第五十二話 一瞬の出来事
第五十二話 一瞬の出来事
ボビーの姿はなかった。ダルクは大声で叫ぶがやはり彼の姿はなかった
「ボビー! 不戦勝にするぞ!」
その間、ケレンとクラークの会話は続いており、輝はこっそりと後ろで忍び耳を立てていた。
「それで彼が強いのは家柄かしら? どこの子なの?」
「どこの生まれかも知らないが、師匠の推薦で入っていると聞いたぞ」
「師匠……有名な方?」
「あぁ、魔賢者マグニスだ、って噂で聞いたが本当かは知らないな」
「えぇ、マグニスってあの!」
もちろんのこと、輝には誰なのかさっぱりわかっていなかった。
「(誰だよ、そのマグニスって)」
[知りませんね]
「(けど、魔賢者ってことは……)」
[A級魔道士の上、法力、機力、知力全てが揃っていると言うことですものね]
「(だからやばいのか……)」
[それよりも、ボビーさんはどうしたのでしょうか……]
「(確かに遅いな)」
ダルクは再び言った。
「ボビー、いいのか!」
すると、ボビーが出てきた。体よりも大きいハンマーを持って。
「おぉ、ボビーどうしたんだ?」
「先生、これの値段証明です」
ボビーはダルクに紙を見せた。
「了解だ、前もって準備できるといいな」
「すいません」
「じゃあ、早速始めるぞ」
「はい」
ボビーは重そうにしてハンマーを持ってA組生徒の前にたった。
「それでは、A組キリとB組ボビーの試験を開始する」
ダルクがいい終えたその瞬間であった。
ばたりとボビーは倒れた。
「おい」
ボビーは気を失っていた。ダルクはボビーの方へ駆け寄って行った。
「ボビー!」
ダルクはボビーを持ち上げた。
「あのすいません……」
キリがダルクに話しかけた。
「俺の勝ちでいいですよね」
「あぁ、A組キリは残留とする」
ダルクはボビーを運んで行った。
「(何が起こったんだ?)」
[よく見てませんでしたもんね]
「(それもそうだが……)」
ケレンはクラークとまた話し始めた。
「あれは速かったわね」
「あぁ、あいつはマジで速い。さっきのやつも速かったし、ほかにも速いやつはいるあ、キリの速さは集中して肉眼でやっと見える程度だからな」
「彼は本当に強いわね」
「相手が相手だったけどな」
クラークは大声で笑った。しかし、キリが戻ってきた途端、クラークは黙った。
「……」
対して、ケレンはキリの方へ寄っていった。
「あなた強いのね、私を見ていたかは知らないけど、私ケレンというの」
「……」
キリはケレンを無視して、観客席に座った。だが、ケレンは負けじとキリの隣に座った。
「あなたの師匠が魔賢者のマグニスってきたんだけど、本当?」
「……」
「まぁ、あなた強いものね、あなたは魔導師を目指しているのね」
「……」
ケレンはとことんキリに無視されていた。しかし、無視どころか深くローブのフードをかぶっている様子から、ケレンさえも見ていないようであった。
「(キリってなんなんだ? ケレンがあんなに話しかけてんのに)」
[キリに起こっているのですか? それとも嫉妬ですか?]
「(トク、お前は黙ってろ)」
他のA組生徒もキリが戻ってきた途端に静かになった。輝は思い出したように、クラークに小声で聞いた。
「クラーク、なんでA組の生徒はローブを羽織っているんだ?」
クラークも小声で返答した。
「最初に来た時、キリが着ていたんだ。それからだ」
そうだ、どうやらキリはかなりA組に影響力があるらしかった。
すると、ダルクが戻ってきた。
「これで全ての試験が終了した。A組の生徒は隣の塔へ、B組は明日の試験に向けて部屋に一度戻ってくれ」
そう言われると、A組の生徒は全員一年の塔を出た。皆にとっても、輝以外には外に出るということは珍しかった。
そして皆そろって一年の塔より少し大きく高い、二年の塔へ行った。
「(ここでは最上階!)」
[A組ですからね]
そして、階段を上っていくと、たどり着いた。広々とした空間、そして教室に向かった。
皆は静かに席に座っていく。ケレンはキリの隣に、テルはまたその隣に座った。そして、先生だと思われる女性が教室に入ってきた。
「こんにちは、それであなたたちがA組ね」
「……」
どの生徒も一言も話さない。
「それで、新しいA組はケレンさん、マリカさん、そしてテルくんね」
「はい」
輝は一人返事した。
「私はA組の担任A級魔導師のサクラです」
髪は桃色、耳が尖っていることからエルビーだということがわかる。二十代前半の若そうな女性だ。
「私は去年もA組を教えていたから、あなたたち三人のことを少し聞いていいかしら」
そういうとサクラ先生はケレンに質問した。
「あなたは羽があることから考えるとミラーノ族のようだけど……」
「その通りです」
「アウェスからかしら?」
「はい」
「それで魔法は見た所、氷結魔法のようね」
「そうです」
「わかったわ」
すると、次はマリカに聞いた。
「あなたは……エルビー族よね」
「はい!」
「どこから来たの?」
「私はレクリアノスから来ました」
「首都ね、それで両親はどうしているの?」
「父は魔法使いとしてギルドに、母は家庭主婦ですが……」
「なるほどね、それで魔法は爆裂魔法と言ったとこかしら」
「はい」
次は輝だ。
「(どんなこと聞いてくるんだろ?)」
[わかりませんね]
「(でもなんか言い方かっこいいよな)」
[そうですね、氷が氷結、ボムが爆裂ですもんね]
「(俺のはどんなんなんかな)」
[女性だけっていうこともありますよ]
「(そういうフラグ立てんなよ)」
[まぁ、第一印象は大事ですよ]
「(わかってるって)」
サクラは輝に聞き始めた。
「えっと、テルくんだよね」
「はい」
「それで人族と……」
「はい」
「どこから来たの?」
「ルーマスって知っていますか?」
「現実世界からね」
「はい」
「珍しいね」
「そうですか」
「確かこのクラスの誰かも同じだった気がするわ」
「へぇー(同じってルーマスからってことか、それとも魔法界からじゃないってこと?)」
「それで魔法は熱であっているのかしら」
「(熱……そのままだな)はい……」
「両親の方は?」
「いません」
「あら、悪かったわね。師匠がいるのかしら?」
「はい、確かC級魔導師と言っていました(なんか恥ずかしいな)」
「C級ね……一様だけど名前を聞いていいかしら?」
「ベルトですが……」
「あなた……もしかして疾風のベルトのこと?」
「風魔法を使うのですが……」
「あなた騙されているわ、最近弟子を受け入れたと聞いていましたけどまさかあなたとわ……」




