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異世界でもコツコツ強くなっていきます!  作者: 黒陽
七章 四国対戦
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第八十七話 事の始まり

 第八十七話 事の始まり


 試合開始から二時間初めてのアナウンスが入った。


「近況をお伝えします。只今、マジリストとパワリストが国境あたりで交戦中。アニマリストとマルチリストには大きな動きは見られていません」


 そんな短いアナウンスメントなのだが、これは同時に輝たちマルチリストからすればパワリストに対してチャンスが、アニマリストにとってもマジリストに対して有利であることを示していた。しかし各国の距離は三時間程度であり、動きがない場合はアナウンスメントで不意打ちは難しかった。


「スカラ、どうするの?」

「テル、どうするんだ?」

 スカラはめんどくさそうに輝にアケハの質問をふる。

「まぁ、当分待機だろうな」

「そういうことだ、アケハ」


 そうして、次のアナウンスではパワリストが自国付近へと撤退したということに加えて、アニマリストとマルチリストには相変わらず動きはなかった。


 マルチリストの士気はだんだんと落ちていった。何もせずただ待っているそれだけが耐えられなかったのだ。輝は相変わらずカプセルを作っては自分のポケットまたは別の人に分けるなどして時間を潰していた。


「テル!」

「おぉ、確か炎のやつだよな?」

「そうです、エンです。まだなのですか? もう集中が切れて……早く戦いたいです!」

「そう言っても下手に動けないんだ。アニマリストがどうにも動かないと危ないしな」

「でも放送でわかるじゃないですか!」

「でもあの国は動物がいるから速いだろうな」

「わかりました。もうしばらく待ちます」



 そういうとエンは溜息をついた。


「エン!」

「なんですか?」

「このカプセルの効果はそれぞれ言ったよな!」

「あぁ」

「よかったら持っておけ」

「わかりました」


 そうエンは去って行った。エンは体の大きい男で、人一倍血の気が騒いでいるのがわかる。炎と体をはった戦い方で自分の肌を火傷状態にしてしまうからパワリストには受け入れられなかったと輝に話していた。マルチリストの物理型の男たちは皆エンに従っている。


 そうして三度、四度目、五度目のアナウンスが入った。パワリストは四度目では白に立てこもり、五度目のアナウンスでパワリストの敗北が決定した。


「近況をお伝えします。只今、マジリストがパワリストの王の首を打ち取りました。また、アニマリストとマルチリストには未だ動きが見られません」


 しかし、この放送で湧き上がったのがエンたちであった。


「テル!」

「どうしたエン?」

「俺たち、もうただ放送聞いてるだけじゃ……」

「なら行ってこい!」

「いいのですか?」

「別に俺に従えとは言ってないだろ、俺王じゃないし」

「でも……」

「条件はあるぞ、必ず一人は戻ってこい、報告を聞かないとな」

「わかった! 野郎ども、マジリストをやりにいくぞ!」


 そうしてエンたち十数名は元気よくパワリストの国の方へ向かって行った。


「テル、よかったのか?」

「わからない……」

「あいつら絶対死ぬぞ」

「まぁ、そうだろうな」

「なら……」

「いや、ここで俺が仕切るのもな」

「まぁ、これで相手の実力もわかるだろうしな」

「アケハ、遠距離からちょっと見に行ってくれないか?」

「いいけど……」

「遠距離だからな、気をつけろよ」

「うん」


 輝はアケハにカプセルをいくつか持たせるとエンたちを追わせた。


「さてと……そろそろ他の奴らも耐えられないな」

「耐えても後四時間だろうな、こんな時にこの国の王様は何をやってんだろうな」

「テル? もしかして知らないのか?」

「知らないって?」

「ダブルアカウントだよ、王様だけができる」

「だからそれなんだよ?」

「まじか……王様にはもう一つアカウントを作成できるんだ。ゲーム初日に二、三番目の街にいくぐらいの奴らだろうな」

「だから?」

「だから、一つのアカウントが終わるまでもう一つは使えないってことだ」

「じゃあ俺たちの王はどこなんだよ?」

「わからないな。まぁ、どこか他の国の可能性もあるな」

「ならなんでパワリストの王は?」

「どうせ脳筋なんだろうな」

「つまり……」

「そう、このゲームは王だけを狙うんじゃなくて全員を皆殺しにするんだ」

「じゃあ、この国に潜んでる可能性も高いってことか?」

「疑うのは良くないけどな」

「これは全員知ってるのか?」

「いや、俺がたまたま仕入れた情報だ。テルなら知ってると思ったんだけどな」

「これは言わない方がいいな」

「まぁ、そりゃな」


 そうして皆は着々と時間を潰して待っている間についに動き出した。


「只今ゲーム開始から十二時間が経過しました。現在、マルチリストからパワリストに向かっています。また、マジリストは自国に帰っているところです。残ったアニマリストもついに動きだし、現在マルチリスト国境付近まで迫っています」


 輝は目を輝かせてマルチリストの人の前に立った。

「今聞いたようにアニマリストが攻めてくるようだ。しかし、焦ることはない。全員門のあたりに集まってくれ。いつ始まってもいいように! 幸運を祈る!」


 アニマリストからはサクラを筆頭とした国の半分の軍勢がマルチリストに押し寄せているころ、エンたちはパワリスト国境ぞいに着いていた。


「くそ、マジリストの奴ら逃げやがったか!」

「リーダー、そうでもないみたいですよ」

「おぉ!」


 マジリストの軍隊は放送を聞き、引き戻り、マルチリストに立ち向かうというばかりの姿勢をとっていた。


「来やがったな! お前ら! 一気にやるぞ!」



 ……



 エンたちは十分もしないうちに……全滅してしまった。空から見ていたアケハはすぐにマルチリストの国へと引き返した。


「テル!」

「どうした?」

「エンたちが……」

「だろうな……」

「じゃあ、なんで……」

「俺はあくまでもアドバイスしかしてないからな」

「でも……」

「アケハ、次の仕事いいか?」

「えぇ!?」

「放送を聞いただろうが、アニマリストが来ている」

「わかった」

「アケハちょっと待て! フォレストフレグランス・アタッチド! 世界樹の香り! (アケハ!)」


 アケハからまるで森の中に一人いるような、自然の優しい香りに漏れ出した。


「これで魔力は多少回復できるだろ」

「それで私はどうすれば?」

「ここの空でいいから、遠くから見てくれればいい」

「オーケー」



 アケハが空へ飛び立つと、輝は全員を連れて国を書こう外壁の元まで行った。


「それでは作戦を言うぞ!」

「えぇ? 作戦?」


 皆の顔は顔を見合わせた。なぜなら、全員がただ引きこもって門から入って来た敵を倒すだけだと思っていたからだ。しかし、実際スカラは何百といるほぼ全員の魔法を覚えていた。つまり、ここからは輝とスカラによる戦略戦争だったのだ。



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