第六十一話 迷子の輝
第六十一話 迷子の輝
輝は地図を見ながら道を進んでいくが、地図はかなり適当らしく、寸法も道の形もあっていなかった。
「(この地図あてにならないぞ)」
[まぁ、そうでしょうね]
「(なんでだよ、一様ゲームだろ!)」
[だからですよ、そんな簡単に行けたら困らないじゃないですか!]
「(確かにな……)」
輝はひたすら道沿いに進んで行ったが結局何の発展もなくただ歩いているだけであった。輝が知り得る情報はイノロクのくる逆方向にあること。でも、どちらから来たのかもちろんわからないことに加えて、輝にはどれほど地図を信用して良いのかわかっていなかった。
「(前みたいに地図に茶化されるのは御免だな)」
[だったらどうするのですか?]
「(もしイノロクの逆方向にあることが正しいとすればだぞ……)」
[でもそれも信用できますか?]
「(どうかな? でも魔女も近くにはすみたいと思わないだろ?)」
[サーバー的にも話しておいた方が良さそうですものね]
「(よし、決まりだ)」
[フルーツフレグランスですか?]
「(それしかないだろ)」
輝は道の真ん中に立って叫んだ。
「フルーツフレグランス!」
すると、どこから甘い香りが漂い始めた。
「(これでくるはずなんだけどな……)」
「ドドドドどっぉおおぉぉおぉぉ」
足音が聞こえる。何かが走ってきている音だ。
「(これって!)」
そうだ。案の定、イノロクだ。テルの方へ一直線。輝しか見ていない。
[輝、走らないと!]
輝は思い出したように、イノロクの走ってきた方向と真逆の方向へ道から外れて走り始めた。
道から外れた道は、通りのコンクリートのようではなく、泥や沼といった感覚の地面であった。
「(なんだこれ、この沼の感じもすごくいい感じで表現されてんな)」
もちろん、感心している暇なく、イノロクは沼の上でも走ってくる。
「(やばいって!)」
輝はそのまま沼で滑ってこけてしまった。もちろん、ゲームからそれぐらいではログアウトはされず、そのままこけたまま、イノロクに追いつかれてしまった。輝は急いでロウアウトした。
「(フゥ、これで一旦安心か……)」
[イノロクはスポーン地点に戻るのでしょうか?]
「(わかんないな、でも戻っては欲しいよな)」
[このまま戻ってしまったら……]
「(まず、あの転けた状態から立ち上がって走るのには無理があるよな……)」
[もう、いっそのことイノロクに任せて見ては?]
「(死ぬこともないんだよな?)」
[そう言ってましたね]
「(よし、そうするか!)」
輝は再びE-gameを始めた。そして、ゲートを通ると、沼の中に戻ってきた。もちろん、イノロクはもうマジかにいた。
「(やっぱりそうくるか……)」
輝は目を閉じ、イノロクに身を任せた。
すると、イノロクは輝の服を加えて輝を引きずり始めた。
「(匂いさえ消えれば……)」
輝はそのまま引きずられていく。
「(てか、いつ消えるんだ?)」
[わかりませんね、前回からすると、まだ当分は……]
「(了解、あともう少し目を瞑っておくよ、泥入ると痛いだろうしな)
[変に現実的ですもんね]
「(お前は何も感じないだろ)」
[どうしてそう思うんですか?]
「だって、俺の感覚を脳から得てるとか言っていなかったか?」
[だから関係ないんですよ!]
「(待てよ……そうだな……)」
輝は引きずられていくこと、数分間そして止まった。それは、輝の匂いが消えたからなのか、目的地に着いたのかはわからない。
「(あれ? 止まった?)」
輝はゆっくりと泥まみれの体を起こす。
「(ここはどこだ?)」
輝は泥まみれの体で泥をぬぐい落とし、目を開いた。
すると、そこには木々が生えていた。どうやら森のようであった。
しかし、勿論輝にはどこにいるのかさっぱりわからなかった。加えて、イノロクもどこかへ走って行ってしまった。
「(ここからどうすれば……)」
輝は立ち上がり、森の中を歩き始めた。ありがたいことに森は暗くなく、木漏れ日が入ってくる程度のものであり、さらにゲームの設定上常に昼であるため、問題なく森を歩く回った。
「(わからんな)」
[よくある、木に登るっていうことは……]
「(なんで早く言わないんだよ!)」
[散策楽しんでいたもんですから……]
「(もっといい言い訳考えろよ!例えば泥のせいで登れないと思ったとかさ)」
[それもあります。ほら、散策のおかげで乾いたじゃないですか!]
「(はいはい)」
輝の体は、カピカピになっており、泥は足元のみ、体は砂っぽくはあるが乾いてはいた。また、森の中は、地面もぬかるんでおらず、ベトベトした印象はない。
輝は気に登り始めた。
勿論簡単ではない。
足の裏は濡れているためか、滑るのに加えて、輝はゲームのスターテス上、腕力は強くなかった。
「(くそ、うまくいかない!)」
ちなみに、森を出ようとすでに試みたが出口が見つからなかったようである。
木はそれぞれ同じような色をしているが、形は違った。輝は一つ一つ登れそうかを試していたが、木を登りきるには少なくても足を三回かけなければならず、途中で足が滑ってしまうのが現実であった。
輝は諦めず繰り返し挑戦したが、輝は我慢強いかというとそうでもない。輝はログアウトして、就寝した。
一年五日目・ジュン十九日
輝の起床時間はこのところと比べると遅かった。これはゲームによくあることで、一度詰むとしばらくしたくなくなるのだ。また、最初から…などと行ったこともできないため、輝の士気は完全に薄れていた。
「(なんかめんどくさいよな……)」
起きたのは昼間近。朝食というよりも、ブランチをすませた輝は、気が進まないながらも、退屈さからE-gameを開始した。
しかし、勿論ここでも前のように飛んでゲートには向かわない。しばらく、街の中を見ていた。
東京のような風景を楽しみ、懐かしみながら輝は時間を過ごしていた。
「(やっぱりこの出来はすごいな)」
[やっぱり懐かしいでしょう]
「(まぁ、異世界に行くことは俺が決めたことだけどな)」
[後悔は無いってことですね]
「(してもどうしようもないしな、母ちゃんが多少心配なぐらいだ)」
[それでいつ四国戦争に戻るのでしょうか?]
「(戻ってもどうしようもないぞ)」
[だからって何をするのですか?]
「(ここで、遊んでるよ)」
[他のゲームということですか?]
「(えぇ……なんかゲーム全般つまんないしな)」
[これだから輝は……もっと我慢強く!また、ゲームしましょ!]
「(なんでお前はこんなに熱心なんだよ!)」
輝は嫌々ゲートの方へ歩き始めた。




