第七十話 予期せぬ展開
第七十話 予期せぬ展開
「(そっちか、練習の方な)フラワーフレグランス!」
輝はそのまま、歩いていく。
しかし、なかなかタルンは輝を褒めに来ない。
「(おかしいな)」
輝は後ろを振り返った。
すると、見覚えのある蝶がそこにはいた。
「おい! お前は、あの時の!」
その蝶、スマトレンボ、は輝の敵意を感じ取ったやいな、方向転換し、森の方に逃げていった。
「テル……あれだよ」
輝との距離を詰めようと走って来たために、タルンはかなり疲れているようだ。
「俺の魔法は森とかではあまり使えないんだ、頼むからあれを捕まえて来てくれないか?」
「でも虫ってほとんだが森にいないか?」
「そういう時はトラップをあらかじめ貼っておいて、うまく見えるように森の中を加工しておくんだ」
「なるほどな」
「それよりも頼む」
輝は頼まれたからというよりは、前に逃がしてしまった悔しさに森の中にスマトレンボを捕まえに入っていたった。
「フラワーフレグランス!」
甘い香りが輝の周りに漂ってくる。
「(タルンには見えないよな)悪魔ムリュウ!」
黒い煙幕とともにムリュウが現れた。
「ムリュウ、頼むからまたあの蝶を捕まえるのを手伝ってくれ!」
「なんだ?逃がしたのか?」
「……頼む」
「これが最後だからな!」
遠くに見える蝶は木漏れ日を反射しており、輝くその色は目印にもなった。
ムリュウは飛んで、輝の先を蝶を追いかけていった。
「(くそ、ムリュウ頼んだ!)」
輝は魔法を使おうにも、回復したばかりの魔力がIしかなく、あとはムリュウだのみであった。
輝は立ち止まった。
「(ムリュウ遅いな……)」
[遅いですね]
すると、何かが輝の方向に飛んでくる。
「ムリュウ、お前か?」
特に返事はない。
しかし、輝いた羽を見た途端、輝はストラレインボであることに気がついた。
輝は特に注意を払っていなかったせいか、そのまま蝶を捕まえ逃した。
「あぁ!」
そして、輝は通り過ぎていった蝶を捕まえようと、追いかけ始めた。
蝶はさらに早く逃げていく。
「(くそ! ムリュウは何をしてんだ!)」
輝が追いかけていくと、森の外の方角であった。
突然、網が降りて来た。輝も網の中だ。
「えぇ?」
「テルも入ったか……」
「タルン?」
「あぁ、ありがとな、ここまで追いかけてくれて」
「いや、でも……」
「いや、突然走ってくる音が聞こえたから、もしかしたらと思って網を張っておいたんだ」
「それで……」
袋のようなものの中に、タルンはスマトレインボを捕まえ、入れた。
「その中に入った虫はどうなるんだ?」
「これは昆虫採集用の袋で、中に入った虫は自動で標本化されるんだ」
すると、タルンは背負っていたリュックから大きな本を取り出した。
「これでコンプリートのはずだ!」
その分厚い本の中には、様々な虫の標本が入って降り、見覚えのある、ムカデのような虫から、見たことのないようなものまで、そしてストラレインボも中に入っていた。
「すげー、こんなゲームの楽しみ方もあるんだ」
「本当にE-gameは誰にでも楽しめるようにできてるからな」
「それで……」
「そうだな、捕まえることもできたし、いまは払えるだけ持っていないんだ、あしたの朝、テルのいたギルドにいくからあそこで待っていてくれ」
そういうと、タルンはどこかに消えていった。
「(ムリュウは……)」
輝は森の中にムリュウを探しに入っていった。
歩いても特にムリュウのいる様子もなかった。
「ムリュウ!」
輝が読んでも返事はない。また、輝の魔力が残っているため、ムリュウが消えたとも考えにくかった。
「ムリュウ!」
「ムリュウ!」
テルは何度か呼んでみたが、結局見つけることはできず、輝は諦めて、ギルドの方向だと思われる方向に帰っていった。
一年二十九日目・ジュライ九日
輝は起きた。そして、ムリュウを見つけることができなかったことを多少は心配に思っていたが、消えたのだと思った。
そして、起きて初心者ギルド前には、タルンがいた。
「おはよう、テル」
「おはよう」
「これが報酬だ」
すると、輝には百五十コンク渡された。
「えぇ?」
「受け取ってくれ」
「でも……」
「実際捕まえることもできたんだしな」
輝は申し訳ない気持ちもありながら、その百五十コンクを受け取った。
「それで、テルは四国に次行くのか?」
「明日、はぐれた先、違う、友人に会って行く予定になってるんだ」
「そうか、達者でな」
「タルンは違うのか?」
「このゲームは昆虫採取できたしな、四国でも新しい虫がいるわけではないらしい、あと…」
「あと?」
「ゲームはやっぱり飽きさせないな」
「えぇ?」
「シックレットインセクトっていう、ページが解放されてたんだ」
「秘密のってこと?」
「そうだ、だから今度はこの三つの虫を見つけに行くことにした」
「じゃあ、タルンも頑張れよ!」
二人の昆虫採取は終わった。そして、輝は回復した魔力でムリュウを召喚してみることにした。
「悪魔ムリュウ!」
しかし、何も起こらない。
「悪魔ムリュウ!」
やはり何も起こらなかった。
「(どうなっているんだ?)」
[わかりませんね、こればっかりは]
「(それで明日までどうする?)」
[街にまたいってみるのもいいですし、ムリュウをあの森にまた探しに行くってことも?]
「(じゃあ、街に行くか)」
輝は袋の中にお金を放り込んで、街中の方へ歩き始めた。
街の中は一層賑わっており、活気に溢れていた。
すると、前回来た時にはなかった、とてつもなく高い塔がそびえ立っていた。
また、その塔からは大きな四つの橋がどこか遠くにかけられており、それは四国に繋がっているのだろうと誰もが思った。
その橋を遠目に見ると、歩いて行く人たちがいる。そして、人々は次から次へとその塔の中に吸い込まれるようにして入っていったのだ。
「(三十日って、あの後こんなものが……)」
[やはりこういうことはゲームでないとできませんもんね]
「(明日俺もここに行くんかな?)」
[サクラ先生は特に何も言ってませんでしたけどね]
そして、輝は余分に手に入れた五十コンクを使える店はないかと、街の中を歩き始めた。
服を買うこともできるし、食べ物だってある、魔法の武器だってあるだろうし、魔法を学ぶこともできる。そのゲームでお金を稼いだ時の優越感に浸りながら、輝は魔法を学ぶ魔法の書を歩きながら探していた。
「(アンチ系のパフュームの魔法が欲しいよな)」
[武器でもいいんじゃないですか?]
「(でも、武器って、なんかな……)」
[まぁ、自分で稼いだお金ですしゲームの中ぐらいでは自由に使ってください]
輝はまるで正月のお年玉をもらった子供のように、いろいろな店に入っては見回って、ウィンドーショッピングを楽しんだのであった。




