第九十三話 少数対決
第九十三話 少数対決
マルチリストに残ったのは、輝、スカーレット、サルエットラを含む十五人。マナトランス、ヒールを使えるもの五人。スピーカーの魔法を使う、ヴォルゴ。そして、氷魔法を使うカレン。すでに数の優勢はなかった。
そして両者は壁前で対面した。
「ごきげんよう」
サクラは品良く挨拶した。
「どうも」
スカーレットは返した。
「サクラ……」
輝は呟く。
「御機嫌よう、テル」
サクラは微笑む。
マジリストの九人はマルチリストを睨みつけ、マルチリストの皆が少なからず怯えを感じていた。絶対に勝てる気がしないという感情のみが残っていた。
「それで、どうだろうか? どのように勝負を決めたい?」
「そうね、このまま戦ってもいいのだけど…… どうがいいかしら?」
「王同士の対決でどうだ?」
そうスカーレットは表情一つ変えずに言った。
しかし、輝はそこでスカーレットに耳打ちした。
「スカラ、それじゃあ……」
「負けるって?」
「いや……あぁ……そう」
「任せろ!」
「でも、そんな条件のむと?」
「だから聞いたんだろ」
スカーレットは胸を張ってきいた。
「どうだ?」
「そうね……」
サクラは他のマジリスト達と顔を見合わせて言った。
「私はいいのだけど、みんながね…… なら、五人ずつの対決でどうかしら?」
「つまり、両方が四人ずつを出してそれで決まらなけてば王対決ってこと……」
「そうよ、飲み込みが早いわね」
「わかった!」
「なら、多少の作戦を考える時間を設けることにしましょう」
「了解だ。なら、次の放送まででどうだ?」
「えぇ、いいわ」
そうして、マジリスト、マルチリストはそれぞれ分かれて作戦会議をした。誰がどの順番で、どのように……黙々と話し合いがされた。
そんな中、輝達マルチリストのメンバー一人、炎魔法の使いフレンが背中を見せているマジリストに火の玉を打った。
「お前、何を……」
そういうスカーレットの声も届く前に、マジリスト側からは凄まじい雷撃が火の玉もろともフレンを消滅させた。雷属性はこのゲーム内では炎に対して弱い属性、しかしそれをも貫いたのだ。あの速さで……
誰もが勝ち目のないことを理解していた。しかし、この事件はそれを強調させるものであり、恐怖を生むものでもあった。
「それでスカーレット……どうする?」
「まずは、テル、そしてヴェルゴに出てもらう。そしてもう二人なんだが……」
「私がします!」
「サルエットラ……お前ヒールしか使えないだろ」
「ヒールも大きな武器です。ドレインや、魔力のヒールなど様々できますし、剣術も……」
サルエットラは俯いて言った。信じてもらえていない悲しみのような、嘆きのような聞こえであった。そして、皆がスカーレットを見たのだ。
「わかった、わかった。じゃあ、三番手はサルエットラな」
「あの……私……」
「カレンか……」
カレンは氷魔法を使うがとても強いとは言えたものではない。
「あの……ならムリュウはどうだ?」
輝は不思議気に入った。
「確かにムリュウは人数としてカウントされるのか?」
そう言ってスカーレットは立ち上がった。
「サクラ!」
その瞬間、九人の殺気がスカーレットに注がれた。
「ムリュウ……悪魔は人数として数えるのか?」
「えぇ、そういうことにしといて欲しいわ。そうでないなら全戦でれるものね」
「フェアじゃないってことか……それでもいいのか?」
「えぇ、いろいろ事情はあるだろうけど、まぁそこは目を瞑っておくわ」
そうしてムリュウが出ることになった。輝は試合後、マナトランスで回復されるため、魔力の方は問題がないということになった。そして、アナウンスまでの間、輝はカプセルを大量生産し、三人に渡した。
「ムリュウ…… やれるか?」
「俺様を誰だと思ってんだ! それよりもお前が死ぬなよ!」
「そうか……」
「どうした!」
輝はスカーレットの方へと駆け寄った。
「スカラ! ムリュウを最初に出してくれ! そうしないと俺が死んだ場合……」
「何言ってんだ! お前が死ななきゃいいだけだろ」
「でも……」
「なんだ? 自信ないのか?」
「あぁ、わかったよ。それは強情なんだか、信用なんだか、どっちだろうな」
「信用だろ」
「わかったよ(ほんと言葉がうまいよな。なんかやる気出るっていうか……)」
そうして作戦会議をしている間時間は過ぎていった。
「サクラさん、私戦いたいです」
「同意」
「私も」
「俺もだ」
マジリストは皆が戦いに燃えていた。
「そうね、誰でも勝てるとは思うんだけどね……」
「俺がやりますって! なんなら一人で!」
「いいえ、あなたは即死ですね。私がします」
「私!」
なかなか決まらなかったが、サクラが完全に仕切った。
「わかったわ。なら初戦はドクル、二戦目はカロウ、三戦目にパーナ、そして四戦目はリッシュにお願いするわ」
「了解」
「おぅ!」
「わかりました」
「任せて!」
四人は堂々と返事をした。
「でもなんで……」
「そうだ、なんでこいつらが!」
そう、何人もが反対の声をあげた。
「何? 文句があるのかしら」
しかし、そうサクラが睨むと、全員が静かに黙った。
「それにしても、そろそろね」
「そうですね」
そして、待ちに待ったアナウンスが入った。
「十一回目、ゲーム終了前最後の放送になりました。近況をお伝えします。現在、マルチリスト国内、マジリストとマルチリストの対立が続いています。それでは最後まで四国戦争をお楽しみください!」
全員が立ち上がった。やってやるという心意気で。
「そろそろ始めようかしら?」
「そうだな」
「それでは最初のメンバーを」
そうして輝はマジリストに寄っていった。
「最初からあなただったのね」
そうサクラは漏らすなか、マジリスト側からは肌の濃い、大柄な男が出てきた。
「名前を?」
「ドクルだ。テルだろ」
「話が早いな」
「じゃあ、始めようか」
「ちょっと待って!」
そういって輝は手いっぱいのカプセルを取り出し、全てを使用した。
「あぁ、始めよう!」
輝は動き出した。それも物凄いスピードで、長刀を持って。
対して、ドクルは両手に紫色のガスを吹き出す、液体を取り出した。毒々しい、いや、毒なのであろうと皆が思った。そして、ドクルはその液体を体に纏わせた。
輝は言葉一つ言わずに刀をドクルの喉元に揃えた時、輝の刀が止まった。
「(動かない……)」
そして、纏わりつくようにして刀に沿って液体が流れ始めた。




