第五十一話 勝負の行方
第五十一話 勝負の行方
「テル!」
ダルクがテルを呼んだ。
「えぇ? はい」
輝はダルクの方をちらりと横目で見た。
「安心して私は何もしないわ」
そうレイコが言うと、輝はダルクの方を今度はじっくり見た。
「これボビーからなんだが……これを使っていいぞ」
「これは何ですか?」
「よくわからんが、値段は十マジク以下だし、特に危険性もなさそうだしな」
「あぁ、はい(なんだ、ボビー?)」
その渡されたものはゴツゴツとした岩のような黒いものであった。
すると、ボビーが観客席から叫んで言った。
「それテルが欲しがってたやつだと思うよ、試してみて」
「(欲しがってたやつ?)」
[もしかしてメタルじゃないですか]
「(でも高いって)」
[確かに言っていましたね……]
輝は握って熱を集中して見た。すると、それは溶け始めたのであった。
「(柔らかくなった!)」
そして、人また熱を逃がすとかたく固まった。
「(これってやっぱりメタル……)」
[そのようですね、どうにか値段も抑えたということでしょうか]
「(これならいけるぞ)」
[はい、ちょうど正々堂々と行けそうですね]
「(よし)」
すると、輝は熱をを右手に集中させた。
「(試してみるか!)」
輝は素早く右手を振った。すると、溶けたメタルが長細く棒のようになった。しかし、少し靡いている。刀などと呼ぶには細く弱々しかった。
「(形の方は難しいな)」
輝はレイコの方へ寄っていった。
「じゃあ、どうする?」
「えぇしましょうか、あなたもそれを待っていたようだしね」
「まぁな(そんなわけないだろ!)」
二人は向き合った。レイコは水を使い、刀のようなものを作り出した。
「(やるか!)」
そして二人は互いに走り始めた。しかし、今の輝には恐れるものはなかった。輝は全速力でレイコに向かった。
「ジュワー」
そうだ、これは水が蒸発する音。輝のメタルがレイコの水刀に当たった。だが、レイコは完全に不利だった。彼女の魔法は輝には効かなかったのだ。
「本当に熱っていうのは苦手だわ」
そう言うとレイコは輝から距離をとった。
「(甘く見んなよ!)」
とったはずであった。しかし、輝にはその距離を詰めるのには何の苦労もなく、輝のメタルはレイコの腹部を切り裂いた。
「(えぇ! ど……どうして)」
メタルはそれほど鋭くはない。そう斬れるはずがないことは輝が一番承知していた。しかし、綺麗にレイコは斬れたのであった。
理由は至って単純であった。レイコはレイコでなかったのだ。斬った体は水となって地面に染み込んでいった。
「いいわ、テル、私の負けで……」
輝の後ろからレイコの声が聞こえた。急いで振り返るとそこにはレイコがいたのだ。
「えぇ!」
「そんなに驚かなくてもいいでしょ、あれは私のダミーよ」
「じゃあ……」
「相性が悪かったわ、まさか熱相手になるとはね……」
「でも……」
「あなたは喜べばいいの! 後、あなた魔法がまだまだのようね」
「知っていたのか……?」
「あれだけの速さがあれば、勝ててもおかしくないと思ったわ。でも私を瞬間に法力が止まったからね。何かあったのね」
「じゃあ、何で……(同情か?)」
「いや、本当に無理だったのよ、確かに私を攻撃できなくても、私も何もできなかったからね……頑張ってね」
二人はスタジアムの中心で話を続けた。
「後、あなた法力量が多いのね」
「いや、そうでも……」
「いいえ、まだ使えるのでしょ?」
「(確か法力には特に関心を払ってなかったよな)」
[疲れてますけどね]
「(お前は何もしてないだろ)」
[伝わってくるのですよ、そういえばレディールルがあなたの潜在能力は凄いと仰っていましたよね]
「(どうだったな)」
[あっても使えなかったら……ですけどね]
「(わかってるよ)そんなこと言ったら、レイコだって……」
「いいえ、流石にもう残っていませんわ」
「でも、あのダミーって物凄く法力使うんじゃ……」
「変換効率がそれほど高くない魔法だから、消費が激しかったのよ」
「(効率……誰かそんな話してたな)それで……どうする?」
「私が負けたわ」
「いや……でも……もう一回ぐらい……」
「もういいのよ」
そう言うとレイコはダルクの方へ寄って行き、負けを認めた。
「審判、私の負けです」
「わかった、よってB組テルの勝利とし、A組に昇格とする」
輝はA組の方の入り口の方へ行く際、レイコが小声で輝に話した。
「次のA組の生徒には気をつけなさい、あなたも魔法を使えるようになればそこそこやっていける。でも彼には気をつけたほうがいいわ」
「でも、何で……」
レイコはそのままB組の入り口の方へと行ってしまった。
「(次? 誰なんだ?)」
[なんだかんだ、いい人でしたね]
「(そうだな)」
A組側も同じような作りになっており、輝は観客席まで上がって行った。その途中で、次の生徒、レイコの言っていた生徒にあった。
「(あいつか)」
ローブを深くかぶって輝の方へ歩いて来る。
「(なんか、近づいて来るぞ)」
すると、その生徒は輝を通り過ぎる瞬間言った。
「久しぶり、テル」
それも小声で。
「(えぇ)」
輝は驚いて振り返るが、あれであるかもわからなかった。
「(久しぶりって言ったよな)」
[言いましたね]
「(いたか、あんなやつ?)」
[知りませんで、声からもわかりませんでしたし]
「(聞き間違えかな?)」
[そのはずはないのですが、独り言かもしれませんね]
「(まぁ、いいか)」
輝はA組の観客席についた。そこには、先ほど勝った生徒たちに加えて、ケレンとマリカもいた。
「ケレン凄かったぞ」
「当たり前よ」
ケレンは冷たい態度で言った。もうどこにも前のようなケレンの面影はなかった。
「(なんか、本当ケレン変わったな)」
[女性なんてそんなもんですよ]
「(トク、お前いつからそんなこと言うようになったんだ?)」
[さぁ?]
スタジアムの方を見ると、ボビーがいない。しかし先ほどのあの生徒は待っている。
「(あれ? ボビーは?)」
ケレンがA組の生徒に話しかけた。
「あなたは……」
「クラークだ」
「そうね、クラーク、あの生徒は何者なの?」
「あいつか? あいつは俺たちA組の一番だ」
「へぇー、強いのね」
「そうだ、姉ちゃんが戦ったのがうちの実は二番ゴウで、さっき、あの兄ちゃんが戦ったのがうちの三番レイコだ」
「姉ちゃん?」
「すまんな、それは俺のくせでな。ちなみに俺は四番だ、レイコに負けたからな」
しかしケレンはそのことはスルーして話を続けた。




