第三十四話 ニックネームは?
第三十四話 ニックネームは?
「よろしくお願いします」
「そんなかしこまらないで」
そのグループには計五人おり、リーダー的な人を除いてはかなりの大きな人揃いであった。リーダーの方は、細身ですらっとしており、白髪であることから分かるように、かなり歳のいった人物であった。
「ささっと自己紹介をしちゃおうか、じゃあ私から、本名はさておき、みんなにはジジイと呼ばれている。だからそう呼んでもらって構わないよ」
「はい……」
「あだ名はデブいち、これで分かるように、それぞれデブに、デブさん、デブよんってつながっていくんだ」
「でもなんでそんな……」
「四つ子なんだよ」
そう言われてみると、体の大きさ以外にも、顔がそっくりである。違いといったら、髪の色である。デブいちといった男は、紺色の髪であるのに対して、デブには、金髪、デブさんは赤髪、デブよんは茶髪であった。
「まぁ、見てみて分かると思うけど、髪の色を見分けるために変えているんだけどね」
「なるほど(それはね)」
「君は多分、黒髪だからクロになるか、若いからヤングとかになるかもね」
「テルのままでは?」
「それでもいいけど、このグループの名前が、チーム名がニックネームってだからね……」
「仕方ないか……(クロだったらまだいいけど)」
すると皆立ち上がった。
「じゃあ、仕事を始めるか!」
「おう!」
「(息ぴったりだな)おー!」
すると、デブに、デブさん、デブよんは三人で砂のブロックを運んで行った。輝はジジイとデブいちと一緒に、運ぶことになった。とは言っても、やはり押して運ぶ以外の方法はなかった。三人は窮屈そうにも、なかなかの速さで運んでいくのに対して、ジジイとデブいちペアはなかなか遅かった。輝は一緒になって押してみるがそこまで変わった様子もなかった。
「これって俺とジジイさんの意味あるの?」
「もちろん、少なくてもジジイはね」
とデブいちが言うと、ジジイは手を離した。すると、どっと重くなったように感じ、ピクリとも動かなくなった。
「なんでこんな違いが……」
「私の魔法だよ」
「魔法?」
「ジジイの魔法を舐めんなよ!」
そう言うと、必死に押しながら話し始めた。
「私の魔法は、ものにかかる重力を弱めることができるんだよ」
「そうならもっと動いてもいいんじゃ……」
「歳っていうのもあるが、結局は体積の問題だ」
「体積が大きいと効果も薄いってこと?」
「そうだ」
「じゃあ、ジジイは触っているだけでいいのか」
「いいや、私のちゃんと押しているぞ」
「ほんと」
そういうとおすようにブロックに押しかけていた体を起こして、ブロックにのみ触っていた。すると、今度は先ほどまでとは行かなくても、速度がかなり遅くなった。
「すごい」
「ジジイを舐めんなよ」
「ほら言ったろ、クロ」
「そうですね」
そういうと頑張りに頑張って、何個かのブロックを運んだ。確かに遅かったが、九人で押していた際よりも早かったというのは、理不尽にも感じられる。
「でもデブいちさんとジジイさんも三人に加われば、あのカリュウ組よりも早いんじゃ……?」
「論理的にはね」
「論理的には?」
「まず、どこに俺の押す場所がある?」
「確かに……」
「そうなると、俺が他を押すしかないだろ、それでジジイがいることでなんとか動かせるんだ。あと、三人はすぐにバテるからな」
「そうか……」
「まぁ、気にすんな」
「でも、ジジイさんと二人と、二人と俺とじゃだめ?」
「確かに! それ意外といけるかもしれないぞ!」
「ほんとに!」
「まぁ、お前にはもっと強くなってもらわないといけないけどな」
「はい、頑張ります」
「じゃあ、明日からそれでいこうか」
「そうですね」
日も暮れてきて、レノルドの呼びかけに応じ、皆が食堂に夕食を食べに行った。ケアキは一人で何も食べていない中、それを横目で見ながら、輝はジジイとデブたちと一緒に食事を食べた。
「おぉ、やっと考えを変えたか!」
そこにやってきたのは、カリュウだ。
「まぁ、俺の部屋を見たら仕方ないよな、クロ」
「クロ……」
「いやか?」
「まぁいいです」
すると、仲間の元へ戻って行った。
食事が終わり、前日のように、部屋に戻った。すると、今日もレノルドが注射器とともにやってきた。
「今日もいくぞ!」
「それはなんなの?」
「そんなことは知らなくてもいい、手を出せ」
「でも……」
というと、輝は押さえつけられ、腕に注射をされた。
「(それって死ぬんじゃ……)」
「何度ぐらいだ?」
[八百度]
「八百度」
「なかなかだな、てか温度まで分かるってすげーな」
「この注射は死ぬんじゃ……」
「言っただろ、お前は知らなくていいんだ。まぁ、死んだら死んだで、結局罪人だしな」
輝はやはり好奇心と恐怖があった。何か知らないものが、彼の法力をどうにか刺激していることは分かるが、不思議でしかなかった。
「じゃあ、今日も集中の練習だ」
「今日はどうすれば……」
すると、レノルドは金属の棒のようなものを出した。
「これは?」
「これはメタルって言ってな、熱だと形が変わるはずなんだが……」
輝は触ってみた、しかし何も起こらなかった。
「言っただろ、集中だ!」
「でも……」
「もう二十歳だろ! でもっていうな、子供じゃないんだから」
「どうすれば……」
「集中は言っただろ、集中したい部分を思い浮かべるんだ」
「どこに集中すれば?」
「手でいい」
「(右手、右手、右手…)」
輝が再びメタルを触ってみると、手形がついた。
「おォ!」
「ちなみにこのメタルは千度以上で溶けるものだから、お前の手は千度以上だってことだ」
「これで終わり?」
「そんなわけないだろ、集中の基礎がやっと終わったぐらいだ」
「基礎?」
「そうだ、じゃあ寝ろ」
輝は布団の上に寝転ぶと、すぐに寝始めた。
二百四十七日目・フェブラリー四日
囚人の朝はやはり早い。今日もラジオ体操の音楽でランニングだ。 ジジイはしっかり走っていても不思議でなかったが、デブの四つ子もしっかりと走っている。
「すごい!」
「若いのに、クロもな」
「それにしても……」
「人は見た目で判断していけないってことだ」
「なるほど」
輝は振り返ることもせず、彼らと走りながら、ランニングを終え、朝食を済ませた。そして、そのあとの部屋での、ごろりも忘れずに。しかし輝はあることを忘れていた。それはケアキのことであった。ケアキはやはりランニングにはついていけず、朝食も食べていない。しかし、輝はもう後ろを見ていなかった。




