小説案 ③:「灰翼の天使」
「ふふっ、買っちゃった~♪」
悩んだ末に小夜子はコンビニで豚まんをひとつ買った。部活終わりで疲れているのだから、豚まんひとつくらいなら体型に影響はないだろうと思い、少しずつ食べながら鼻歌交じりに薄暗い月夜の路地を歩いていった。
少し歩いたところで、小夜子は奇妙な光景を目にした。50mほど先で何かゴミのようなものを漁る人影があるのだ。この周辺にゴミ捨て場などは無かったはずなのだが・・・。
「この辺にもホームレスっているんだ・・・。」
小夜子はなるべくそちらの方を見ないように、無関心を装いつつ横を通り抜けようとした。しかし近付いていくにつれ、その人影がくちゃくちゃと生々しい音を立てて何かを食べていて、あと一口分残っていた豚まんを食べる気も失せてしまった。そして雲が少し薄れ、月の光がその人影を照らした時、何気なくそちらに顔を向けてしまった小夜子は我が目を疑った。
それは人間ではなかった。姿は人間のようだが、全身にまるで包帯が巻かれているかのような模様が刻まれており、骨と皮だけの見た目はまさしくミイラそのものだ。そしてその怪物には下半身が無く、その代わりに腰から下にあたる部分には鋭く尖った突起物が一本だけ生えている。そんな異形の怪物を目の前にして小夜子は声も出せずにいたのだが、その怪物が先程から漁っているゴミのようなもの、それがズタズタに引き裂かれた人間の死体だと分かった瞬間に悲鳴を上げた。
その悲鳴を聞いて、ようやく怪物が小夜子の存在に気付いたようだ。夢中で貪っていた肉塊から顔を離し、小夜子の方を向いた。小夜子の方も怪物から目を逸らす事が出来ない。
「あ、あぁ・・・」
血に塗れた、目も鼻も分からない醜悪な顔付きに小夜子が怯えていると、
「な、なんだぁ、おめ?おでのメシ、とる気かぁ?」
怪物が小夜子に話しかけてきたのだ。なんだか間抜けな喋り方だが、コイツは既に人間を一人殺し、その肉を喰っているのだ。パニックになった小夜子は持っていた豚まんの残りを怪物に投げ付けた。するとそれが上手いこと怪物の口に入り込んだようだ。
「ん、もぐもぐ・・・!?うげぇっ、なんだこれ!しょっぱくてまずいど!ニンゲンはこんなもん食うのかぁ?おめ、よくもこんなもん食わせたなぁ、怒ったど!やわらかくてうまそうなおめで、くちなおしするどー!」
最悪だ、怪物を怒らせてしまったらしい。怪物が両手を足の代わりにして一歩ずつ小夜子に近付いてくる。
小夜子は逃げる事も声を上げる事も出来ず、地面にへたり込んでしまった。
このままじゃ殺される・・・。誰か、助けて・・・!心の中で祈った、その時。
「とうとう人間にまで手ぇ出し始めやがったな、オラァー!!」
突如、何者かの声が聞こえ、同時にその人物が小夜子の前に立ち、向かってくる怪物の顔を蹴り飛ばした。怪物が地面を転がっていくのを目で追っていた小夜子は、自分を助けてくれた人の方へ顔を向けた。どうやら自分と同年代くらいの少年のようだ。
「ふぅ、大丈夫か、立てるかい?」
そう言って手を差しのべた少年の背に、うっすらと輝く翼のようなものが見えた気がした。
こちらは自分の考えた小説の案を使って、そのワンシーンだけをとりあえず書いてみたものです。
出してみて、何かしら反響があった場合には作品として書いていこうと思います。
よろしくお願いいたします。