第七十三話 輝へのご褒美
第七十三話 輝へのご褒美
輝は日本語で書かれた本を開けた。
「(これは読めるぞ!)」
輝は微笑みながら読み始めたその本は香り魔法の初級と書かれていた。
「(ついに初級の書か……)」
[ついに、ですね]
その内容はいたってシンプルで、輝にも理解は当然できた。
香り魔法の初級には香りを与えるという魔法、フレグランス・アタッチド、それはある一定のものに香りを与えることができるという魔法であった。つまり、今までは、輝自身が発していた香りを他に与えることができるということで、範囲効果から、集中的範囲になったのだ。
「(これは使えそうだな)」
[そうですね。これで他の動物に追われることもありませんし]
「(でもこれってどう使うんだよ)」
[それを読むのではありませんか]
輝が読み進めて行くと、魔法の使用方法が載っていた。フレグランス系魔法の後にアタッチドをつけて、頭の中でものを指定するそうだ。
「(こういうことか?)フルーツフレグランス・アタッチド!(あの机!)」
輝の詠唱した通り、輝の指定した輝の向かいにある机のあたりから甘い果実の香りが溢れ出した。
「(すごい、これは使える)」
その香りは輝が発する際ほどではないにしろ、動物の意識を写すことに使えそうでもあった。しかし、一つある問題は魔力の消費量であった。
「(今五減ったよな……)」
そうだ。この魔法は魔力を三消費するため、効率はそれほど良くない。加えて、レモン、ラベンダーなどの派生魔法を使った場合はその上、六の魔力が必要になるのだ。
「(いくら俺の魔力が高いからってこれはさすがにきついな)」
輝の最大魔力は現在二十三、確かに余裕があるように思えるが、実際問題魔力は時間で回復するため、戦闘では足りなくなる可能性があったのだ。
そんなことを考えながら、輝は二冊目の日本語の本、そして最後の本を読み始めた。
「(えっと、これは……)」
それは、香り魔法上級であった。最初のページにはいきなりの注意書き、香り魔法の書は入門三冊、初級二冊、中級一冊、上級一冊、そして幻の特級があり、上の級をマスターするためには、下のベースがないと力が減ってしまうそうだ。
例に出ているのは、もし一冊分足りていないと、半分。二冊で四分の一と減っていってしまう。
「(だからさっきのも香りが弱かったのか……)」
そうだ、輝は香り魔法の入門三がないために、威力は半減していたのだ。また、これは同時に輝が上級を読み始める前に、三冊足りないこと、つまり上級の八分の一の威力になるという事実を輝に叩きつけていた。
「(じゃあ、これってコンプしないと意味ないのかよ……)」
輝は絶望しながらも、コンプリートするという、新たな目標ができたことに満足した。この時点で輝はもうこのゲーム、四国対戦にどっぷり浸かってしまっていた。
そんなことも構わず、香り魔法の上級の書を読むこと自体は変わらない。輝は読み始めた。
随分と魔法を知っていると仮定した内容になっており、その魔法の正体は輝が街に待っていた魔法、アンチ魔法であった。これの発動方法は簡単で魔法の前にアンチとつけるだけだそうだが、なんと消費魔力はまさかのVIII、八だ。
「(八か……さすがにやばい……)」
輝は失望したようにしながらも、使って見ることにした。
「(なにを使おうかな?ってか、アタッチドと派生魔法も使ったら!)」
輝は顔に微笑みを浮かべながら唱えた。
「アンチ・フラワーフレグランス・アタッチド!ラベンダー!(あっちの壁!)」
爽やかな優しいラベンダーの香りとは相反して、異体の知れぬ刺激臭が壁の方からほんのりと香ってきた。
輝はどっとくる疲れを感じた。それと同時に、壁の方に近ずいて行くと、薄いが確かにある、強い頭が痛くなるような匂いであった。
「(きついな、流石に魔力十四消費は……)」
また、ラベンダーの効果の逆、つまり精神力が上昇し、体力が微かに減ってしまった。
「(これは攻撃にも使えるんだ!でもやっぱり魔力がな……)」
輝は諦め気味に、少し休憩をゲーム内で取ることにした。輝はベンチに横たわった。
輝はしばらくして起きると、魔力が回復していることを確認して、ゲームをログアウトし、寝た。ゲーム外では真夜中、輝はなにもすることせず、すっと寝付いた。
一年三十一日目・ジュライ十一日
輝は珍しく早く起き、早速ログインした。輝はロービに行くことせず、直接四国戦争に行ける設定に変えたため、すぐにゲームに移ることができるようになっていた。
「おはようございます」
「おはよう、テル!」
「昨日はどうでした?」
「本当にここの商店街は品揃えもバッチリ、なんか今まで使ったお金がもったいなくなっちゃった」
「それで何か買ったのですか?」
「えぇ、本を数冊とこの剣をね」
「(どんだけ金持ってんだよ)えっと、その剣は?もう、その長い刀があるのに?」
「あぁ、これ?この剣はテルにあげようと思って……お金稼ぎすぎちゃったみたいでね」
「でも、そんな高価そうな……」
「高かったのよ! でも、ご褒美もいるでしょ? 私より早くついたんだから!」
輝はその剣を受け取った。それは、とても短い短剣で、日光を反射してキラキラ輝いている。その剣は軽く、数個の穴が空いている。
「ありがとうございます!」
「そんな敬語使わないで。あと、それの凄いところはね、香りの度合いによって長さが変わるらしいの! だからテルにぴったりだ! と思ってね」
サクラは微笑んでいった。
「(優しすぎる……)」
輝は試してみることにした。
「フラワーフレグランス・アタッチド!(この剣!)」
「なに、新しい魔法?」
剣から花の甘い香りが溢れ出した。そうすると、剣の長さが多少ながらも長くなった。
「すごい!」
「えぇ、本当に不思議ね」
輝は再び唱えた。
「フラワーフレグランス・アタッチド!(この剣!)」
剣から花の甘い香りが一層強くなった。そうすると、剣の長さがまたも長くなった。とは言っても、もともと手の平程度のサイズがの倍ぐらいで、この倍より上と言ったら、長刀ほどにもなりそうであった。
輝はまた感謝を込めてサクラに頭を下げた。
「サクラ、本当ありがとう」
「そんな、良いって!」
輝は思い出したように話し始めた。
「それで、これからどこに行くんだっけ?」




