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異世界でもコツコツ強くなっていきます!  作者: 黒陽
六章 一年最終試験
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第五十話 予期せぬの逆流

遂に五十話‼︎ 第一の個人目標を達成しました。読者の皆様、ありがとうございます。これからも続きますからね!

 第五十話 予期せぬの逆流


 ゴウの勢いは物凄かった。殺意がケレンに向けられていることは観客の誰にでもわかった。そうだ、これは敵意というには容赦のない殺意であったのだ。しかし、その瞬間全てが一瞬にして終わりを迎えた。


「あぁ……」


 ゴウの悲鳴は途切れた。ゴウは氷漬けだ。そう、ケレンは冷気によって空中にある水分を凍らせ、ゴウごと氷塊にしてしまったのであった。


「(……)」


 皆が唖然とした。


「……」


 歓声も上がることなく、ただ皆顔を見合わせた。


「……」


 A組の方もまさかゴウが負けるなどとは思っていなかった様子で、ローブの上からでも焦りや困惑が伝わってくるほどであった。


「ケレン合格、A組の方へ」


 しかし、それも現実であった。ケレンは何事もなかったように、氷を戻し、スタジアムを去っていった。


「なんでも言えよ! 俺に何をしてほしい?」

「……」


 ゴウはケレンに叫んでいった。しかし、ケレンは黙って去って行った。


「(ケレンはすげーな、俺の時もこれができたってことだもんな)」

[分かりませんよ,一日で収得したのかもしれません]

「(くそ、あいつが舐めてたってことか…)」

[そろそろあなたの出番じゃないですか?]

「(そうだな、いつでもいいようにしなくちゃな)」


 ダルクは少し病室に行った生徒を確認しに行った後、また戻ってきた。


「それでは昨日のB組の負け組対A組の勝ち組の試合を開始する。まずはソウマ対サノルだ」


 サノルと思われる人物がスタジアムにはいるが、ソウマは出てこない。


「ソウマ、不戦敗にするぞ!」


 ダルクが叫ぶ中、やはりソウマは出て来なかった。


「ソウマの試験不参加により、サノルのA組残留決定する」




 皆は当然として見ていた。そして、次が始まる。


「それでは、A組チリキ対B組アキノの試験がある」


 ここでも、チリキはいるが、アキノは出て来なかった。ため息交じりにダルクはアキノに再確認する。


「アキノ!! いいのか、負けで!!」



 しかし、やはり出ては来ず結局は不戦敗となった。




「次は、A組メイス対B組カコの試験ですが……カコ!!先に行っておくが、不戦敗にするぞ!」


 メイスはスタジアムに行くが、カコは出て来ない。しかし、皆の関心もとうに薄れてしまっており、特に何かと言った事はない。


「それではメイスの不戦勝、A組残留!」




 そして残されるは輝とボビーとなった。ボビーは観客席にもきておらず、おそらく不戦敗にすると見て良いのだろう。


「次はA組レイコ対B組テルの試験だが……」


 すると、輝はスタジアムに向かった。確かにどうするという事はなかったのだが、もしかしたらルイカが勝ったような、スピードだけでも対うちできる相手がいるのではないのかという希望を持っていた。


「(ケレンが勝ったからには、俺もやらないとな)」

[自身のほどは?]

「(わかってんだろ、めっちゃこえーよ)」

[恥を掻くのをですか?]

「(負けるのがな)」


 輝はいざスタジアムにきて見てとてつもない緊張感と圧迫感を感じた。


「(なんか緊張してきた……)」


 レイコはローブを羽織ったままであった。




「それでは試験を開始する」


 この合図とともに、輝は距離をとった。これは他のほとんどの人がしている事だ。輝は今回何の魔機も持っていなかった。輝は熱を発生させることによっていつ何があっても逃げられるように準備をしていた。


 しかし、案の定、レイコは輝に対して何も、そして輝もレイコに対して何も仕掛けなかった。勿論輝には何をするといった作戦はなかったのだが……



 この硬直状態は長くは続かなかった。輝はついには我慢ができず、走り出した。


「やるのね」


 そう言うとレイコは少し身構えた。輝は猛ダッシュでレイコへ急接近し、これはゴウ以上の速さであったと言っても過言ではない。


「(なんか今ならいけるかも!)」


 輝はそのまま右へ左へとフェイントをかけた。レイコは手から水のようなものを発射した。


「(へぇー、水を使うのか、きかないけどな)」


 熱によって水は蒸気へと蒸発していった。


「何? 水がきかないの」


 レイコは少し焦った様子で、水を発射して輝から距離を取るが遅かった。輝の振りかざした拳はレイコに直撃したのだ。


「(いったか!?)」

[……]


「何このただのへなちょこパンチ」

 そう言うとレイコは輝の腹に水の勢いで加速させた拳で殴った。


「(ダメだったか……)」

 輝はスタジアムのはしまで飛ばされたのだった。


「テル、大丈夫か?」

 ダルクは判定をするために聞くが、実際のところ痛みもなく、レイコも必死にとっさにしたものであったため、輝はピンピンしていた。


「余裕です(運が良かったな)」


 しかし、輝には手が残されていなかった。トラウマが克服されていないことがわかった今、輝には魔機もトラウマを乗り越える何もを持っていなかったのであった。


「何? あなたもしかして魔法がうまく使えないのかしら」

「……(何も言えねー)」

「まぁ、いいわ、そうわかった今なら積極的にいけるわね」


 レイコが水を発射して輝の方へと近づいてきた。輝は体を振り絞り再び、魔法を使った。


「あら、まだやれるのね」

「……(俺は元気だけどそれが問題じゃないんだよ!)」


 テルは必死に逃げた。勿論レイコが追いつけるわけはなかったのだが、何かをされては困りと言う思いで、輝はひたすら動き回っていた。


「本当に元気ね」

「……(いや疲れたって)」


 輝は多少息を荒げながらも、距離を保った。




「テル!!」




 その時、ボビーは輝を呼んでいた。


「なんだ、ボビー?」


 ボビーは何かを手に持ちながら輝に手を振った。輝は何か用があるのかと、ボビーの方へと走っていくと、ボビーは手に黒い塊と紙を持っていた。


「(なんだ、ボビーは不参加ってわけではなさそうだな)」

[そうですね、魔機なのかはわかりませんが何か持っていましたしね]

「(でも俺はこのままどうなるんだろうな)」


 輝は相変わらずレイコと追いかけっこをしていた。すると、ボビーがダルクと話し始め、紙をみせ、黒い塊をダルクに渡した。


「(あれ? なんでダルクに渡したんだ?)」

[新しい魔機は点検がいるかなんかじゃないですか?]

「(そうか、ちゃんとしてんだな。俺も何かいいのが見つけれたかもな)」

[そうですね]


 輝はそう考えながらもまだレイコに追いかけられていた。しかし、その時、レイコが動きを止めた。


「疲れたのか?」

「いいえ、それにしてもあなたもなかなか法力あるのね」

「それはそちらも」

「それでどうします?」

「これじゃあ切ないしね……」

「じゃあ一度、正々堂々として見るのはどうかしら?」


 そう言うとレイコはローブを脱ぎ捨てた。レイコは蒼い髪の背の低い少女で、可愛らしいえくぼが笑っていなくてもうっすらと見える。


「(やべ、可愛い……てか逃げ始めたのは俺だし、これ誘ってるよな)どうしようかな……」


「テル!」

 ダルクがテルを呼んだ。

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