第四十二話 ケレンの思い
第四十二話 ケレンの思い
三百五十七日目・ジュン六日
試験日まであと八日だ。
輝は早く寝たせいか、起きた時にはまだ日が出ていなかった。輝は魔機の時計で時間を確認するとまだ朝の三時であった。
「(なんかもう、寝れないしな)」
輝は部屋を出て食堂に朝食があるのではないかという期待を胸に向かった。しかし、もちろんのこと何もなくコップ一杯の水を飲んだ。すると、ジムの方から音が聞こえることに気がつき、電気もついていた。
「(あれ?)」
[誰かがこんな時間まで……]
輝はジムの方にゆっくりと行き、音を立てずにこっそりとジムの扉を開けた。
「(誰だ?)」
すると中にはケレンが一人で特訓していたのだ。輝はもう少しよく見ようと扉をゆっくりと開けた。
「(ケレン! 何をしてんだ)」
その時、扉から音が出たのだった。ケレンは驚いた様子で振り返り、輝は急いで隠れた。
「誰かいるの?」
輝は無言で、ケレンの問いにも答えなかった。
「……」
ケレンは扉を閉めようとか、ジムの扉に近づいて来た。輝は急いで扉を閉めた。
「やっぱり誰かがいる」
不自然にしまったために、却ってケレンが寄って来た。
「(どうすればいい?)」
[いっそのこと堂々と]
「(でもカレンに……)」
[なら逃げるしか]
「そうだな」
輝は自室に向かって走り始めた。その時、ケレンはちょうど扉を開けた。
「あれ? テル?」
「(やべ)」
輝は背筋の凍る思いをした。輝は立ち止まり振り返った。
「頑張ってね」
「待って!」
そして輝はゆっくりと部屋に帰ろうとしたが、こけた。厳密に言えば、こけさせられた。ケレンの氷が床に張られており、滑ったのであった。そのまま氷の床にジムまで連れて行かれた。
「(すげーって感心してる場合じゃ)」
「もしかしてカレンが何か言ったの?」
「……」
「そうなら言って」
「本当に手のことはごめん」
輝は立ち去ろうとした。しかしケレンが引き留めた。
「いいって、もう気にしてないから」
「じゃあ……」
輝はどうすれば良いのかわからなかった。ただ頭の中が真っ白に…
「テル、あのね……私……」
輝は何か言われると覚悟を決めた。
「(なんて言われるんだ!)」
「……」
ケレンは無言になった。
「ケレン、なんなんだ?」
ケレンの顔が赤くなった。
「ケ……」
「私……」
「私?」
「私、テルのことがまだ好きなの!」
「えぇ……でも、俺あんなこと……」
「あれは私が自分からテルに触ったんだし、なんでかわからないけどね、テルを嫌いになることはできないの」
ケレンの頬は先ほど以上に赤く火照った。
「(俺なんて言えば?)」
[これはあなたの経験にはないものですね]
「(だから困ってんだよ)」
「あの、テルは私のことどう思ってる? だって前は気になってたって病室で……」
「……(そんなこと言ったっけな? どう思ってるって巨乳の美少女だって言えってか)」
[言いましたよ! 好きなんですか? 嫌いなんですか?]
「(覚えてねー、てか好きとか嫌いとかってなんなんだよ)」
[それは……]
「ケレン、俺イマイチ好きとか、嫌いとか何で判断すればいいのかわからないんだ」
「それは、一緒にいて楽しいとか、嬉しくなるとかじゃないの? 私はテルと居られると嬉しいし、楽しいよ。でも、テルは?」
「申し訳ない罪悪感しか感じないかな」
「……」
「(なんか間違ったこと言ったか?)」
「そうだよね、私がこんな怪我したから……」
「だけど本当にそのことは悪く思っているよ」
輝は必死に言った。が、ケレンは泣き出してしまった。
「な、なんで?」
ケレンの体はひくひくと動いている。
「私ね、こんな気持ち初めてなの」
「……」
「初めて誰かと居たいって思えたの」
「……」
「だけどいいよ、テルにその気持ちがもうないなら……」
「……」
輝はかける言葉が見つかれなかった。
「一つ聞いていい?」
「いいよ、何?」
「テルって……付き合ってる人とかができたの?」
「えぇっと……(アイリスは違うよな、それならバーナスだって……いねーよ)」
「うん、わかった。いいよ、でも私諦めないから、多分」
「諦めない? (なんて言えば……)」
「私絶対にテルを振り向かせるからね、きっと」
そういうとケレンはジムから出て行った。輝はただどうすればよかったのかもわからず、呆然とジムに立って居た。
「(今のは何だったんだ?)」
[二度目の告白ではないでしょうか?]
「(告白? あの好きです的なやつか? しかも二度目って俺まじで覚えてないけどな)」
[好きだと言っていましたよ、前回も今回も]
「(てことは俺、また告白されたのか?)」
[そのようですね]
「(それで俺はまた振ったのか?)」
[振ったというよりは、ケレンさんが勝手に振られたと言った感じではないでしょうか? あと前回は了承した様にも受け取れますし……]
「(あんな可愛い子が俺なんかにな)」
[どう言った気分ですか?]
「(嬉しいけど、なんか虚しいな)」
輝はそのままジムの扉の近くに腰を下ろして座っていた。
数時間後、ジムの扉が開いた。そこにはカレンがいた。
「あぁ、カレン……おは」
カレンは輝を力の限り引っ叩いた。
「痛、何だよ急に?」
「だから言ったじゃない、ケレンには近づかないでって」
「いや俺にはあの場で何も……」
「ケレンを変にたぶらかせて!」
「いや俺は……」
「せめて振るんだったらもっとはっきり振ったらどうなの? 前だって変に期待させて!」
「いや別に振るつもりは……」
「じゃあ何なの? テルもまだケレンのこと好きなの?」
「いやそういうわけでは……」
「はっきりしたら! もう、私が言っとくから!」
カレンの猛攻撃は鎮まらなかった。輝は無言でカレンを見上げた。
「何か文句あるの?」
「いや、あの……(どうすれば?)」
「何?」
「カレンは魔法をどうして学んでるの?」
「何よ急に!」
強く言いながらもカレンはしばらく考えていた。
「魔法は故郷アウェスに帰るためよ」
「魔法があれば帰れるのか? その羽は? あと、帰ってどうするんだ?」
そしてまたしばらく考えていた。
「そうよ、羽が成長しきれば帰れるわ。あと魔法が言って以上ないと帰れないの。だけど……」
最後の問い、帰ってどうするのかという質問を考え始め、しばらく輝は黙っていた。
「帰るのが宿命なのよ、何でかは知らないけどね。そういうこと、わかった!」
「何でか知らないのにどうしてなんだ?」
「何? こうやって私を困らせれば ケレンのことを忘れるだろうって?」
「いやそんなこと……」
ケレンは再び輝を引っ叩いた。
「痛いって……」
「とにかく何も思ってもないのにケレンでは遊ばないでね」
「遊ぶって?」
「あと! これ以上ケレンを傷つけたら今度こそあんたの命はないと思っていてね」
そういうとカレンはジムの扉を閉めずして、ジムを出て行った。
「(なんだったんだ……)」
[姉妹というものではないのですか?]
「(そんなの俺にわかるかよ)」
[……]




