第九十二話 全面戦争?
第九十二話 全面戦争?
輝たちが現れた途端にマジリスト全員が上を見上げた。
「上だ!」
「上を攻撃しろ!」
そう言って彼らは炎や水、雷といった魔法を放ち始めた。
「俺たちもいくぞ!」
ムリュウを始め、輝たちも攻撃を始めた。輝たちにとってはかなり有利な状態であった。第一に、上を的確に狙うのは下へ狙うよりも難しい。加えて、人数が人数だ。狙うのは非常に困難なのだ。逆に、マルチリストからしてみれば、巨大な的があるようなもので、防御魔法を攻撃のために使うことができていない相手だから、攻撃し放題なのだ。
「一時退散だ!」
そう言ってマジリストは押し合って逃げ始めた。しかし、自分は死ぬもんかと他を蹴り落とすようにお互いを攻撃しあっていた。
「俺は生き残るんだ!」
「くたばれ!」
勝っても生き残らなければ勝利ではない。そう言われているからには、勝利目前での死亡は一ヶ月以上費やしてきた時間を無駄にすることになる。
「やってるな」
輝たちは城門の上でマジリストの滑稽な様子を見て笑っていた。
「一先ずはこれでいいな」
しかし、輝たちの門の方へ先ほどと同等の大きさの火の玉が飛んできた。
「まずい! 降りろ!」
「どかーーーん」
門の穴は先ほどよりも大きく、いまでは軍勢が通ることができるほどの大きさだ。逃げ出したマジリストたちも振り返って穴の方へと向かった。
衝撃で何人かは振り落とされ、落下の衝撃で瀕死状態。同等の攻撃は来まいと思っていた輝も、少しからず動揺していた。しかし、止まる事なき軍勢が次から次へと壁内に流れ込んできた。
「テル! 何してんだ!」
そこで声をかけたのはムリュウであった。必死に戦っている。
「ムリュウ!」
しかし、輝にはムリュウの置かれている状況が嫌でもわかった。そう、魔力を通じてだ。刻々と減っていく魔力はムリュウの消耗をも表していた。
「待ってろ! ムリュウ!」
輝はスターテス上昇系カプセル全種をいくつか使用した。
そして、テルに続いて、ほかのマルチリストもマジリスト迎撃に当たった。
「このやろう」
「こっちだ!」
「くそ!」
「今だ」
「フレアボム!」
「アイスピーク!」
「サンダーストライク!」
しかし、輝たちにはほとんど効果はなかった。そう、彼らマジリストは全く統制が取れていないのだ。一人一人は強いのかもしれず、グループであればなおさらだ。しかし、魔法にも有利・不利がある。そのそれぞれの魔法が互いを打ち消しあっていたのであった。
「俺がやる!」
「こっちが!」
「俺の魔法を見やがれ!」
「フレアストーム!」
「アイスバーク!」
「サンダーリーケージ!」
そして、ついにはお互いを攻撃し始めた。実際は個々が必死なのだが、範囲魔法を使っては意味がない。その中を輝たちはうまく一人、そして一人を倒していった。
「やってるな」
そんな中、スカーレットは城で羨ましそうに見ていた。輝に言われてのことであった。
「サクラさん、いいのですか?」
「負けているな」
「はい、だから言っているのです」
「ぐちゃぐちゃだな」
「はい、統制が……すいません、私としたことが……まさかあそこまでとは……」
「これでいいんだよ」
「まさか勝利報酬が人数が少ない方がいいという事ですか! やっぱりサクラさんは!」
「……」
そして、サクラはおそらく上位メンバー十人程度とともに最初の場所から一歩も動いていなかった。
しかし時間が過ぎていく中、マジリストのみが減っていくこともなくなった。そう、人数が減ったのだ。それも五十人。これで、それぞれがそれぞれの実力を発揮できる。皆の眼差しは輝たちを向いていた。輝はすでにカプセルをかなりの数消費していた。
「これでやっとやれるぜ!」
「あいつらはほんと邪魔だったからな」
血の気の多いマジリストたちは、次々にマルチリストに上位魔法を放ち始めた。
「みんな一先ずラストスパートだ!」
輝とムリュウを筆頭に距離を詰めて、魔法を放つ間の準備時間に攻撃の焦点を決めた。
とある時、輝は後ろを詰められた。
「やっと隙ができた」
そう薄気味悪い声で誰かが輝の耳元で囁いたのだ。
「ブラストメテオ!」
輝はすぐに後ろに振り向いたが、輝の目の前に差待っていたのは巨大な炎の球であった。
「アイスウォール!」
「アイスウォール!」
「アイスウォール!」
それに気がついたマルチリストのココヤとカリンは氷魔法を使うが、いとも簡単に溶け貫いた。
「そんな紙じゃ、何も防げやしない!」
「(まずいな……)」
輝は為す術もなく、ヒール用のカプセル・ラベンダーを用意した。しかし、ワンパンである場合はもちろんヒールも効果がない。
「(頼む、サクラには勝たないと! てか勝ちたい!)」
その瞬間、輝の風景が変わった。動き去る風景。目の前まで近ずいていた炎の球はかの先にある。
「どかーーん」
巨大な爆発音と主に、建物が崩壊した。
「一体……」
輝は状況が掴めなかった。
「危なかったな」
「スカラ!?」
そこにいたのは、スカラであった。輝をお姫様抱っこしている。
「スカラ! なんでここに、あれだけ城にいろって!」
「だって退屈じゃん、助けてもらっておいてそれはないだろ!」
「それは礼を言う。だから、今すぐ戻れ!」
「断る!」
そう微笑んだスカーレットは目に見えぬ速さで次から次へと敵を狩っていった。
「(そんな簡単に殺すか……)」
スカーレットの顔には笑みが浮かんでおり、楽しんでいるとしか表現はできなかった。
「俺だって!」
輝も今までにない速さで次から次へと攻撃して行った。しかし、それは輝だけではなかった。
「俺も!」
「ウゥ……」
「私が!」
「……」
中には殺されたものも多かったが、そんな士気の急落していた所に現れたスカーレットの存在は大きかった。見れないにしろ、その存在は目に見える勝利の旗だったのだ。
「そろそろですね」
「そうね」
「動き始めるか!」
「行こう!」
「これで夢物語も終わりってことっすね」
「行きますか」
そう言ってサクラ達十人のマジリストはマルチリストの城壁に向かってゆっくりと歩みを始めた。
「おっしゃー!」
「これで……」
「やったー」
その頃、城壁内でのマジリストの姿はなかった。隠れているものも簡単にあぶり出し、殺した。
「いや、まだだ…… これからだ」
「だが、最後には変わりねぇ」
そう、輝とスカーレットは穴の空いた城壁へと向かって行った。




