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異世界でもコツコツ強くなっていきます!  作者: 黒陽
七章 四国対戦
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第九十五話 挑発の真骨頂

 第九十五話 挑発の真骨頂


 カロウは相変わらず無表情だった。対して焦るヴァルゴは必要以上に疲れた顔をしていた。


「なぜだ! なぜだ! なぜだ、なぜだ、なぜだーー!」


 ヴァルゴは混乱のあまり気を確かにしていなかった。自慢の音が効かないということが彼を苦しめた。ヴァルゴには他にも手があるのにも関わらず、正気を失ったヴァルゴはそのことに気づけていなかった。


「うるせーって言ってんだろ!」

 カロウが動き出した。両手に出たのは炎。火だった。


「何? 俺の魔法を防ぐ魔法を持っているんじゃなかったのか!」


 そんなことを言っているヴォルゴに構わず、炎を握り締めたカロウの拳はヴァオルゴに直撃した。


「うぅ」

 皮膚が火傷したように捲れた所をすかさず、ヴォルゴは輝のペパーミントのカプセルを使用し、状態異常を解消した。


「こいつも、カプセルか……」

「あぁ、こっちにはテルがいるからな!」

 ヴォルゴはようやく落ち着き、今自分が何をできるのか考え始めていた。マルチリストの方は、ヴォルゴの様子に気づき胸をなでおろした。



「フレアショット!」

 カロウの指先から弾丸のような燃える炎が発射された。


「スピーク・ヴァイブレーション」

 ヴォルゴの周りの空気が微かに振動を繰り返した。



 すると、みるみるうちに炎は静まっていき、ヴォルゴに届く頃には消滅していた。


「相性が悪かったな! 音は聞こえなくても、お前の炎もこっちには聞かないんだよ!」

「くそ! いや、まだ……」


「フレムコート!」

 カロウは全身に炎を纏わせた。

「これからが本番だよ」

 そう、蔓延の笑みを浮かべたカロウはヴォルゴほうへと歩いていく。


「スピーク・ヴァイブレーション!」

 ヴァロゴの周りはまた振動を繰り返した。そして、同じように、体の炎はだんだんと消えていく。


「懲りないな。効かないんだよ!」


 この時点で両者は魔法が互いに効かないことがわかっていた。つまり、残った道は魔法を使わない、そう、直接戦闘しか残っていなかった。


「つまりはスターテスバトルってことだろ」

「あぁ」

「テルありがとな! おかげで二勝目を飾れそうだよ!」


 そういうとヴォルゴはカプセルを数個使用した。

「これで勝てる!」


 そう言ったヴォルゴは拳を振り上げて、カロウの顔面をめがけて拳を降った。しかし、カロウはまるで余裕を見せながらも躱して見せた。


「ほぉ、スターテスには自信があるってか?」


 そういいヴォルゴは次に足を蹴り上げ、左手でフェイントをかけながら、回し蹴りなど、様々な格闘術を組み合わせていた。しかし、カロウは余裕ではないにしろ、すべてを避けていた。


「その程度か?」


 そのカロウの一言によって拍車がかかり、ヴォルゴは次から次へと手足を組み合わせてカロウに攻撃を仕掛けた。


「いまだ!」


 ヴォルゴはついに見つけた隙を狙って左拳でカロウの溝を打ったのだが、それ以上にめぼしい成果は何一つなかった。


「はぁ、はぁ」

 ヴォルゴはいつの間にか疲れ果てており、対してカロウは平然と立っている。

「くそ、なんでだ!」


 ヴォルゴは必死になりすぎて、カロウ以上に体力を消耗していた。いくらカプセルがあるからと言って、それは有限で、カプセルも底をつきかけていた。


「どうすれば、はぁ……疲れ……」

 ヴォルゴが一瞬俯いた。しかし、その時だった。


「フレア・バースト!」

 体に炎を纏っただけでなく、体から吹き出す炎でカロウがヴォルゴに突進した。完全に油断していたヴォルゴは魔法をかけ間に合わなく、そのまま直撃を食らった。


「ウゥ……」

 加えて、カプセルを特に考えずに使用していたヴォルゴはペパーミントのカプセルがないことに気が付いた。

「ない、ない……」


 そして、そこに火傷の状態効果が残る……ヴォルゴは死に消えていった。


「カロウの勝ちだ!」

「ナイス、カロウ!」

 マジルスト側からは声援が聞こえる。対して、マルチリストたちの顔には失望が残っていた。

「ヴォルゴが負けた……」

「あのヴォルゴがだぞ」

「いや、相性が悪かった」

「てか、相手がかなりキレるな」

「いや、何かがおかしい……まるで聞こえてないみたいだ」

 そんな皆の声をスカーレットは拾った。


「いや、カロウはおそらく聞こえてないんだ。アニマリストの時みたいに遺伝子を変えることができるやつがいる可能性があるってことだ」

「なら、手強いな……」

「あぁ、サルエットラには頑張ってもらわないとな」

「承知しています、スカーレット様」

「その呼び方やめろって!」

「では、勝ってきます!」


 そう言い残したサルエットラはタキシードに身を包んで進んでいった。

「私の相手はどちらかな?」

「私よ」

「ほぉう、お嬢ちゃんが相手ですか。私はサルエットラと申します」

「私はパーナ。誰がお嬢ちゃんよ!」


 しかし、パーナ言っていることは正しかった。確かにパーナは童顔なのだが、まずそれはゲーム内での話、いくらサルエットラが歳でも、おおばあさんがやっていることだってあり得るのだ。


「では、始めましょうか?」

「えぇ、早くしましょ」


 そして、パーナは早速サルエットラに接近した。

「先制攻撃ですか?」


 そう余裕をかましているサルエットラだが、次の瞬間、パーナの蹴りがサルエットラの右頬に直撃した。よろめくサルエットラをスカーレットは罵倒した。

「何やってんだ! 負けんじゃねーぞ!」

「わかっております」


 サルエットラは真剣な顔をして言った。しかし、パーナの攻撃は止まらなかった。


「えぃ!」

 今度はサルエットラの腹にパーナの拳が突き刺す。

「まだまだ!」

 サルエットラの顎をパーナの左アッパーが……

「最後に!」

 極め付けはパーナの蹴り上げた右足がサルエットラの大事なところに直撃したのだ。


 声ひとつおげないサルエットラだったが、スカーレットは思わず吹き出していた。

「お前、それりゃないだろ」

「(スカラ、それ笑うところじゃないだろ……)」

[ゲームですからね]

「(いや、普通に痛いからね。ゲームだけど、痛いからね)」


 しかし、そこまできてもサルエットラは余裕をかましていた。ヴォルゴと違い、パーナは特に焦る様子も見せず、その時々の最善手をさしていた。


「なかなかやるのね」

「そうおっしゃっていただいて光栄です」

「それであなたはいつ動き出すのかしら?」

「それはあなたの魔法を見物してからでしょうか?」

「つまり、それを待っているってこと?」

「そういうことになりますね」


 パーナはサルエットラを睨みつけた。対してサルエットラはそれでも平然と立っていた。


 これは戦闘ではない。心理戦だ。


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