第六十八話 マニアとの出会い
第六十八話 マニアとの出会い
「ちょっとあんた!」
そこにやってきたのは、麦帽子をかぶった男だった。
「えぇ?」
輝は振り返った。
「今のって、スマトレインボじゃないのか?」
「何?」
「スマトレインボだよ、虹色に輝く羽を持つ蝶じゃないのかって」
「……(そうだったんだ)そうだったのかもしれませんね」
「なんで!」
「なんでなんですか?」
「なんで逃がしたんだ!」
「それは、ヌテライラフじゃないからですけど……」
男は落胆したように顔を落とした。
「スマトレインボはな、ヌテライラフの十倍の価値だってあるんだぞ」
「えぇ?」
「ヌテライラフは確かに三十コンク程度だがな、スマトレインボは二百八十コンク以上の価値はある!」
「(これって俺超惜しいことしちゃった)……」
[そのようですね]
「それよりあなたは誰ですか?」
「私はあなたと同じゲーマーですよ、ほら名前もありますでしょ」
その男の上にはタルンとあった。
「タルン……」
「そうですよ、テルさん」
「それで何をしているのですか?」
「私はこのゲームの虫のために来たものです」
「はい?」
「つまり、戦争以上にこの虫を集めるために来たんですよ!」
「じゃあ、スマトレインボの値段も……」
「私が決めました。あと、ヌテライラフも私が依頼しているものですが、ついさっき普通に手に入れることができましたけどね」
輝は何が起こっているのかよくわからないまま、ただ呆然とした。彼はスマトレインボを逃したことを深く後悔した。
「……」
「でも、あれをどうやって捕まえたのですか?あれは餌でもなかなか寄って来てくれないのですよ、私が近ずくとすぐさま行ってしまうので……」
「まぁ、魔法でそこらへんは……(悪魔なんて言えねー)」
「ほんとですか! 是非その魔法を!」
「すいませんね」
「お金は出します! 一様私もお金だけは必要だからと稼ぎまくりましたから!」
「(超つられる!)……」
「百コンクでどうですか?」
「スマトレインボを!」
「さっき二百って……」
「それは捕まえたらということです。手伝っていただけるだけで構いません……」
「何日間?」
「そうですね、ジュライの十日はどうですか? 実はこれが最後で」
「(おぉ、ちょうどその日には!)百三十コンクの三十コンクの前払いはどうですか?」
「……はい、いいですよ」
輝は三十コンクを受け取った。
輝は早速走って電話代を払いに行き、戻って来た。
「それで、私はどうすれば……」
「それではテルさん、あしたの朝から昼まで、夕方から夜中まででいいですよね?」
「まぁ、はい」
「それでは」
タルンはログアウトしたようだ。
輝もログアウトをすると、食事をとって就寝した。
一年十四日目・ジュン二十九日
輝はいつが朝起きると九時程度だったため、急いでログインした。
輝がゲームに戻ると、タルンはすでにいた。輝を待っていたのだ。
「おぉ、テル! やっと来たか! 俺より早くログインして、前金だけ持って逃げたかと思ったよ」
「そんなことするわけ、朝って言ってたけど、朝ってこのぐらいの時間じゃないのか?」
「そうだな、ちゃんと時間を言っていなかった俺が悪かった。これからも九時でいいぞ。あと、夕方は五時からな」
「了解! それで何をするんだ?」
「昨日はどこで捕まえたんだ?」
「昨日は小さな原っぱで見つけたんだけど……」
「そうか、あの原っぱだろうな……目星はつけてたんだけどな……」
「それで、そこに行くのか?」
「いや、一度あそこで捕まえられてまたそこに戻るか?」
「そうだな……(確かに、よく考えてるな)」
タルンはしばらくして言った。
「ここら辺はまずいないだろうな、この荒れた感じだと、ちょっと街から出た外に行ってみるか」
輝は何も知らないため頷いた。
タルンは街の中心と逆方法に進んで行き、草原にたどり着いた。
「ここからだな……」
その広がるばかりの草原はおそらく輝がずっと歩いて来た草原の一部だった。
「それでだ、テル。その魔法とやらを見せてもらおうか」
「(悪魔は流石にいかんだろ!)その前にタルンの魔法は?」
「そうだな、虫の気持ちを知りたかったからな、センスエンハンスっていう、誰も選んでいない新しいやつにしたぞ」
「それって?」
「そうだな、動物の感覚はすごいっていうだろ。それなんだよ」
「つまり、犬みたいに嗅覚が良かったり?」
「そういうことになるな。目もいろんなものが見えるし、音も様々な周波から聞こえるぞ」
「それでどうお金を……」
「いや、これのおかげか、探し物のミッションとかは簡単にこなせたんだよな」
「なるほど……」
輝は今度何を言おうか考えた。
「それでテルはどうなんだ?」
「えっと……(なんて言おう……)」
「えっと?」
「パフュームっていう、これも誰も選んでないやつなんだけどな」
「それって香りのやつか!?」
「あぁ……」
「それ、俺迷ったやつだ!」
「……(よく困難にしたいと思えるな)」
「もしかして、お前も虫に興味があるとかって事か?」
「いや、全く」
「じゃあ、なんでこれに……」
「間違えて選んだんだ」
「なるほど……」
タルンは納得したように頷き、輝にさらなる疑問を投げかけた。
「それじゃあ、その魔法を見せてもらおうか。いや、嗅ぐのかな?」
輝は悪魔のおかげで蝶を捕まえたことを知っていたため、本当にしていいのか迷っていた。
「フラワーフレグランス!」
何も起こらなかった。
「あれ?」
「何も香ってこないぞ!」
「(待てよ!)」
魔力がIであった。
「ごめんな、タルン。ゲーム時間的にはまだ魔力が足りないわ」
「そうだったか、そうだよな、さっき使ったんだったら」
タルンは落胆したようだったが、同じ魔法使いとして理解はしていた。
「それじゃあ、それまで待つか!」
「……(えぇ……)」
二人は草原で座り込み、輝の魔力が回復するまで待つことになった。
待つこと数時間、輝の魔法は完全に回復していた。
「テル? そろそろいいんじゃないのか?」
「いや、まだ待たないと……」
輝はそれを昼まで長引かせ、食事を食べにログアウトした。
「(おい、これってどうすればいいんだ?)」
[手伝うだけならフレグランスだけでいいんじゃないですか?]
「(だけど、きっとわかるだろ、だってまだ十五日ぐらいあるぞ)」
[ここは我慢です]
「(そうか、わかったよ)」
輝は五時にまた、ログインをした。
「じゃあ、見せてもらおうか!」
タルンは多少怒り気味に輝に向かって言った。




