第七話 格闘豚ブタ
第七話 格闘豚ブタ
渓谷脱出を図る輝の前には多くの難問が立ちはだかった。
まずは敵の存在だ。あの大きいワシのような鳥だけでなく、熊や狼のような獣がいるためだ。戦って勝てる保証はなくだからと言って毎回避けるのも難易度が高い。
次に食料だ。空腹感に耐えることは難しいが食べるものがなければどうしようもない。水も見つけなければならないものだ。
輝は渓谷を上がる方法が何一つ思い当たらなかったため、とにかく歩くことにした。たいていの渓谷は二つの山の谷間にある。つまり歩いていけばつくのではという思案だ。
輝はとにかく歩いた。途中狼や熊などを見かけても、渓谷のそこら中に転がっている。それらを駆使すれば気づかれずに隠れることができた。しかし空腹を感じ始めてから、輝の苦痛が始まった。
「(やパイ、腹減った)」
[しかし、女神ハイレーンはある程度食べなくても生きていけると]
「(そんなこと言っていたか? 後ある程度ってなんだよ)」
[……]
「(都合のいいやつだな)」
すると呼ばれたのかとも思えるタイミングで二足歩行の豚が現れた。
「(うまそー、豚だ)」
その豚は逃げるどころかテルに対してなんらかの構えをとっている。輝は豚の方に近づいて行った。すると豚ものすごい速さで走り、右豚足で輝を蹴飛ばした。
「(痛、こいつ何もんだ?)」
輝は至近距離戦を諦め、渓谷に転がっている小石を拾い上げ、豚に投げた。しかし、豚はいとも簡単にキャッチし、豚足をあげ、野球のピッチャーのような構えをした。すると輝の方へとものすごい速さで小石が帰ってきた。
輝は急いで岩に身を隠したが、輝は豚のコントロールの良さを実感した。
輝は他にも岩を飛び移る撹乱作戦などを試したがただただ体力と精神力を消費した。輝は岩の裏に座り込み考えた。
「(ど、どうすれば……)」
しかし何も思い浮かばなかったが、輝はあることに気がついた。
「(あいつ家畜の分際で! 豚め!)」
輝は怒りを表にし、豚の目の前に出た。
「おォーーーーーー」
大声で叫びながら豚の方へ走って行った。
[体温が上昇しています。七十、八十、九十、百度に到達しました]
豚は様々な巧妙な動きで輝を攻撃しようとしたが全て外れた。輝が全てを避けたのだ。輝は瞬間以上とは言わなくともかなりの俊足で豚を撹乱した。そして豚の後ろをとった。
「豚野郎!」
輝はボーズキンのように豚の背中にボディダイブした。
「ジュワー」
豚の体がこんがり焼けてしまった。体の表面はきつね色に焼け、豚のいい香りが多度寄ってくる。
[体温が常温に戻りました]
輝は焼き豚にかぶりついた。
「(うまい)」
みるみるうちに豚の体は食べ尽くされてゆき、気づくとすでに骨のみが残っていた。輝は豚の骨を引き裂き、腕の長さほどの一本の骨槍を持って渓谷を歩き始めた。
輝は自身の俊敏の動きの理由を理解してはいなかった。通常、温度が上がると、酵素の働きが活発化し、エネルギーの生産性が上がることまでは誰にでもわかる。しかし、実際なら。四十度を超えると、酵素は変形してしまい、使い物にならなくなるはずなのだ。ところが、輝は四十度を優に超えた百度に達しながら、普通に生きているのだ。
「(体温ってどういう時に上がるんだろ)」
[今までの三回あったと思われる中、二回は恥ずかしさで、先ほどは怒りからとみていいでしょう]
「(なんでこんな魔法なんだろうな、俺あんま感情の起伏激しいわけでもないのに)」
すると輝を再び空腹が襲った。
「(腹減った)」
輝は肉を食べたばかりであるため、お腹が減るということは不思議だが、炭水化物がないと満腹感が得られないという事実もある。
輝が空腹に耐えながら歩いて行くと、大きな建物のようなものが目の前に現れた。壁は直角ではないので、輝は足の踏み場考えながら、巧みに登って行った。そして、頂上に着くと大広間のような場所に到着した。そこには大きな卵のようなものが二、三個点在する。
「(あれ?もしかして…道戻って来ちゃったかな)」
[いいえ、渓谷に沿ってまっすぐ歩いて来ました]
「じゃあこれは?」
[……照合中……あなたの記憶との称号結果により、九十パーセントは同一のものまたは複製のものとして考えてよいでしょう]
「(ありがと、意外と便利だな)」
しかし、もしこれが同一の鳥の巣であるとしたならば、この渓谷は円形つまり上からの出口しかないことになる。すると輝は卵に近くに狼のような獣が二匹見えた。
「(あいつって途中で俺が逃げた…卵を狙っているのか。俺が食べてやるよ!)」
輝は巣の中心あたりに降りて行き、狼とも目があった。
「またあったな! 残念だがそれは俺のだ! 逃げるなら今だぞ(頼む、逃げてくれ)」
もちろん狼たちは逃げず、卵を狙っている。どうやらどう食べていいのかわからないと見受けられる。
「こっちも見ろや!」
それでも狼は無視し続ける。
「俺に負けるのが怖いのか!(トク? 体温は?)」
[変化はありません]
「(こんなに起こっているのに)」
しかし、狼はついに標的を輝に変えた。狼たちは二匹で輝を囲んだ。もう輝に逃げ場は残されていない。
「(やばい、これからのこと考えていなかった)」
狼たちは輝の周りをぐるぐると速く回った。テルの目には何匹もの狼に囲まれているように見えた。すると突然輝は背後から攻撃を受けた。輝はどうしようもできず、なんどもなんども攻撃を受け、心身共にボロボロになった。
「もういいから、殺してくれ! 俺痛いだけじゃねーか」
狼たちはさらなる攻撃を仕掛けた。手足などに数カ所噛みつき、輝は立つことすらできなくなったしまった。狼たちは突然逃げ去った。輝にはそう見ることしかできなかった。
オオワシが帰った来たんだ、と輝は認識した。すると一匹の狼が空から何かに捕まれ、どこかにいなくなった。輝はあまりの痛みにこの時気絶してしまった。
輝は渓谷に来て最も心地の良くねむった。巣の柔らかさと温もりがテルの体を温め、輝は何にも怯えることもなく自然に目を覚ました。体を起こすことができないほど体は傷ついているが、傷が治りかかっていることに気づいた。傷の表面には緑色の体液のようなものがついている。
「(どういうことだ? そんな速く治るはずは……)」
そこに大鷲が草のようなものを持って飛んで来た。




