第二十四話 おばあさんの正体
第二十四話 おばあさんの正体
「実はな、ミッションが決まったら、その紙を破ると、魔法の地図が場所までの案内をしてくれるのじゃ」
「そうなのですか!」
輝は早速、紙を破ってみた。すると、何も出てくることはなく、それどころか、紙さえも消えてしまった。
「これは?」
「これは、依頼者の依頼期間なのか、すでに解決済み、または依頼削除のどれかということじゃ」
「(ギルドにもっとあったよな)他のなら?」
輝は急いでギルドへと入っていくと、全ての紙を板から剥がし、おばあさんのところへと持ってきた。
「まだこんなにあるんですよ」
輝は一枚一枚丁寧に破っていくが、どれもが消えて行った。
「やっぱりか」
「いや、まだまだ」
輝は二、三枚を重ねて破り始めた。それでも、どれからも魔法の地図は出てこなかった。
「無理じゃよ」
「ま、まだこんなにあるんだから」
六十一日目
それから輝は日が出始めるまで、長らく紙を破っていた。しかし、結局どれも何も出さずに消えてしまった。
「どういうことなんだ…」
「待て待て、一回落ち着け」
「落ち着いてなんか居られるわけないだろ!」
「このギルドはな、長いこともう動いてないんじゃ。だからな、お前の持って居たやつ全部、数年前のものから変わって居ないんじゃ」
「どういうこと?」
「昔、このギルドはメンバー五人ともがミッションをやって居てな、完全なファイブマンセルのチームだったんじゃ」
「それじゃあ、俺は……」
輝は今までのだるさからではなく、絶望から俯いた。
「(トク、俺学校に入ることになるんだよな……)
[仕方ないですね]
「(くそ)」
「おい、テルとやら、ちょっとついてきなさい」
輝は言われるがままに、おばあさんの後をついて行った。その頃には、すでに朝になっており、日も全体が顔を出した。輝たちは右へ曲がり、次に左へ、そしてたどり着いた先には大きな屋敷があった。しかし、かなり古びており、今にも崩れそうだ。蔓が壁をはり、まるで昔の要塞とでも言えそうなほどである。
「ここは?」
「私の家じゃよ」
「えぇ!」
「入っていいぞ」
「じゃあ、お邪魔します」
錆びついた門を通り抜け、屋敷の中に入って行った。しかし。入って行ってみると、やはり手入れが行き届いておらず、どこもかしこもホコリだらけであった。
「こっちじゃ」
輝は屋敷に入ってすぐ右にある小さな部屋に入った。そこは、屋敷の外観とも、他の場所とも違い、大変きれいな、手入れの行き届いた部屋であった。
「この家は大きすぎての、ここしか使わんのじゃ」
すると、おばあさんは部屋の奥に入ってゆき、少しすると、赤い色の飲み物とパンを持ってきた。
「この飲み物は?」
「ティーを知らないのか?」
「(英語名かよ、紅茶ってことか)あぁ、知ってます」
おばあさんはパンを半分にして、食べ始めた。
「(俺にじゃないんかい)それで、なぜここに?」
「テルくん、君は何故ドレアニクがあんなに朽ち果てているか知っているかい?」
「えっと、ベルトが出て行ったから?」
「そのベルトが出て行った理由は知っているのか?」
「いいえ」
「知りたいか?」
「まぁ、はい(知ってて損はないだろう)」
輝は部屋の床に座った。おばあさんはソファに座っているが、部屋には全て一人分しかないようであった。
「彼女の名前はレイだった」
「彼女?」
「ギルド創設メンバーのことを聞いたことは?」
「はい、ベルトと、アカリさんと、後もう一人……」
「そう、その最後の一人が、レイだったのじゃ」
「ヘィー(女性だったんだ)」
「彼女は人に優しすぎた」
「それで?」
「彼女の魔法はね、意識を入れ替えることのできるものじゃったんだ」
「意識を変える?」
「そう、厳密に言えば、精神だけを、別の体に移すということじゃ」
「……あ、そう(何言ってんだ、このババア)」
輝は黙り込んだ。
「彼女は人に触れることによって、入れ替われたのじゃ」
「それって強いか?」
「もちろん、敵に触れば、相手を戦闘不能にできるしな、後、入れ替わっている間は、相手は魔法を使えないのじゃ」
「じゃあ、スパイ作戦とかの時に?」
「それにも使えるな」
「その時に死んだとか?」
「そうではない」
「どういうことなんだよ?」
「それを今から説明するんじゃろうが!」
おばあさんに大きい声を出された輝は、しばらく静かにしていた。
「ドレアニクのミッションは大抵は悪魔、魔物退治系のものだったんじゃが、皆も休みたいじゃろ。だから、ギルドを構えたのじゃ。じゃがな、ギルドの創設条件として、必ず自身からの地方、地元ミッションもある程度こなさなければならなかったのじゃ」
「だからあんなに」
「あと、安かったじゃろ。一マジクが最低金額じゃからのう、皆もボランティアボランティア感覚で助けてもらってたんじゃ」
「それで、どう関係が?」
「ここからじゃ、レイはのう、あるお金持ちのおばあさんによく入れ替わるように頼まれたのじゃ」
「だから優しいって、金もらってんじゃん」
「お金持ちじゃが、同じく一マジクしか受け取っていなかったのじゃ」
「馬鹿らしい」
「それはさておき、おばあさんはレイと入れ替わることによって、若返ったような気分になれたのじゃ」
「確かに何ができるというわけではないけど、人に乗り移れたら楽しそうだな」
「それでな、レイはいつも頼まれると意識を変えていたんじゃ」
「それで?」
「しかし、ある時に、突然戻れなくなってしまったのじゃ」
「戻れないって……」
「そう、レイの意識はおばあさんの中に、おばあさんはレイの体に」
「やべー、きも」
「そこで、すぐにレイはどうにか戻そうとしたが、戻らなかった。その後、おばあさんも取り合わなかったんじゃ」
「えっと……」
「その時おばあさんは、お金は使っていいと言ったが、そこにはもうお金がなかったんじゃ」
「えぇ? さっき、一マジクって…」
「おばあさんになったレイは、泣く泣く、おばあさんの家に向かったのじゃ。すると、魔法の効果を一時的に無効化にする薬のから瓶を見つけたのじゃ」
「それは?」
「それはとてつもなく高い代物でな、それを買っていたんじゃ」
「じゃあ、戻れたってこと?」
「いいや、それからレイの体にいるおばあさんはおばあさんの中に入ってしまったレイとは全く関わらないという手をとったんじゃ」
「それじゃあ」
「そう、そしてある日のミッションで、そのおばあさんは恐怖のあまり、意識を失って死んだと聞いている」
「……それじゃあ、まだ体は無事っていうことじゃない?」
「噂では植物状態とも聞いたのじゃが、実はその体を持ってベルトが消えたのじゃ」
「えぇ!? えぇー!」




