第九十七話 最強の悪魔ムリュウ
第九十七話 最強の悪魔ムリュウ
「俺様が一気に方を付けてやる!」
ムリュウは輝から受け取った香りのカプセルを惜しみなく使用した。しかし、悪魔であるムリュウに効果があるのかないのかは確かでなかった。だが、ムリュウ曰く、強くなった気がするのだ。
「ふ、もっと使わなきゃ私には勝てないよ」
リッシュはニコリとした笑みを浮かべながら、敏速にムリュウの攻撃を躱した。
「俺様を舐めるんじゃね!」
ムリュウはさらにカプセルを使用し、なんやら紫色のけばけばしい剣を出した。
「ムリュウ様スペシャルだ!」
ムリュウはリッシュに斬りかかった。
「(いや、あれって完全にカプセルの無駄遣いじゃね)」
[もし効果がないならそうですよね]
「(いや、お前が負けた時、次のスカラ用にとっとけよ)」
[勝つつもりということですね]
「(まぁ、悪魔とか反則だしな、まず)」
リッシュは手にした盾を上手くこなしながら、ムリュウの攻撃を防いでいた。
「なんか余裕ね。ちょっとハンデしてあげなきゃ」
そう言ったリッシュの手には何やら瓶があった。
「これはね、持続ダメージがある毒なの」
そう言うと、瓶を飲み干した。
「何言ってんだ! 毒を自分で飲んでどうするんだ! 馬鹿か!」
「ハンデって言ったでしょ、だって全然ムリュウちゃんが攻撃をしてくれないから」
「言ったな!」
ムリュウはうまいこと挑発に乗り、リッシュに斬りかかった。しかし、一向に攻撃が当たらないのであった。しかし、リッシュはまるで本物の毒を飲んだのかのように、顔色を悪くし、動きが鈍っていた。
「お前、まさかほんとに毒を!」
「えぇ、言ったでしょ。ハンデよ、ハンデ」
「ほんとにバカみたいだな」
ムリュウは呆れて笑った。
「なら、いいわ、もっとハンデをあげる」
そう言って取り出したのは、二本の瓶だった。
「えっと、これは体を痺れさせる麻痺薬でしょ。それでこっちは眠たくなる睡眠薬よ」
そう言うとまたしも二本ともに飲み干した。
「どうせ嘘だろ!」
ムリュウがまたしも斬りかかったのだが、またしも防がれた。しかし、今回はムリュウでもわかった。盾が震えているのだ。まるで、麻痺しているのかのように。
「まさか、麻痺って……」
「だから言ったでしょって」
そう言うとリッシュは大きな欠伸をした。今にも眠たそうに目をこすり、ふらふらとその場に立っていた。
「お前! 何がしたい!」
「言ったでしょ! ハン……」
リッシュは倒れこんだ。
「いまだ! 行け!」
そうマルチリストからの声援があり、ムリュウは構わず斬りかかった。もし人ならばそれをどうしようか迷ったのかもしれないが、ムリュウ、ましてやCPUに倫理を語っても仕方がない。
その時、マジリストのメンバーから声が漏れた。
「そろそろだな」
その声に皆は反応した。何かがくると。
「ムリュウ! 下がれ!」
「これで勝てるだろ!」
「とにかく下がれ!」
そう言われてムリュウはなぜか素直に距離をとった。ちなみに、さっきからの声援は輝ではない。輝は魔力供給に忙しいのだ。また、マルチリスト側の魔力担当は皆輝について魔力を与えていた。
「(持てよ、頼む。できればもっと早く!)」
[今、勝てたのでは!]
「(わからん。でも、とにかく勝て!)」
輝には特に魔力が足りていないというわけではなかった。ただ、魔力が足りなくなることを見越しての判断だったのだ。また、ムリュウには剣以外の魔法の発動は一回までに制限し、なるべく早くに試合が終わることを祈っていたのだ。
すると、リッシュが起き上がった。
「フル・ステータス! スワップ!」
その魔法は状態異常の交換を意味した。つまり、リッシュの状態異常はムリュウに、ムリュウのものはリッシュにということであった。
これによってムリュウは苦しそうな声をあげ、ムリュウのあたりから大きな煙幕が現れ、ムリュウを包み込んだ。そう、ムリュウには今、毒、麻痺、そして睡魔が襲っているのだ。対して、ムリュウのカプセル使用を促していたリッシュはと言うと……
「あれ、あれって!」
リッシュは肉眼でやっと見えるほどに小さくなっていた。
「何で、こんなに…… あと、何のスターテス強化だってついてないじゃん!」
リッシュの焦りは目に見えた。いや、見難かった。なぜかリッシュの姿はパンのほどに小さいのだ。これはつまり、カプセルは何の効果もムリュウにはなかったことを意味していた。
「(だから言っただろって)」
[いや、それより、あの大きさってことは……]
皆が揃って疑問を抱いていた。マジリストは失望を、マルチリストは期待をも持っていた。しかし、輝だけは違った。大きさの秘密を知っていたのだ。
「(つまり、あの魔女の魔法がここで役に立ったってことか)」
[そう言うことになりますね]
そうして、煙幕から現れたのは悪魔だった。同じムリュウとは思えないほどの大きさと厳つさを持ち合わせていた。
「ありがとな、元に戻してくれて!」
「あぁ……」
麻痺が残っているわけでもないのにリッシュの体は小刻みに震えていた。また、小さくなったリッシュにとってムリュウは皆の目視している以上の規模に見えたのだ。また、ムリュウには毒などの効果が全く聞いている様子がなかった。これが致死量の違いかと思わせるものだった。
ムリュウの声は先ほどとは比べものにならないほどに低音で太く重音だった。その声を聞くだけで、身震いをするものもいた。
「フル・ステータス! スワップ!」
リッシュは必死に元に戻ろうと魔法を唱えたのだが……ムリュウには効かなかった。
「そんな魔法がこの体に効くとでも?」
「フル・ステータス! スワップ! フル・ステータス! スワップ! フル・ステータス! スワップ!」
リッシュは何度も唱えるのだが、何も起こらなかった。
「じゃあ、終わらせてやるよ」
「あぁ……あ」
声も出ないリッシュを必死に捕まえようとするムリュウにはそううまくいかなかった。大きくなった体には機敏性がなく、逆にリッシュにはその機敏性が備わったのであった。
「ちょこまかと…… もういっそのこと、全員! ダークネス・メテオ・ダンク!」
そうムリュウが言った側から、ムリュウの手には大きな黒い燃え盛る火球が成長し始めた。
だんだんと大きくなっていく、ムリュウの火球はそれでも止まらず、だんだんとだんだんと巨大化していったのだ。




