第四十一話 トラウマとスランプ
第四十一話 トラウマとスランプ
三百五十六日目・ジュン五日
試験まであと九日。
輝は前夜考えに考えていた。
「(俺ってなんのために魔法学んでんだ?)」
[わかりませんね]
「(でも俺はこの異世界に憧れてたんだよな)」
[そうですね]
「(ラノベだと、どうしてなんだろうな?)」
[ラノベではここまで深いことは追求しませんね]
「(そうだよな、なんか優しい奴は世界守るためとか、最強になるためとかだもんな)」
[そうですね]
「(じゃあ俺はなんのためなんだ?)」
[バーナスを人に戻すため?]
「(それはちょっと弱いな)」
[それではレイを元に戻すため]
「(確かにそれもあるけどな…)」
[ベルトに復讐するため?]
「(確かにしたいけどできる気がしないんだよな)」
[じゃあ、なんなんですか?]
「(それを俺が聞いてんだよ!)」
輝はそのまま眠り、朝起きるとまた考え始めた。
「(よし、昨日の続きだ)」
[いや、もう、別の人に聞いたらどうですか?]
「(なんだ、もう面倒なんだろ?)」
[それはもちろんありますが…]
「(確かに他人に聞くのもいいかもな)」
輝は起き上がり、ひと通り身支度を終え、部屋から出た。
「(よし、誰からあたろうか?)」
[朝ごはんついでに食堂まではどうでしょうか?]
「(確かに昨日あのまま夕食食べなかったもんな)」
輝は食堂に向かった。すると、もう朝遅いのにまだ食べている人がいた。カコだ。
「(あれって誰だけ?)」
[カコさんですよ]
「(そうか、カコか)」
[では行ってください]
「(いや、どんなのりで?)」
[それはお任せします]
「(身勝手な)」
輝はカコの方に近づいて行った.
「カコ、お早う」
カコは驚いたようにして振り返った。
「えぇ? あぁ、テル……お早う……」
輝はカコの前に座った。
「えぇ、何?」
カコは席を立って、朝食のプレートを持ち上げた。
「(ちょっと引いてるぞ)」
[ちょっとどころではないですね]
「(どうすれば……)」
[ノリですよ、ノリ]
「(なんだよ、適当な)」
[的確と言ってください]
「カコ、ちょっと待って」
「何?」
「久しぶりだからさ、ちょっと話したいなと思って……」
カコは不思議そうな目で輝を見ると、プレートを机に置き、席に座った。
「(それでこれから何を話すんだ)」
[まずは日常会話から]
「カコ、俺がいなかった間、どうだった?」
「特に何も、法力の訓練という名の自由時間が毎日あったくらい」
「そうか(それで何を話すんだ?)」
[……]
「(無視はないだろ)」
「それで何なの? 話って」
「あの……」
「何?」
カコは少し怒り気味に言った。
「ボビーとはどうなの?」
「ボビー? あぁ、あの機力バカね」
「それで?」
「元からなんでもないわ」
「(他に何が?)」
[テストについてを]
「(了解)テストをどうみんなは準備するのかな、と思って」
「なるほどね」
「(これで日常会話はひとまず)」
輝はホッとカコの顔を見た。
しばらく無言が続いた。
「……」
「……」
「あの一つ言っておくけど、そんなこと教えると思ってる?」
「どういうこと?」
「だから! もしかしたら私たち戦うかもしれないんだよ」
「だから……?」
「教えれないってこと!」
「そうか……」
「それで他に用は?」
「じゃあ、魔法を学んでいる理由ぐらいは教えてくれる?」
「魔法を学ぶ理由? つまり、この学園にいる意味ってこと?」
「そう(よし、何とかここにつないだぞ)」
「それは……魔道士になるためよ」
「それで?」
「それで……」
カコはしばらく考えた。
「それで、お金を稼ぐの」
「お金を稼いだら?」
「稼いだら…」
カコは前回よりも長く考えた。
「稼いだら…ってそんなことあんたに関係ないでしょ」
「まぁ…とにかくありがと」
「はいはい」
カコは席を立って行ってしまった。
「(魔道士になるか……)」
[いいんじゃないですか?]
「(でもなって何だ?)」
[名誉とお金が入る?]
「(そんなもんには特に興味はな)」
[女も?]
「(確かにそれは! ってならねーよ)」
[ですが異世界に来たのは、ハーレムのためでは?]
「(そんなこといつ言った? 確かに羨ましいけどな、そんなことは……)」
[他を当たりましょうか]
「(そうだな)」
輝は自身の朝食を終えると、ジムに向かった。その途中、ジムからスバルが出て来た。
「(あれって?)」
[スバルくんです]
「(了解)」
「スバル! おはよう」
「おはよう、テルくん」
「ちょっと時間ある?」
「今?」
「そう」
「今からシャワー浴びようと思ってたけどいいよ」
二人は食堂に行き、椅子に座った。
「それにしても久しぶりだね」
「そうだね」
「テストまでの準備どう行ってる?」
「まぁまぁかな、テルは?」
「何をすればいいかなってまだ何もしてない」
「そうだよね、テスト内容がわかる一日までにならないと、本格的な対策はできないしね」
「一日前にわかるの?」
スバルは口を滑らしたというような、あっとした顔で話を続けた。
「そうだよ、一日前は遅い! って感じだけどね」
「そうだね」
「それでなんか話があるんじゃないの?」
「いやそれがね、魔法は意志の強さで強くなったり弱くなったりするっていうじゃん」
「そうなの?」
「そうだって聞いたことあるけど……」
スバルは少し何かを得たという好感を感じた。
「それで?」
「それで、スバルは何でこの学園にいるのかな? と思って」
「それは親が農家を継ぐか、入るかって迫って来たからね」
「なるほど」
「テルは?」
「ギルドに入ろうと思ったら、ここに入れさせられたんだ」
「じゃあ、境遇自体は似たような感じだね」
「でも、何で農家は嫌だったの?」
「だって、毎日いろんな野菜を摘んだりつまらないじゃん」
「納得だな」
「テルは何でまずギルドに入ろうと?」
「生活費稼ぎかな」
「えぇ、じゃあここにはどう通ってんの?」
「そのギルドのリーダーが出してくれたんだ」
「へぇー、いいところにあったったね」
「そうなの?」
「大抵は門前払いって聞いてるよ」
「まぁ、とにかくこのテスト頑張ろうね」
「そうだね」
スバルは食堂を去り、自室に向かった。
「(スバルは仕方なくって感じだな)」
[それで何かわかりました?]
「(さっぱりだよ)」
[あと、意志の強さとかって何ですか?]
「(適当に思いついた)」
[なるほど]
「(的確かな)」
[そうですね、それでギルドに入れられされたっていうのはいけないのですか?]
「(いやそれはここにいる理由だろ、魔法を極める理由には何ねーよ)」
[それで、これからは? まだ昼過ぎですよ]
「(部屋戻って筋トレちょっと長めにしたら寝よっかな)」
[よくそうまた寝れますね]
「(なんかな)」
輝は自分の部屋に戻っていき、予定通り筋トレを終えると夕方前には就寝した。




