第九十一話 戦いの予感
第九十一話 戦いの予感
そうしてマジリスト軍がマルチリストにたどり着くまでの数時間、輝はカプセル作りに専念し、他はスカーレットの作戦を暇つぶしに聞いていた。そう、誰も勝とうとは思っていなかったのだ。
「見えて来ました」
すでに九回目、十回目の放送は終了しており、九回目ではマジリスト軍が半分ずつアニマリストとパワリストにいること、そして十回目で侵攻が始まったことが放送されていた。
そして城門にいる監視役の目に両軍が見えた。
「いえ、待ってください! マジリストの方からものすごい速さで何者かが進んでおります」
「見た目はどうだ?」
「氷でできた鳥のようなものに乗っております」
「「マジリストの王か……」」
輝とスカーレットは同時に呟いた。
「テル? 何でお前知ってんだよ?」
「俺、聞いたんだよ。第四の街での演説をな」
「もしかして……」
「あぁ、お前のも聞いてたぞ!」
「いや、あれ一様俺じゃないからな!」
「だったらなんだよ」
「言いたいことと動作を説明するとそうしてくれるホログラムが演説をしてくれるんだ」
「じゃあ、結局ほぼ同じじゃねーか」
「でも、俺じゃないからな」
「まぁ、あれの本当の意味は他のリーダーの顔を知っておくってことだけどな」
「でも、王がこない方が絶対勝てる可能性高いよな」
「いや、そうでもないぞ。王によって士気が上がることもあるからな」
「そろそろだな」
「あぁ……」
そして、マジリスト全員がマルチリストの城壁を囲むようにして止まった。
「マルチリストに告ぐ。 死にたくなかったら、王を出せ!」
「スカーレットどうする?」
「今頃だけど、スカラって呼んでくれない?」
「もしかしてキャラ名って変えられないのか?」
「あぁ、見た目は後で交換できるんだけどな。後二つアカウント持ちの場合は公式的なあだ名、まぁ結局は名前だったら使えるんだ」
「……(確かマジリストの王ってサクラだったよな)」
[そうでしたね]
「スカラ、手強いぞ!」
「何言ってんだ? そんなことわかりきってるだろ!」
「いや、あっちの王はサクラなんだよ!」
「あのアニマリストのか?」
「あぁ……」
「まずいな……」
「で、どうするんだ?」
「そうだな、どうしようもないけど、強いていうなら、むかい打とうかな?」
「スカラ! 勝てると思ってんの?」
「勝機がないことはないぞ」
「というと……」
スカラことスカーレットは立ち上がり、スピーカーの魔法を持つプレイヤーを伝って言った。
「私がマルチリストの王スカーレットだ。現在、国のみんなで話し合っているから一時間ほど待ってくれ!」
そして、その後には特に返事はなく、待つとのことで皆は納得した。しかし、そうなのだ。スピーカーの魔法を使うものがいる。これは一見完全に補助用に思えるのだが、耳を聞こえなくするなど、音を使った様々なことができるのだ
何が始まったのかというと作戦会議であった。残った四十人程度は、魔力担当こと魔力転送魔法、マナトランスの使い手数人。スピーカー、ヒール、フレグランスなどの少数魔法使い。そしてほとんどは炎、水、雷といった属性魔法を使うものだ。しかし、どう言っても全員マジリストに受け入れられなかったものたち、魔法を使うにも、魔力にしても格差があった。
「それでだ、まず俺は降参するつもりも負けるつもりもない。最後ぐらい楽しもうじゃねーか」
「「おぉ!」」
テルとサルエットラは二人で歓声を挙げた。
「まぁやる気がないならいいが、一様作戦を言っておく。まず、マナトランスを使えるものは始まるまではテルを援助しながらカプセルを生産、配給してくれ。他は、今できることは戦いに備えることだが、戦いになったら、サルエットラが遠距離ヒールを行うから全員信じて攻撃をしてくれ。後、テルの配布するカプセルの種類を覚えて臨機応変に使うとスターテスが強化される。以上!」
すると、一人今まで話していなかった女性が手をあげた。
「どうした?」
「それで勝てるのですか?」
「あぁ、これは必勝法だ。アニマリストの時は、想像以上にあの三人が強かったが三人までに抑えたことを考えてくれ。これなら勝てるんだ!」
そうして皆はそれぞれのすることをしている時、輝はスカーレットの元へ行っていた。
「スカラ! あんなこと言っていいのか?」
「なんだ? 必勝法のことか?」
「あぁ」
「あぁ、これは相手をマインドコントロールする魔法を使って信じ込ませているんだ。そうすることで自動的に士気も上がるってことだ」
「それって……(心理学じゃね)」
[そうですよね、気休め程度ですが……]
そうしてもう過ぎる時と気になった。すると、マジリスト側から連絡があった。それも氷でできた手紙という。
「これが今届いた。そして、そこには後一分以内に返事がない場合はこちらからの侵略を開始するとのことだ。だが、私たちに何も恐れることはない。そう、この作戦があるからには!」
「「おぉー!」」
今回は輝とサルエットラだけではなかった。そう、全員の士気が上がっていたのだ。その理由もスカーレットが一人一人と会話し、そうして皆のやる気が満ち溢れていた。
「(もしかしてスカラって心理学者だったりして……)」
[詐欺師かもしれませんね]
「(まぁ、効果覿面だな)」
「ちょっとその手紙見せてくれないか?」
そう出てきたのは一人の男だったが、スカーレットは手紙を門から捨てさせた。
「なんで!」
その瞬間、門の下に捨てられた手紙からは氷柱が発生し門を氷漬けた。
「あぁ……」
「悪いな、危うく死ぬの頃だったからな」
「よし、やるか!」
そうして、さらに皆の士気が上がったのだ。
「ドカーン」
一つ巨大な炎玉がマジリスト側から放たれた時、城壁は崩れ落ちた。マジリスト側は皆が空いた穴の方に向かい、魔法を打ち込み始めた。
「最初のは結構な魔力を使ってって感じだ、安心しろ。今は穴を広げてるって感じだ。まずは、前軍を壊滅に追い込む。いいな!」
そうして輝たちは輝のカプセルを持ったプレイヤーたちは城壁の上に立った。
「(これで終わるんだな)」
[そうですね、精一杯楽しみましょう]
「シャー! 悪魔ムリュウ!」
ムリュウは一人先行をとって突っ込んで行った。ちなみに、ムリュウは輝が死なない限りは不死身だ。もちろん、魔力はマナトランスからきているのだが……




