第四十三話 忘れていた記憶
第四十三話 忘れていた記憶
輝はその後もジムに座っていた。特にすることもなく、魔法を学ぶ理由も解決してないため、誰かが来るのをひたすら待った。
すると、やはり来る人は来るようであった。そこにやってきたのはフレイだった。
「おぉ、テルか。お早う!」
「フレイ、お早う」
「テルいつもここにいないよな?」
「今日はちょっとね」
「それでここで何やってんだ?」
「人を待ってたんだよ」
「誰だ? もしかしたら今食堂にいるかもしれんぞ、言ってみろ」
「いや特に誰とは……」
「何だ、じゃあ俺でもよかったのか?」
「そういうことだ」
「それで何用だ?」
「それが魔法を学ぶそして極める理由は、って気になるなと思ってな」
「確かに興味深いな」
「それで俺はただ周りに流されてやってきた感じだからさ、どうしたらいいんだろうな、と思ったんだよ」
「なるほどな、ちなみに俺は最強の魔道士になるためだぞ」
「それで?」
「それでこの魔法界を脅かす存在を抹殺する、なんてな」
「そんな存在いるのか?」
「知らねーよ、それはなってから考えるさ」
「何だ」
「だが、上級魔道士にしか知らされていない情報とかもあるみたいだぞ」
「どういうことだ?」
「おぉ興味あるか?」
「まぁ、そりゃあ」
「じゃあ、ちょっと場所を移そうか」
そういうと二人は教室に向かった。ダルクはいつも通り座っていたが他には誰もいなかった。そして角の席に二人で向かい合って座った。
「それでその存在とは?」
「それがな、デーモンっていうやつらしいんだ」
「何だよそれ、悪魔かよ」
「悪魔って何だ?」
「あぁ、気にしないでくれ、それで?」
「それがな、デーモンが俺たちの抹殺しようとしているらしいんだ」
フレイの声は静かに低くなった。
「それで、お前はそれを止めたいと?」
「そんなところだ」
「お前たち、何でそんな噂話をしてんだ?」
「先生?」
二人は振り向いた。
「でも、これは本当だって……」
「いや、そんな大事なことが漏れるわけないだろ」
「でも……」
「だが、上級魔道士にのみ知らされる情報はあるみたいだけどな」
輝は手を挙げた。
「何だ、テル別に手を挙げなくてもいいぞ」
輝は恥ずかしそうに手を下げて言った。
「魔道士になってどうするんですか?」
「それは仕事をするんだよ」
「その仕事とは? 先生の様にする以外では、ギルドではどの様な?」
「何だ、ギルドについてか」
「そうです」
「そうだな、魔獣退治とかは儲かるって言われてるな」
「魔獣?」
「そうだ、魔法の使える獣のことだ」
「それで? それはどこに?」
「何だ、そんなにきになるか?」
「まぁ、はい」
ダルクはフレイと輝の近くに座った。
「魔獣は街には出ないが、小さな村などに出るんだ」
「それで?」
「魔法界では魔法協会が仕切っているだろ、その魔法協会に国民全員から払われる税金が支払われるんだ」
「でもなぜ魔獣なんて聞いたことも……」
「それも街では滅多に現れないし、現れてもその分魔道士の数も多いからすぐに片がつくんだ」
「なるほど」
「あと、ギルド以外にも商業上でも魔法は便利だしな、まぁ行ってしまえば金を稼ぐためだ」
「結局は金か……」
「俺は違うけどな」
フレイは誇らしげに言った。
しかし一連の会話の中でも輝はやはりはっきりとしなかった。なぜ魔法を極めて人を傷つけることになってまで何があるのかということについてを。
輝は自分の部屋に戻り、ベットに寝転びながら考えた。しかし、人に聞いても、自分で考えても何も出てくることはなかった。かと言って眠ることもできなかったのであった。
「(そういえばトク、昔の 記憶見せることできなかったか?)」
[できますよ、どの記憶ですか?]
「(俺が前回ケレンに言ったっていう)」
[わかりました]
輝はしばらく回想していた。
[
「私にキスしてくれる?」
「なんで?」
「私ね……」
…… …… …… ……
]
「(俺確かに気になってるって言ってたな)」
[言ったじゃないですか]
「(俺、そんなことも忘れてたのか)」
[はっきりいえば、最低ですよね、男性としても人としても]
「(なんか悪いな、もっと申し訳ない気分になったよ)」
[そうですよね]
「(どうすればいいんだろうな?)」
[わかりませんね、でもケレンさんとの他の記憶も見てみます?]
「(他の?)」
[そうですよ、訓練の時に話していた記憶とかですよ]
「(いいぞ)」
[了解しました]
そして輝の回想が再び始まった。
[
「みんなには知って欲しくないの、秘密だよ!……」
…… …… …… …… …… ……
]
そして全てが終わった時には、夕方になっており、輝の目には涙が溜まっていた。
「(俺、なんであんなことを…なんでこれを全て忘れてたんだ)」
[もしかしたら、ベルトさんがどうにかレノルドさんにお願いしていたのではないでしょうか?]
「(わからねーけど、俺どうしよう…)」
[どうしたのですか?]
「(俺、まだなんか好きとか嫌いとかわかんないけどさ)」
[はい]
「(ケレンのこと好きだわ)」
[一緒にいたいと思いますか?]
「(あぁ)」
[なら明日この思いを伝えたらどうですか?]
「(そうだな、明日また今日ぐらいの時間に起きないとな)」
[そうですね]
そして、輝は眠りについた。
三百五十八日目・ジュン七日
試験日まであと七日だ。そして、ダルクの質問への返答も今日までに答えなければトラウマの克服には手を貸してもらえない。
輝は定刻通り三時に目を覚ますと、ジムへ行った。そして、今日もジムから音が聞こえてくる。
「(おぉ、ケレンかな)」
輝が扉を堂々と開けるとカレンがいた。
「あれ? ケレンは?」
輝はつい声に出してしまった。
「やっぱり来ると思った」
「カレン……」
「あんだけ言ってもまだ来るんだね」
「いや、でも違うんだ」
「何がよ!」
カレンは風の魔法で輝に急接近しながら腕を構えた。しかし、輝も昨日とは違った。カレンが輝に触れるという瞬間に、輝は熱の力で高速移動した。
「今日は昨日みたいにうまくいかねーぞ」
「何よ」
カレンは風を起こした。カレンの起こした風は空気をかる様にして輝に向かって行った。
「(いけるかな?)」
輝は右の手のひらに熱を集中させ、風をそらす様に右に弾いた。
「えぇ……」
カレンは驚いた様子で、今回は二つの風を起こしたが、どちらも輝がそらした。
「な、なんで……」
カレンは敗北感に輝を睨みつけた。




