第十五話 輝の帰還
第十五話 輝の帰還
[体温が上昇してます]
「(なんでだよ)」
[わかりません、でも……百度に達しました]
「(なんだ、どうなってるんだ)」
[もしかしたら島を出たいというその気持ちがどうにかこれにいたらしたのでは…]
「(もう何言ってるかよくわかんねーよ)」
[とにかく、今がチャンスじゃないんですか?]
「(そうだな、今ならいける気がする)バーナス、俺いくよ」
「気をつけてね」
「わかってるって」
輝は海に向かって歩き出した。初めは足が濡れ、沈んでいたが、途中からは、水を蹴るようにして、水面を歩くことに成功した。
「(良し)」
[集中ですよ]
「(特訓の成果を)」
足元に熱を集中し、うまく水を押して進む。単縦なようで、集中を常にしていなければならない大変困難であった。速さは遅いとしか言えないほど、徒歩のスピードであった。
「(あの速さで三時間だぞ、どんだけかかるんだよ)」
[七日って言ってましたもんね]
「(これから七日もかよ……)」
輝は集中力を研ぎ澄ませ、早足程度の速さで歩くことができるようになった。そしてその時点で、二時間ベルトの師匠がたどり着くことができる時間が経過していた。
「(まだまだだろ)」
[そうですね、まだ半分の半分の半分の……]
「(もういいよ)」
[何を言っているのですか?]
「(もう諦めたよ)」
[やる気を出してください、そうでないと体温が…九十度]
「(もう疲れたんだ)」
[お願いしますよ、七十度、六十度、五十度…]
輝は海に沈み始めた。
「(もう死ぬのか……短い命だったな)」
[やる気を出してください!バーナスさんのことも、思い浮かべて…二十度]
海水の温度で、体温はどんどん下がって行った。また、輝自身も海に沈んで行った。
「う……」
輝は気を失い、口にももう空気は残っていなかった。
……
...………
...………………
…… …… …………
「(ん、俺はどこにいるんだ? 何も見えない)」
[わかりませんね]
「(天国か? それとも地獄なのか?)」
[そうかもしれませんね]
輝の頭は真っ白になっており、何も見えず、ただどこかにいることだけしか知ることはできなかった。
「テル!」
「(トク! うるさいぞ)」
[私は何も……]
「テル、起きて!」
「(トク、頭だけじゃなくて、声まで変になったな)」
[私ではありません]
「(じゃあ誰なんだよ、天使か? 悪魔なのか?)」
[神様や閻魔大王様かもしれませんね]
「(女神様だといいね)」
「テル! テル!」
「(うるせーな、目が開ければ、なんで耳しか使えないんだよ)」
輝には聴覚以外の感覚は使えていなかった。何も見えず、何の匂いもしない、ただいるだけであった。そんな時、輝に触覚が戻った。
「(あれ? 何かが口に当たっているきが)」
[記憶と比べても、わかりませんね]
「(なんかすごい柔らかいぞ)」
[天国なら雲なのかもしれませんね]
「(そうなのか? わからない)」
「はぁはぁはぁ」
輝は今まで、胸苦しく感じていたものがすっとなくなったような感覚を得た。
「(なんかすごい楽になったな)はぁはぁ」
[あれ、これって呼吸していると言うことではないですか]
「(そうなのか?)」
すると、輝はうっすらと少しずつ視覚を取り戻し始めた。
「(何かが見える、ひとか?)」
輝はぼんやりと周りを見渡した。輝のいる周りは薄い茶色、見上げると青い。横にも青い何かが広がっている。
「(青いのは空、茶色って砂か?もしかして海?)」
「テル、大丈夫なの?」
「(誰なんだ、まだはっきりとは見えないな。だけどさっきより声がちゃんと聞こえる)」
[……解析します……アイリスさんの声で間違えありません]
「アイリス?」
「テル、大丈夫なの?」
「そうみたいだね……」
輝の感覚は完全に戻った。
「(やっぱり海辺にいたのか!)ここはどこだ?」
「ルーマスだよ」
「海なんかがあったんだ」
「何? 知らないのにここにいるの?どういうことなの?」
「わかんない、海で溺れそうになって……」
「実はここにきたら、あなたが潮に流されているのを見たの」
「アイリス、本当にありがとな」
「本当ですよ、私の始めも……」
アイリスは顔を赤らめた。
「初めて? なんのこと?」
「何をとぼけているの? キスよ」
「キッッ……キス?」
「仕方ないでしょ、あなたが死にそうに見えたのだから」
「なんだ、人工呼吸か」
「そうよ、それでも……よ」
「(でも、運がいいな。生きてるし、こんな可愛い子とキスまで)本当にありがとうございました」
「何よ、かしこまちゃって」
「でもなんで俺を? なんでここにきたんだ」
「それは言えないけど……それでもなんで退院後帰ってこなかったの」
「(なんか前と違くないか? 実はツンデレ系だったのか?)心配したのか?」
「そんなんわけないでしょ」
「(やっぱりそうだ)何日ぐらいたった?」
「ちょうど五十日よ」
「そんなことまで……」
「もう私行くわ」
アイリスはローブのフードをかぶり、歩き去ってしまった。
「(今日って、異世界来て何日目かわかるか)」
[もちろんです、時計を見た記憶から計算し、]
「(もういい、何日目だ?)」
[五十七日目です]
「(すごいな、結構長いけど、何日流されたってことか?)」
[十四日ですね]
「(よく生きてんな)」
[本当ですね]
輝は今一度周りを見渡したが、ボロボロになった着ている服以外には何もなかった。薬草も、虫も。
「(何もないじゃねーか)」
[また目立ちますね]
「(本当にここの風習はわからん、でも金は必要だな)」
[コロシアムですね]
「(そうだ、魔法を使わなくても余裕だろうしな)」
輝はアイリスが向かった方向へ歩いて行った。すると、多くの一軒家が立ち並んでいた。
「(お金持ちの豪邸ってとこか)」
実際、商業都市としてルーマスは発展したものの、海辺ということもあり、リゾート地としても有名であった。ルーマスは入るランドの南東の小さな半島で、半島の東はリゾート地、西は港として栄えた。そして、一般人の家と中通りが内側にあり、中心に大通りの商店街があるのだ。
輝は大通りに向かおうアイリスの向かった方向、つまり海と反対の方向に歩くことにしたのだ。そんな時、輝の目の前に猫が現れた。
「わぁ! (猫)」
輝は驚き、後ろに転んでしまった。実は輝はアレルギーではないものの、猫、犬などよくペットとして飼われる動物は好きでなかった。そんなところに、おばあさんが現れた。
「すいませんね、うちのミヤが……」
「本当に気を付けてください(まじで死ぬかと思った)」
「そこまで言わなくてもいいじゃないのかね」
「いや、でも私はこうしてこけましたし」
「それはミヤを怖がるあなたが悪いのでは?」
おばあさんは、お金持ちのようで、宝石のようなキラキラしたものを身体中に身につけており、鼻が顔の半分を占めるほどに大きいのが特徴だ。輝は吹き出しそうになってしまった。
「もういいです。失礼します」
「そうだな、貧乏人はさっさと散れ」
「(くそ、ばばあめ)」
輝は再び、中央の大通りの方へ歩き出した。




