第五十六話 偶然か必然か 一部
第五十六話 偶然か必然か 一部
牧場へ向かうとそこにも多くの人がいた。恐らく、あのミッションは全ての人に対して、つまりあの案内人や受付人たちは全てNPCつまりプレイヤーでは内容だ。見たらわかると言えるかもしれないが、この世界では全ての人にネームタグがなく、見た目では判断できないのが現実であった。
牧場には他にもシウホーンと言われる闘牛のような生き物がいた。体毛は青色の不思議な生き物であった。
「(バッファローみたいだな)」
誰も苦戦しているらしく、木の棒ではとても太刀打ちできない、それどころか五人係でも捉えきれていない様子であった。
「サクラどうする?」
「そうね、まずは倒すかだわね」
「倒すってあんな大きいのを……」
実際、輝は全く変わっておらず、一メートル八十もないのに対して、シウホーンは二メートル以上の高さに、幅は力士ほどもあった。
「これ本当に、最初のミッションかよ」
輝は他の人をみるが、シウホーンに飛ばされるや否、プレイヤーが消えていった。棒でシウホーンを叩くなり、シウホーンに蹴り飛ばされたのだ。
「あれ?」
「機力切れよ」
「でも……」
「戦う場面では気力の消費も激しいから、ちょっと休む?」
「そうですね」
そういうと、輝必死に目を開けようとしたが、アバターが目を見開いているだけであった。
「そういえば、どう戻るのですか?」
「いってなかったわね、自分の喉の下あたりを押すと勝手にゲームから出られるのよ」
輝は押して見た。すると、目の前が暗くなり、目を開けると戻ることができた。
「それでは、昼食の後に」
そういうと、輝は部屋を出て行く、自室で昼食を済ました。
「(意外と楽しそうだけど、機力の制約がつらいな)」
[訓練あるのみですね]
「(そうだな、でもあのシウホーンとかやらをどうしろっていうんだよな)」
[そうですね、でも不思議なのは、ゲーム内でも私の存在があるということですよね]
「(どうだな、特に気にしていなかったけど、不思議だな)」
[それでシウホーンを魔法や武器なしで倒すには頭を使う必要があると思います]
「意味わかんねーよ、弱点とかをつくじゃダメなのかよ」
[それでは弱点がわかるのですが?]
「(でも大抵どっかにあるだろ)」
[それを試すということですか?]
「(ダメか?)」
[いいえ、いいじゃないですか]
「(よし、早く戻るか!)」
輝は急いで先生の元へ戻り、ゲームに戻った。
「先生、しましょ」
「いいわ、機力の方は大丈夫そうね」
「はい」
ゲームに戻ると、相変わらずあのプラットフォームそして、ゲートを通って牧場に戻ってきた。
「それで、サクラ、俺考えたんだけど、どこかに弱点があると思わないか」
「そうね、あるかもしれないわ」
「じゃあ、どうする?」
「可能性としてはどこが怪しいと思う?」
「恐らくしたか上かだと思うんだけど……」
「じゃあ、私が囮になるから、あなた飛び乗って!」
「えぇ? それは……」
「じゃあ、あなた囮になる?」
「それも……」
「だったら、私が飛び乗る方するから、あなたは下の方を探って」
「別々のってこと?」
「そう、それで……」
「後のことは後で考えましょ」
牧場には複数のシウホーンがいたため、人数の少ない方へ向かった。
「ここら辺でいいかしら?」
「いいんじゃない? でもこれって棒で叩くってことか?」
「そうよね、全然攻撃的じゃないし、こっちが何かをした時しかしてこないからね」
「じゃあ、一回チャンス?」
「そう見たいね、運よ、運」
そういうと、サクラは走って助走をつけると、シウホーンの背中に飛びとった。すると、シウホーンは暴れ出してしまった。サクラはシウホーンに捕まりながら、気の棒で叩いていった。
輝は負けじと、シウホーンの下へ滑り込み、腹部の毛に捕まりながら、気の棒で叩いた。
最初は、なんとかなるとも思われたが、輝は真っ先に振り落とされた。
「いて」
すると、シウホーンは輝の方へ突進して行くのだ。
「待てよ!」
輝は蛇行しながら走り回って逃げた。確かに、シウホーンの方が早いが曲がりくねった道では輝の方が早いようだ。
その同じ時、サクラもシウホーンの背中から振り落とされてしまった。
「まずい!」
サクラも輝と同様、走り回り出した。
しかし、走るといった行為はサクラが言ったように機力の消費が激しいため、疲れていった。
そして、気づくと、輝は牧場から離れた場所に、それを追うようにしてシウホーンが来ていた。そして正面にはサクラが走って来た。
「サクラ! ぶつかるって!」
「でも、どうしようもないわ、私も追いかけられているし」
そして、次の瞬間、ものすごい音で衝突した。
「ドーン」
「バタ」
倒れた。
しかし倒れたのは輝でもサクラでもなかった。そう、テルを追いかけていたシウホーンとサクラを追いかけていたシウホーンがぶつかって倒れたのであった。
「あれ……?」
「俺たち倒したんか?」
「そのようね」
「でも捕まえるってどうすればいいんだ?」
「これを持って行くのかしら?」
すると、倒れたシウホーンの上にメダルのようなものが出現した。
「これってギルドメダルっぽくないか?」
「もしかしてこれを持って帰るということかしら?」
そうして、二人はそれぞれ一つずつメダルをとると巾着に入れた。
輝とサクラは町の方へ戻って行く途中、先ほど倒れていたシウホーンがピンと起き上がって牧場の方へ走って行く様子を目撃した。
「(やっぱり、こういう設定なんだな)」
そして、二人はギルドへ戻って来た。
「本当にこのメダルだけでいいのかしら?」
「まぁ入って聞いてみよ」
輝はギルドに入ると先ほどと同じように、案内人に話しかけられ、女性の方へ向かった。
「あのこのメダルでいいのですか……?」
輝はメダルを提示した。
「おぉ、見事捕まえましたね」
「は、はい」
「私もあります」
サクラもメダルを見せた。
ギルドの中にいた人たちは輝たちの方を凝視していた。
「(なんで見てんだ? みんな揃って)」
[珍しいことなのでしょうか?]
「サクラ、なんでみんな見てんだ?」
「ここのギルドは二階が本元、一回は酒場がメインなの」
「つまりギルドにいない人たちってこと?」
「そう、あのミッションをクリアできないと、ここで暮らしてお酒とかを飲んで行くしかなくなるのよ」
「運が良かったな」
「そうね」
すると、二人は二階への階段に案内された。
「それでは御二方こちらに越しください」
そこは暗い細い階段があり、一段上がるごとにキーといまにも壊れそうな音を立てた。




