第九十四話 敵の魔法は?
第九十四話 敵の魔法は?
「(何がどうなってるんだ?)」
「ふふふ」
ドクルは不気味な笑みを浮かべた。剣を袋から取り出したドクルは輝の方へ向けた。
「テルだったっけ? もうわかったと思うけど、これはただの毒じゃないよ」
「くそ……(でもなんなんだ?)」
「悪いね……」
紫色の液体は輝の刀を沿って、輝の手にまで達した。輝は刀から手を離すと、距離をとった。
「武器を捨てて勝てるつもりなのか?」
「でも……」
「相手の魔法がわからないのにそんなことを! もしかしたら無害かもしれないのに……」
「……(確かにだ。でも、いまは次どうすればいいかを……)」
「ふふ、まぁ、そんなわけないんだけどね」
液体に触れた輝の指先はまるで酸を浴びたように溶けていった。
「ふふふ」
「(気味悪いな、武器もねーしどうすれば……)」
微笑みながら輝に駆け寄ってくるドクルを輝は逃げ腰に距離をとった。輝の刀……今では短剣は地面に落ち、あの紫の液体が帯びている。
「(何でさっき剣先が止まったんだ? それさえわかれば……)」
[わかりませんね、もしあの魔法が酸だとすると、あのガスの説明はできませんし……]
「(毒だとしても、指が溶けるなんてな。このゲームってこういうのなかったんじゃないのか? まずだけどさ)」
[それともどれでもない何か……]
「(まさか……)」
[わかったようですね。私もその可能性はあると思いました。しかし、対策のしようが……]
「(カプセルが足りないな)」
[そうですね……]
「(これも作戦のうちってか)」
[カプセルを使っているように、空のものを使用していくという方針でいいのでは?]
「(だな)」
輝はカプセルを次から次へと生成し、使用した。そして、カプセルが袋から空になったような演技をしてみせた。
「ひひひ、ついにお前のカプセルも終わりみたいだな」
「お前の魔法さえわかれば……」
「わかってももう遅いだろ! ま、最後まで足掻け!」
輝は最小限の本物のカプセル、アサイーカプセルを使用した。そして、ドクルから距離を詰められないように距離をとった。そして、時間もすぎ、どちらも多少ながら疲れを感じていた。
「そろそろ、切れるんやないか?」
「鋭いな……」
「もう終わりにしようぜ!」
ドクルは輝の方に走ってきた。剣を構えていったその時、輝の手にはあの、輝の香りの剣があった。
「短い! でも、なんでそれを手に!?」
「あぁ、あのヘドロのようなやつだろ? あれお前の魔法じゃないだろ」
「何を? なんのことだ!」
「いやいや、そんな動揺しちゃって。あれは道具の効果かなにか、つまり俺も効果が切れるのを待ってたわけ」
「だが、その指は!」
「これは状態異常として判断されたみたいで、簡単に治ったよ。心配ありがと」
「クソ! だが、俺が優勢には変わりねーからな」
ドクルから再びあの紫色の液体とガスが出てきた。輝は急いで距離をとる。
「なぁ、わかっていてもどうしようもないだろ!」
「どうかな……」
「俺の魔法もわかんないのに突っ込んでくるつもりか? ひひひ」
「思ったんだけど、冷静かと思いきや、ふふふとかひひひとか、笑い方なんかキモいぞ」
「そんなこと関係ないだろ! したくてしてんじゃねーんだよ!」
そういうとドクルは輝に突っ込んでいった。
「(今だ!)」
輝は剣を取り出し、ドクルに対抗した。とその時、ドクルから液体とガスが消えた。
「不便だよな、道具って」
輝は短い剣を片手で持っているに対して、ドクルは両手を使っている。道具の使用する隙はなかった。
「いいじゃねーか、そのまま刺してこいよ!」
というと、ドクルは片手を剣から離し、袋に手を入れた。そして、その間輝はドクルの剣を押し切った。
その剣の先はドクルに向いたその時、また輝の手が止まった。
「これがお前の本当の魔法だな」
「なんだ、わかってたのか……そうだよ、これが俺の絶対防御だ!」
「それさえわかればこっちのもんよ!」
「あれれ、そんなこと言って、こっちの時間稼ぎにも気づかずに?」
そして、ドクルの体から漏れ出した紫色の気体と液体は輝の方へと進んでいく。
「悪いな、今回は同じようにはいかないんだな」
そういうと輝は左手でカプセルを手の平一杯に取り出し、全てを使用した。
「何!? まだ、残ってたのか!?」
「そこも予想済み!」
輝のスターテスはもちろん、輝の短剣も刀へと伸びていく。毒か酸の液体は輝には効かなかった。
「ばき……」
何かにがひびが入ったような音がした。
「まさか!」
そして、輝の刀はそれを貫いた。
「良し!」
輝の勝利だ。ちなみに、ドクルの魔法は毒でも、酸でも、まして絶対防御でもなかった。彼の魔法は纏う魔法だった。流動のように物体を体に纏わせることができ、毒や酸、そして防御壁などを纏っていたのであった。
そのようなことを輝は知る由もなかった。
「(なんか防御型の魔法だったんだな)」
[そのようでしたね]
「スカラ! 勝ったぞ!」
「見ればわかってる! あと二勝だな」
「余裕っしょ!」
「なんだ、その砕けた返事は? ギリギリだっただろ、お前」
「お前呼ばわりはないだろ、勝ったんだからいいんだよ!」
「まぁ、次だな」
「ヴォルゴか……」
ヴォルゴは自信満々に歩いていく。
「テル、俺は勝つぞ!」
「あぁ、一緒に勝とうぜ!」
そして、マジリスト側からは痩せて細いカロウという男が歩いてきた。
「俺はヴォルゴだ」
「俺はカロウ」
「正々堂々楽しもうじゃねーか」
「あぁ」
「始めるぞ」
「あぁ」
そしてその瞬間、二人は距離をとった。輝の時と違い互いの魔法はしれていない。難しい戦いに違いなかった。二人はにらみ合っていた。
「スピーク!」
ヴォルゴの先制攻撃。輝たちマルチリストは急いで耳を塞いだ。そして、爆音がヴォルゴから発せられた。
「うるさいな!」
カロウは怒りを顔に浮かべて言った。
「効いてない? 耳が遠いのか?」
「……」
「スピーク・ラウド!」
ヴェルゴから超爆音が発せられた。先ほどとは比べものにならないほどの音だ。マルチリストの皆が耳を防いでいるのに、それでも耳がジンジンと痛むほどのものであった。
「うるさいって言っただろ!」
カオルは額に皺を寄せた。
「まさか……」
しかし、対してヴォルゴの顔には焦るが現れていた。
「なぜだ……なぜだ……」
音がなぜか効かない相手、先程までの自信がまるでなかったのかのような気の抜かれた表情をヴァルゴはしていた。




