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異世界でもコツコツ強くなっていきます!  作者: 黒陽
七章 四国対戦
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第六十九話 途方も無い虚無

 第六十九話 途方も無い虚無


 輝は怒ったタルンを見て、仕方なく魔法を使うことにした。

「(もし寄って来ても、捕まえるのにはムリュウがいないとな……)」


「それで!」


「フラワーフレグランス!」

 甘い花の香りが漂い始めた。


「おぉ!」

 タルンは驚くようにして匂いを嗅ぎ始めた。



「フラワーフレグランス!」

 花の香りが濃くなった。


「この花の匂いは格別だな、スマトレインボが寄ってくる理由もわかるよ」

 タルンは納得したように頷きながら、輝の周りに虫が寄ってくるのをみていた。



「フラワーフレグランス!」

 一層花の香りの甘さが濃く、さらに多くの虫がよって来た。


「それでスマトレインボはいるのか?」

「いるわけがないだろ! お前さんが偶然捕まえることができたこともわかっているんだ」



 輝はホッと胸をなでおろした。

「(これでもうバレることはないな)」



「キモ」

 輝はよってきた虫を踏み潰した。


「オイ!」

 タルンは大声で怒鳴った。


「何?」

 輝は急なタルンの変わりように驚いた。


「テル! 今何をした!」

「いや、特に何も……」

「今、虫を潰しただろ!」

「いや……それで怒っているのか?」

「怒るも何も、大切ない命を!!」

「でも、これゲームだぞ」

「そうだ、このゲームの中では生きているんだよ!」


 タルンは輝の周りの虫を追い払った。

「お前たち、こんな悪魔に千和くんじゃないぞ」

 タルンは小声で虫たちに話しかけていた。



「(なんだよ、この気狂い……)」

[まぁ、様々な人がいますしね]

「(なんだ、虫を寄せないと怒るし、寄せて潰しでもすると怒るって、勝手じゃないのか?)」

[雇い主ですからね]

「(バイトの時みたいじゃねーか)」

[そんなこともありましたね]



 〜

 輝は引っ越し業者でアルバイトをしていた頃を思い出した。

「輝、テキパキ働け!」

「でも、さっき十分休憩って……」

「だから十分たっただろ!」

「いやまだ六分しか……」

「そんなことどうでもいい! とにかく働け!」


 そして、輝は自分が働き始めた途端に言われたことも明確に覚えていた。

「輝! なんでお前はこうなんだ!」

「なんですか?」

「これは二階って言っただろ!それは一階だ」

「いや、さっき逆を……」

「口答えすんのか! 口を動かさずに手を、体を動かせ!」


 これは輝にとって覚えていたくもない経験であり、世の中の理不尽さ、人の下で働く辛さを知った経験であった。

 〜



「テル?」

「……」

「テル?」

「はい!」


 輝は自分が草の上で寝ていたことに気がついた。

「(あれ? いつの間に……ゲーム内でも寝れるんだ)」

[輝、今の短時間で魔力が回復してますよ]

「(こっちで寝るとこういうことがあるのか!)」

[そのようですね、今それほど寝てませんでしたし]



「テル! 大丈夫か?」

「はい、平気ですよ」

「急に倒れたかと思えば、寝始めて、驚いたよ」

「すいません」

「いや、いいんだ。もしかして虫苦手か?」

「はい、蝶とかなら平気なのですが、細長いのとかは無理です」

「そうだな、いい魔法なのにな」

「そうですか……」



 タルンはしばらく考えていた。

「もう一回やってみてくれないか、今度は俺の肩に乗って」

「えぇ!?」

「肩車だよ」

「いや、でも……」



 輝は男性として大事な部分が首元にあたるそんな肩車に抵抗があった。


「そんな気にすんなって! 後、俺は強いから安心していいいぞ」

「(俺が嫌がっている理由本当に理解してるんかな?)」

「ほら」



 タルンは膝をついた。そして輝はタルンの肩に乗った。


「それで何を……?」

「また、あれを使ってくれないか?」

「いいですけど……」


「フレワーフレグランス!」

 甘い花の香りが漂い始めた。



 虫が寄ってきたのを見て、タルンは嬉しそうに微笑んでいた。

「テル、お前最高だ!」

「ん?」

「この魔法は素晴らしいな!」

「は、はい……」


 そして、この後、結局はタルンが楽しんで一日が終わった。



 一年十五日目・ジュン三十日


 タルンは飽きることなく、今日もスマトレインボを探しはせず、輝の、魔法を楽しんだ。




 驚くことに、この後、一週間もの間何もせずに終わったのであった。




 一年二十二日日目・ジュライ二日


 輝は起床した。九時ちょうどにログインして、今日も覚悟を決めて、輝はゲームに戻った。


「おぉ、テル!」

「おはようございます、タルンさん」

「なんか疲れてるな」

「まぁ、最近何もしていないので……」

「そうだったな、スマトレインボを見つけなければ」

「(今頃かよ)」


 輝は呆れたようにして、タルンの方を見た。

「それで、どうしたいんだ?」

「そうだな、できるだけ虫を踏まないようにして、魔法を使って歩いてくれ」

「それで?」

「私がスマトレインボを見つけたら、名前を呼ぶから、魔法の強化を」

「強化って……」


「魔法を複数回するだけだ」

「わかりました」


 輝はもう百コンクのためにならなんでもする心持ちでいた。

「(後たったの八日で終わりだ!)」



「フラワーフレグランス!」

 どこかから甘い香りが漂ってくる。


 虫たちも寄ってきた。



 輝は歩き始めた。



 ただただ、歩いているのだ。



 たまに後ろを振り返ると、タルンがいる。



 そして、歩いていくのだ。




 これに結果的に一日要したが、スマトレインボの様子はなかった。



 そして驚くことにこれを次の日の、その次の日も繰り返した。



 ちなみに、昼の休憩は、輝は魔力の回復のために現実に戻らず、ゲーム内で睡眠をとっていた。



 一年二十五日目・ジュライ五日


 輝は後五日だと大いに喜びながら、朝起きた。

「(どうせ今日もただ歩くだけだろ)」


 そして、相変わらす、ただ歩くだけだった。



「テル!」


 たまに、タルンも輝の魔力の状態、疲れなどを聞くが、それら以外だと、ただテルが歩き、遠くからタルンが見つめているのであった。


「(タルンの魔法ってすげーな、結構遠いぞ)」

[まぁ、そのぐらいできないと、魔法じゃないですしね]



 また、たまにタルンはこういうのだ。

「スマトレインボだ!」


 輝は振り返るが何もいない。


 しかし、仕方なく、魔法だけは唱えておく。


「フルーツフレフランス!」



 そして、タルンは輝に近ずいてきて褒めるのだ。

「よくやった、本当に来ても頑張ってくれよな!」




 一年二十八日目・ジュライ八日


 後二日だと、輝はとび起きた。

「(どうせ今日もただ歩くだけだろ!)」


 そして、また魔法を唱えるのだ。

「フラワーフレグランス!」


 ちなみに輝たちが歩いていたのは草原、見渡す限りの広い平原だ。森があっても、タルンが見えないために、避けて歩いていた。



「テル!」

「あぁ、大丈夫だよ、まだまだ行ける」

「いや、違うって!」

「いや、ほんとに大丈夫だからさ」


 タルンは大声で叫んだ。

「スマトレインボだ!」


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