種でもあった。
「ねえ、美空も何か相談してよ」
話を振っても、冗談めかしてはぐらかされる。
「なにかって?」
「何でもいいから」
「そんなこと言ったって、悩みなんて……あ、あった!」
「なになに?」
「お昼ごはんをね、焼きそばパンにするか、それとも卵サンドにするか……むむむ、これはとても難しい悩みだわ」
「そういうのじゃなくて!」
「だって、そういう悩みしかないもん」
そうしてケラケラと笑って、ときに康子がむくれればなだめるようにキスをして――美空は、まじめで弱い自分の姿を、けっして康子に見せようとはしなかった。
もっとも、康子が話し役で美空が聞き役、そう考えれば二人の関係は至極良好だったのだが。
それでも康子は、美空のすべてを知りたがった。ことさらに知りたがったのは、美空がどの高校を受験するつもりなのかということだ。
「ねえ、もしかして東京の高校とか受けるの?」
しかしもちろん、はぐらかされる。
「やだあ、そんな先のことなんか考えてないし」
「先って……進路希望の調査書、出したでしょ?」
「あ~、あれ、捨てた」
「え?」
「そんなわけわかんない未来のことよりも、さ、今日の帰り、ケーキ食べに行かない?」
「ねえ、ちゃんと考えなよ! 自分の人生でしょ!」
「大げさだなあ……高校くらいで人生が変わっちゃったりしないって」
「そんな……」
「ねえ、もうこの話、やめよ。面白くない」
「面白くないって……」
こんな調子で、美空は自分の志望校を、けっして康子には教えてくれなかった。康子がそれを知ったのは自分の進路相談の時、美空とは関わりない水泳部顧問の口からであった。