第百十三話 正義のヒーロー
第百十三話 正義のヒーロー
輝は自分の防御を諦め、メイスをタンタルで囲むと無防備になった。
「ほら、服着てんじゃねーか」
「……」
「まぁ、あとはわかってんだよな」
「……」
輝はその後、幾度も殴られ、幾度も恥じるべき行為をさせられた。心も体もボロボロとなり、どうしようもなかった。その時、教室の扉が開き、ローブを纏った生徒が入ってきた。
「なんだ?」
「今すぐやめろ!」
「誰だ? クラーク? サノルか? どちらにしても、俺より身分低いだろうが!」
カイは口から唾を飛ばしながら、罵倒した。そして、輝を再び、蹴った。
「やめろ!」
「なんだよ! 止めたいなら、やってみろよ!」
「生徒同士の戦いは許されていない」
「なんだ、だったら、俺がやってやるよ!」
そして、カイが大きく拳を振りかざした瞬間、カイは音とともに倒れた。
「誰だ……」
輝が苦し紛れに発した声、ローブの男は駆け寄った。
「キリなのか?」
「テル……」
輝の体を哀れむように丁寧に起こした。
「なんでだ? なんで俺を……」
「テル……」
「なんだ? お前も俺になんかするのか……」
輝はキリの方を見ようとはせず、目をそらしていた。怖がっていたのだ。目を合わせるという行為を。
「おい、目を見ろ」
「はい……」
輝は言われるがままに、頭を上げた。そして、その目の前にはローブの中からキリの顔が見えた。
「……」
輝は言葉を失った。
「(どういうことだ……)」
輝には理解ができていなかった。
「久しぶり」
「…… ライ……キ……」
「覚えてくれてた! そうだよ、あの時のライキだよ」
ライキはローブを脱ぎ捨てた。そこには、金髪の細い青年がいた。そうして、すぐに輝の周りに腕を回して抱きついた。
「ずっとこうしたかったんだ」
「なんだよ、急に、気持ち悪いな」
そう言いながらも、輝は拒否しなかった。し得なかった。輝の体はまだ、小刻みに震え、まだ痛いからの恐怖が残っていた。数時間にも渡って蹴やれていれば仕方がないのかもしれない。
「でも、ライキがなんでここに? あと、なんでキリ……」
「テルが心配で師匠のところ飛び出してきたんだ。そうしてあたら、まさにって状況じゃん。ほんとびっくりしたよ」
輝にはまだ理解ができていなかった。
「キリって名前は、お父さんの名前なんだ」
「お父さんって、ライキ、家族いるのか?」
「いや、昔ね…… 昔はよく居たんだけど、突然置いて居なくなって……」
「でも、なんでキリっていう名前に……」
「師匠が名前を変えろっていうからね。だって、コロシアムのせいで多少有名になったからね」
「あれってそんなに有名なのか?」
「テルの名前も少しは知られていると思うよ」
「そんな……」
輝とライキはたわいもない話を続けて居た。
しかし、教室の外で物音がした。
「誰だ?」
ライキは急いでローブを纏った。そして、そこに居たのはケレンであった。彼女は驚いたように、また、右腕は剣のような形をして居た。
「あの、キリ? あなたのおとうさんがキリなの?」
「なんだ、聞いて居たのか、そうだけど……」
「あなたと同じような、金髪の……」
「見られてたのか…… いつから?」
「そんなことよりも答えて、あなたのお父さんはどこ?」
ケレンは氷の刃をライキの首筋に近づけた。
「なんの真似だ?」
「あなたがクラスの王とか、関係ないから! だから、答えて! あなたのお父さん、キリはどこにいるの!」
「知らないって! 輝との聞いてたなら言っただろ! 突然居なくなったんだ!」
「宛ぐらいはあるでしょ! 今すぐ言って!」
ケレンは刃を首筋に当てて言った。そう、脅しの域を超えていた。
「さすがにこれはやりすぎだ、ケレン!」
その瞬間、ケレンの刃の先からライキの姿は消えた。そして、ケレンには驚いている隙もなく、頭に指を当てられた。
「なんの真似だ? 答えないと、今すぐ殺すぞ!」
ライキの声は違った。先ほどのような優しい声ではなかった。いうならば、悪人の声、殺人をこなしてきたのか、言い慣れた面もあった。輝はどうなっているのかわからず、体を起こすこともできずに、声だけを聞いて居た。
「やっぱり、あなたはすごいはね」
「じゃあ、答えろ!」
「あなたのお父さんがアウェスを……」
「なんだ? アウェスって」
輝は思い出したのかのように言った。
「ケレンの故郷だよ。空の都、アウェスだ」
「それがどう父さんに?」
「キリはノコノコとやって着て、全てをめちゃくちゃにしたのよ…… あいつさえ居なければ! あの裏切り者!」
「何があったんだ?」
そうして、ケレンの話が始まった。
「あれは、いつだったかしら? 私がここに来る一年前ぐらいに、キリがやって着たのよ。アウェスはもともと、ミラーノ族の翼を無くてはこれないところ、そして見つけられないところなんだけど、キリはきたのよ。彼の魔法で……」
「翼の魔法……」
「そうよ、だからこれたのよ。それも大天使の翼という魔法でね、私たちの翼よりも幾分も性能が上よ。それで、アウェスでは、最初は騒動ごとだったんだけど、キリが話していくうちにみんなに和んでに、何日も居たわ」
「それで突然……」
「そうよ、カレンが怪しい動きを見たと言ったのだけど、誰も信じなかったわ。そして、何もわからないうちに、突然起きたのよ。今まで一度も火事になったことがないアウェスが……」
「大火事…… 火を使って居なければ、気にしなくてもいいけどってか」
「それで私とカレンは子供だからって、早めに逃がしてもらえて、後の大人は作業に取り掛かって居たわ」
ケレンは悲しそうに俯いた。
「それでどうなったんだ?」
輝は興味を示したように、呟いた。
「アウェスはもうないわ…… 私の両親も誰もね」
「えぇ?」
「私も先の休みの時に報告をうけたわ。火事の被害は残酷的で、もうどうしようもないまま、民が亡くなったってね」
ケレンの声には嘆き、悲しみ、そして怒りが混ざって居た。
「わかってる。ライキは悪くないって…… でも、キリが憎い! 殺してやりたい!」
「……」
「……」
輝もライキも話す言葉を見つけられなかった。輝にとってはどうすることもできないこと、そしてライキは変に自分の責任を感じて居た。
「俺がいつか見つけたら殺しておくよ」
そう言ったのはライキだった。
「でも、あなたの……」
「いいさ、俺を捨てたんだからな。俺を捨てて、ほかを潰して、何がしたいんだ! あぁ、うざい」
ライキの声には憎しみのみがあった。輝の落ち着いた体は再び身震いをした。




