第三十三話 監獄の生活
第三十三話 監獄の生活
二百四十六日目・フェブラリー三日
「朝だぞ!」
「(レノルド?)」
輝は扉を叩く音で起きた。輝の体にはまだ疲れが残っており、身体中が筋肉痛になっていた。また、もちろんのこと、部屋にはベッドはない。布団と毛布、そして枕がある質素な部屋であった。また、外はまだ寒く、まだ早朝でもあるようであった。
「(すげー痛いな)」
[昨日のあの注射のせいかもしれませんよ]
「(それにしてもあれってなんだったんだろ)」
[不思議ですよね]
輝は飛び起きて、扉を開け、外に出ると、他の囚人もぞろぞろと眠そうに歩いていた。
「すいません、どこにいくのですか?」
「あの若い新人か、朝食前の運動だよ」
「はい?」
すると、皆はまだ暗い砂漠に出た。
「聞こえるか?」
「はい」
皆は列に並び、前にはレノルドがいた。また彼はスピーカーのようなものを手に持っていた。
「では始めるぞ!」
「てってーれ、てて、れれ、てってーれ、てて、れれ、ててれれ、ててれれ、てってって、てれれ」
「(おいおいこれって?)」
そうだ、これはまさにラジオ体操であった。音楽を聴いたら誰もがわかるあの、ラジオ体操。輝は一足先に、得意げに、腕を振り始めた。
「(俺これ知ってんぞ)」
すると、皆は輝を冷たい目で見ながら、走り出した。
「(って、走るんかい!)」
[バックグラウンドミュージックのようですね]
しかし、声はないだけで、リズムや音調は全くと言っていいほど、同じものであった。その後、三分間もの間、曲を聴きながら皆で走った。ちなみに、速さは速く、短距離走の際の速さ程度であった。
「てれれ」
「(やっと、終わったか)」
輝は息をつき、止まった。しかし、他の皆は走ってゆき、そのまま輝は残された。
「(あれ?)」
[終わっても走るようですね]
と言っていると思わぬものが始まった。
「てれれ、てーて、てーて」
「(これって……)」
[二番ですね]
「(まじかよ!)」
そして、輝は今前以上に速く走りなんとか追いついた。しかし輝の後ろにも何人か歩いているものがいた。そのものらは、昨日輝が誘ったほとんどのもので、ケアキは走っているものの、遅かった。
「てれれ」
「(終わった)」
砂漠の中を走り終わると、また監獄に戻ってきた。その途中で諦めたものたちは、レノルドが責任を持って運んできた。
「テルくん、今日もダメだったみたい」
「ケアキ……」
そのあとに向かった食堂では、ケアキを含め、走っていなかったものには、食事はなかった。食事と言っても、パン二つに、ハムが一枚、あとはバナナだ。輝は健気に思い、ケアキに与えようとした。
「ケアキ、いる?」
「本当に?」
すると、昨日のムキムキグループの男がやってきた。
「やめとけ」
「えぇ!」
「それはお前が走って手に入れたものだ、自分を気遣え」
「ケアキも頑張って……」
「いいか、ここでは自分のことだけを考えて生きろ」
そう言い残すと行ってしまった。皆輝らに注目をし、輝は仕方なく、それらを自分で食べた。
「ごめん、ケアキ」
「私が悪いのだから……」
皆が食べ終わると、ひとまず部屋に帰らされた。部屋で特にすることがない輝は、布団の上で横たわって時間を潰していた。便器はちゃんと設備されているため、排便には問題なかったことを足しておこう。それから何時間か、部屋の天井の窓から太陽の光が入ってきたころ、レノルドがまた動き出した。
「仕事の時間だぞ」
そういうと輝は部屋からすぐに出た。実際何もすることがなかったため、仕事であっても、それを楽しみに出た。すると、別の部屋の中をちらりと見た。そこには、布団や毛布以外にも、ぬいぐるみであったり、ある部屋はテーブルなどがあった。
「(あれは?)」
そしてある部屋を通りかかった時、輝は信じられないようなものを目撃してしまった。
「あれ?」
そこから出てきたのは、あの男であった。
「おぉ、テルだったな」
「えぇと……」
「あぁ、これのことか。言っただろ、頑張れば報われるって、あんな奴なんかをかまっていたらいかん」
「はい……」
そういうと、その男は、仲間と笑いながら歩いて行った。
「(あれはなんだったんだ?)」
[ですね]
輝が見たのは、 ソファに、テレビ、ベッド。それに加えて、カーペット、監獄の部屋とは思えないものであったのだ。輝は、驚きを隠せずにして、廊下を歩いて行った。
「テル、どうしたんだ?」
「看守、あのムキムキグループの坊主の大きい人の部屋はどうしてあんなに……?」
「ムキムキグループ? あー、カリュウのことか?」
「多分その人……」
「彼が最も貢献しているからだよ」
「貢献?」
「仕事をね」
「仕事をすればお金がもらえるのか?」
「実際のマジクではないが、ルクスというアビルクスのみのお金がな」
「それであんなに……」
「そうだ、ああなりたかったら頑張るんだな」
「なるほど…」
輝は目を輝かせながら、早速昨日の九人に声をかけた。
「あの……」
「あぁ、今日はパス。筋肉痛で痛いからね」
「でも食事は……」
「昨日食べたから当分は大丈夫でしょ」
「でもルクスは……」
「あんなの集めたって無駄、どうせ使えやしないんだから」
そういうと輝をはじき返し、座っていた。しかし、そう言ったのは彼だけでなかった。
「なんで……筋肉痛ぐらいで」
「もういいんだよ、勝手にやってればいいだろ」
というよりは、ケアキ以外全員であった。
「あのケアキさん……?」
「今日もやるのか?」
意外にもケアキだけはやる気であった。
「はい」
「他のみんなは……」
「筋肉痛でしたくないと」
「でも食事の方は?」
「当分は大丈夫だって」
「なんでこうなんだ、いつも!」
「いつも?」
「そうだ、たまに仕事したと思うと、全然しないんだ、だけど食べてはいるから、生きてはいけているみたいな感じでな」
「どうすれば……」
「他を当たってみるか?」
二人は他のグループに声をかけた。
「すいません、私たちが一緒にやってもいいですか?」
「君は新人の、今日も走ってたね」
「はい、テルです」
「君はいいけど、もう一人のはな……」
「そうですか……」
他のグループにも声をかけるが、どれも返答は、拒否か、輝のみかの二点張りであった。
「もう君だけでも入りなよ」
「でも……」
「またカリュウさんになんか言われるよ」
「……(そうするしかないのか……)」
輝はトボトボ歩いてゆき、輝のみを受け入れるグループの中でも、頑張っているグループに再びお願いして、入れてもらったのであった。




