第六十五話 迷いも旅も運次第
第六十五話 迷いも旅も運次第
ムリュウは輝の横に浮かんでいた。
「それでこの結界から出してくれるんだよな」
「あのな、もっと魔力のある契約主がよかったよ」
「なんだ! 悪かったな!」
「魔力が足りないことぐらいわかれよ」
輝は口を閉ざした。
「(そういえば魔力ってどのくらいで回復しているんだ?)」
[そうですね、体の一部として私には認識できていないので……]
「(使い物にならないな)」
[そんなこといいますか!]
「(なんだ? ムリュウが出てきてちょっと調子乗ってんじゃないのか?)」
[そんなことはないですよ! もういいです!]
トクはそれっきり口を聞かなくなってしまった。もちろん、口なんてないのだが…
すると今度はムリュウが話し始めた。
「そういや、お前なんていう?」
「おい、今頃か? 偉そうだな」
「なんだ、俺だって言ったんだぞ!お前が言わないのが悪い」
「ちょっとは直らないのか?(ベルトもこんな気分だったんかな、俺ここまでじゃないけどな…)」
「テルだ」
「テルダ?」
「いや、テル……だ」
「テルっていうのか、よし、これからはそう呼んでやるよ!」
「(こいつ疲れるわ)」
輝は待つこと数十分、魔力の回復を待った。この世界では魔力が大事だというのに対し、回復速度はランダムだと輝は認識した。たまには数秒で回復することもあり、ある時は十分程度もかかっていた。
「それでそろそろいいのか?」
「そうだな、Xあれば十分なはずだ。こんな結界なんて!」
ムリュウは結界に向かって、何かを唱えた。すると、みるみるうちに結界が消えていく。そしてみるみるうちにテルの魔力は底を尽きた。
「くそ、自分で魔力を作れないのかよ!」
「できたら苦労しねーよ、さっさとお前を殺してどっかに行くさ」
「お前も調子乗りすぎだぞ!」
「お前もって、さっきから俺を複数人みたいに例えんなよ!」
輝は立ち上がり、そして自分の今いる沼地を見渡した。何もない、ただ広いだけの大地だ。魔女もすでに姿を消していた。おそらく輝もろとも放って置くようにしたのだろう。
輝はあてずっぽに歩き始めた。その方向に道があることを信じて。
信じて。
信じ……
「(信じられない……)」
輝はひたすら歩いた。ただただ歩いたのだ。何もない、ぬかるんだ沼地
を……
ムリュウの方は常に浮かんでいる為なんの苦もなかったようだ。
そして、輝は一旦ログアウトした。もちろん、戻ってすぐ、ベッドに寝転び、寝たのだが。
一年七日目・ジュン二十一日
輝はまだ歩いていた。
一年八日目・ジュン二十二日
選択の余地はない。
一年九日目・ジュン二十三日
そろそろマンネリ化してきた。
一年十日目・ジュン二十四日
ログインをする意思もなくなった。
輝はその後もたまにログインして、ひたすら歩いてと繰り返した。輝には他にどうすることもできず、コツコツただ歩いていた。
ちなみにこのおかげと言ってはなんだが、輝のスターテスは上がっていた。腕力:IIII、脚力:XX、精神力:V、知力:I、魔力:XI X
脚力はもちろん長時間の歩きから、精神力もひたすら続く沼地からだった。却って、腕力は衰え、知力は変わらず一だった。
「(まだゼロじゃないからな)」
トクがいないと本当に輝は無知だった。そう、ローマ数字にはゼロは存在しなかったのだ。
そして、魔力が上がっているのは誰とも言わず、ムリュウのおかげ、常に無駄遣いをしている浪費元がいたからだろう。
一年十三日目・ジュン二十七日
初めて沼地からテルが抜けた。そう、そこには広がるばかりの草原があったのだ。輝は何があるとも知れず、喜んだ。そして、輝は走って進み始めた。
スキップ、そんな調子で輝は進んで行く。しかし、確かに風景は変わったにしろ、何もないことには変わりなかった。
一年十四日目・ジュン二十八日
輝は何かを見つけた。何やら建物らしい何かだ。
「(なんだあれ?)」
輝は遠目に何かを見た。
「(町か?)」
輝は小走りになりながら、そして微笑みながら行く。そう、今回は違った。その何かとの距離はどんどん縮まって行くのだ。
そして輝は気づいた。それが町でないことを…
そう、それは街だったのだ。
活気にあふれ、賑わった声が遠くからも聞こえるようにも思えた。
輝は走った。そして、街に着いたのだ!
「(トク、なんて書いてある?)」
[なんですか?]
「(拗ねるなよ、俺が悪かった)」
[本当に思っているのですか?]
「(思っているから、トクにしかわからないんだろ)」
[本当ですね?]
「(あぁ)」
[私が笑っても何も言いませんか?]
「(……あっ……あぁ)」
[はい、わかりました]
輝は街の名前を見上げた。
[第四の街アドバンスドタウン、四です!]
「(まじか! ショートカットしたんか!?)」
[そのようですね]
輝は今までの自分を誇りに思った。そう。しかし、そこに何が待ち受けているのかをまだ知らない輝はどうしようもなく、街に入って行った。
「すげー」
「なんだ、こういうところは初めてか?」
「あぁ、すげー発展してるな」
「こんなもんじゃ破壊しがいがないな」
「別に破壊すんなよ」
「いや、俺たち悪魔の使命は、人間の数を一定にすることだ。だから必ず俺たちの時代は来るってことだよ」
その街は今までとは全くと言っていいほど別物であった。まず、人々の様子が違うのだ。あれもがボロ絹を着ていた町とは違って、皆鎧やら、武器やらをこしらえている。輝は一人惨めな姿で街を見学した。
様々な店、商店街、そしてギルドらしき建物なんていうものもある中、輝は情けなくなり、裏路地に入った。
そこにはゴミ箱のような場所の中に、多くの服、そして武器が入っていた。
輝には選択肢がなかった。ベトベトの泥塗れの惨めな服を着ているよりは、誰かの捨てたものの方がいい。それほどの身分差であった。
輝はささっと着心地の良さそうな服を着て、そしてローブを選び羽織った。武器はほかっていた、短剣を選んだ。
テルが路地から出ると、何やら演説を行ってた。輝はそれを見に行った。そこには四人の男女性が立っていた。
四人の中の一人の男性が話し始めた。
「我々、四国の一国アニマリストはモンスターを愛し、この未来に起こる四国戦争もモンスターとともに戦い抜くつもりです。遺伝子解析、モンスター使いなどの魔法は大歓迎です。ぜひ我々のギルドに着てください」
そして、次の男性が話し始めた。




