第七十四話 それぞれの道
第七十四話 それぞれの道
「それで、これからどこに行くんだっけ?」
「そうね、私はそろそろあの塔に行っても良いんじゃないのかって思うの。テルはどう思う?」
「そうだね、あれ結構気になってるし。でも、なにをするんだろ?」
「昨日ちょっと情報を集めてたけどなにせ情報が少ないからね……あそこで各国のリーダー、国王直属の騎士が魔法や戦闘能力を見て選び抜くらしいんだけど、心配ね」
「でも行ってみよう」
「結構待つかも知れないね。それより、どの国があるか知っている?」
「(この前の演説だよな)あぁ、知ってるよ」
「行きたいとことか決まってる?」
「そうだな……」
輝は考えた顔をしながらも、トクに聞いていた。
「(トク、なにがあったっけ?)」
[アニマリストは動物好き、パワリストは力馬鹿、マジリストは魔法重視、そしてなにもできないあなたにぴったりなマルチリストです]
「(そういうこと事実を捻じ曲げたこと言うんだな!)」
[事実を述べたのみです]
「(否定はできない……確かにそんな印象があるからな)」
「サクラはアニマリストだよな? 遺伝子系だし……」
「そうね、あそこが良いかな? まぁ、パワリストでも良いかなと思ってるし……」
「えぇ! サクラがパワリスト? でも……」
「言ってなかったわね、私のスターテスは遺伝子操作のおかげで多少ながらも一度に十まで変えることができるの」
「(強くね!)ってことは……」
「そうよ、例えば精神力の十を腕力に移せば、腕力はなんと二十七になるってこと! 凄いでしょ」
「うん、やばい」
輝は何度も頷いた。
「(俺は……)俺はマルチリストかな? 他には入れそうなところないし……」
「いいえ、動物は香りを好くじゃない」
「でも、なぁ〜」
輝は多少は落胆したよ上はあったものの、後悔はしていなかった。
「(多分弱小国だけど俺がなんとかしてやる! なんてな)」
輝とサクラは初心者ギルドを離れて、塔のある街中に向かった。
「それで、これに百コンクいるんだよね?」
「えぇ、そうよ」
塔の入り口には多くの閲覧客と、輝のような挑戦者がいた。輝とサクラは人を嗅ぎ分けて、塔の中に入って行った。
「(近くで見るとやっぱでかいな)」
「そうだね、本当にどうやって作ったんだか」
塔には五人程度が同時に案内される仕組みで、偶然輝がサクラと別れてしまう結果になった。
「サクラ、じゃあもしかしたら戦場で!」
「そうね、その時は手加減しないわよ! あと、機力の方は足りてる? 途中で無くなったりしたら……」
「大丈夫、大丈夫! 最近はほぼ一日余裕になったから」
「現実でも楽しみね」
「はい(そうだったな、これはもともと機力のために始めたんだった)」
輝は塔の中に入って行った。塔の中にはまるで他のプレイヤーのように作り込まれたゲームキャラクターが案内人であった。
「こんにちは、それではあなたたち五人にはまず入場料としての百コンクをいただきます」
一人ずつ払ってゆき、全員が百コンクを支払った。
「(これでかなり稼いでるな、まぁゲームないマネーだからそんな関係ないか)」
輝たち五人は大きな部屋に招待され、その上には四人の各国の騎士と思われる人物たちが立っている。そのうちの一人物が立ち上がって言った。
「それでは右のものから、名前と魔法、そしてどの国に奉仕したいかを言い、見せてもらいたい。的はこの通りだ!」
輝は一番右に、つまり彼らから見たら一番左に立っている。
「はい! 私はコンラド、私の魔法は火炎属性魔法、マジリストに入りたいです!」
その男は背の高い、堂々とした身形で立っている。歳も二十代後半のようだが、アバターと実際の人物は輝を除いて全くと言って良いほど違うため、あてにはならない。
そう言うと、その男は杖を構えた。
「フレアフパイラル」
そう唱えた途端、的の周りに火柱がたち、的を焼き焦がしながら回転して上がって行った。
「(やばい、強すぎ)」
マジリストの騎士だと思われるものが拍手をしたと思うと、マジリストに迎えることに決定された。その男は中央の左にある、不思議ながらも豪華な扉を通って行っ
た。
「次!」
それは続いていゆき、一人は、アニマリストへ毛皮の扉を抜けてゆき、もう一人のマジリスト、巨大で重そうな扉を押して出て行ったパワリストも一人いた。
「(ついに俺の番だ!)」
輝の体は少しながらも震えていた。
「(やばい、緊張する)」
「私はテル!魔法は香り魔法で、人も動物もを魅了します!私はマルチリストに行きたいと思っています!」
堂々とはっきり大きく輝は言い切ったのだが、がむしゃら感が否めない。騎士たちは不思議そうな顔をした。おそらく、マルチリストに行きたがるものがいないためだろう。
「それでは、まずは体力の回復効果、精神力の上昇効果のある香りを出します」
輝は緊張を隠しながら言う。
「フラワーフレグランス・アタッチド!ラベンダー!(まだ立っていない、あの騎士に!)」
その騎士から爽やかな優しいラベンダーの香りが溢れ出した。
「本当だ!」
他の騎士たちも多少ながら驚いているようで、おそらく付与効果に魅了されているのだろうと輝は見切っていた。
「この香りは、動物を寄せ付けることも、突き放すこともでき、これから動物を操ることもできるようになる予定です!」
全ての騎士たちは顔を見合わせたが、もちろんのことなんでも受け入れると言ったマルチリストは輝を受け入れた。
そして、輝が向かう扉とは……木でできた壊れかけの扉であった。
「(初心者ギルドとそう変わんないな)」
輝は扉を開いた。すると、どこまでも続くほど長い、木製の吊り橋があったのだ。
「(これは……ほかだったら違っただろうな)」
そんな歩くたびに壊れかけるような音がなる吊り橋を輝はゆっくり歩いて行く頃、サクラの審査の順番が来ていた。
「私はサクラと申します。私の魔法は遺伝子操作魔法、是非ともアニマリストに入って活躍したいと思っています」
サクラは非常に落ち着いていた。
「遺伝子操作は通常人に見せることは難しいので、自分にできる範囲で見せたいと思います」
そう言ったサクラは、的をまず一発殴った。その的はゆらゆら揺れたかと思えば、すぐに元の位置に戻ってきた。サクラは大きく息を吸った。
「それでは。ジン・モーディフィケーション!」
遺伝子操作を自身に与え、腕力を底上げした。サクラは的に向かって全身し、フルパワーで的を殴った。
「………」
全ての騎士は唖然とした。こいつはやばい……と。




