第百十二話 A組の異変
第百十二話 A組の異変
輝の筋トレの日々は長かった。皆が、お互いに戦ってランキングを更新している中、数日そこらでは筋肉が付くはずがないのに、筋トレを続けていた。そして、三日経って早くもリハビリが完了し、普通に小走りが可能となった。
「(これで多少は戦えるかな……)」
しかし、輝にはタンタルを運ぶ筋肉はまだ備わっていなかった。前回と同じように絶対防御で挑むことができるのだが、ランキング戦は十分間の制限時間があり、それを越えると挑戦者の敗北となるため、輝には向いていなかった。つまり、輝は最下位のまま、過ごすこととなった。
そして、一週間が過ぎた頃、輝はようやく走ることが可能になった。しかし、とても戦うことはできず、ランキング戦は終了してしまったのであった。そうして、輝は新しい学期を迎えた。
ディッセンバー 三十日
キリ以外の生徒が教室に集まった。
「それじゃあ、A組のランキングを言うわ。まず、最下位からね。テル、メイス、サノル、チリキ、ノア、マリカ、クラーク、ケレン、カイ、そして変わらずキリが一位ね。じゃあ、明日から後期が始まるから教室に来てね。解散!」
生徒内では階級がついたのかのように、高位の生徒が他に対して見下すような行為が目立っていた。前期は一年から来たものだったからなのか、そのようなことはなかったのだ。つまり、キリはその階級の王ということだ。また、ローブの使用は一年の時にキリの命令だったということが輝には伝わった。しかし、これは同時に輝が階級内の底であることを表していた。
階級は上から一位を王として、二位、三位、四位が三貴族と呼ばれた。そして、五位から八位の四人は平民と呼ばれ、九位と十位は奴隷扱いであった。そして、輝はそれの例外ではなかった。これについて、サクラ先生は黙認していた。それによって生徒が成長するなら良いという考え方だったのだろう。しかし、この状況はいじめよりもひどいものであった。上のものは下のものに対して何をしても良いというのだ。キリが学校にいないことは状況を悪化させていた。なぜなら、王無しでは、三貴族が他のトップということだからだ。
「おい!」
カイは輝の方を向いて大声をぶつけた。
「返事しろよ!」
カイは足で輝の腹を蹴った。
「はい(なんでこんなことを……)」
輝は憎しみを込めた目でカイを睨んだ。
「何睨んでんだ。今すぐ俺の足を舐めろ!」
「なんでだ!」
「なんだ? 物答えする権利はお前にねーよ」
「クソ野郎」
輝は言われるがままに、カイの裸足に舌の先をつけた。
「舐めろって言っただろ!」
輝は舌を足に押し付けた。吐き気を感じるほどに臭いのきつい足を舐めた輝は唾を吐き捨てた。
「おい、何してんだ!」
その瞬間、カイは足の指を輝の口の中に入れ込んだ。
「こうしろって言ってんだよ!」
生徒の中には、見ているものや目をそらすものもいた。そしてメイスは教室から走って出て行った。
「おい、ノア、メイスを捕まえてこい」
「はいはい」
ノアはメイスを追いかけていくように走って行った。そして、数秒後には大きな物音がした。
「遅いぞ!」
「悪かったね」
ノアの手には気絶したメイスがいた。苦しそうに腹を抑えており、引きずられて来たのだ。
「お前も、逃げたらああなるからな! さっさと行け」
輝は再びカイに腹を蹴られ、走って自室に戻って行った。
「(どうなってんだ? 急に…… なんなんだよ!)」
輝の疑問はおかしくもなかった。カイと言ったら今まで静かなただの一生徒だったのだ。それなのに、これほど急に変わるということは輝には驚きで、もちろん他の生徒も少なからず驚いてはいた。
ディッセンバー 三十一日
次の日、輝は一味違った。そう、輝はタンタルを体に身につけて教室に向かったのだ。教室に入った瞬間、皆は驚いたように見たが、そのあとは何事もないのかのように過ごしていた。そうだ、この階級制度を実際に行使するのはごくわずかな生徒で、ケレンもクラークも上位であるにも関わらず全く興味を示していなかった。
「おい、それはなんだ?」
「いや、魔法に慣れとこうと思って(これでカイも蹴ることはできないからな)」
「さっさと脱げよ!」
「なんでだよ。この中に何も来てないんだよ!」
「嘘だろ」
その時サクラ先生が教室に入って来た。
「あの、先生!」
「何? テル?」
「服を脱げと言われているのですが……」
「誰に? カイ? ダメじゃないの! それは違反よ!」
「(おぉ、ルールとかあったんだ!)」
「チぃ、わかりましたよ」
そして、授業は何事もなく進んで言った。
「それじゃあ、知っているとは思うけど、この世界について学んでいくわよ。まずは、ギルドよね」
「あの、みんな知っているので、それはいいと思うのですが……」
「いや、一様教えないといけないからね。知らない生徒もいるし……」
輝はわざとらしく目をそらした。そうして、授業は無事に終わったのだ。すると、カイ、テル、メイスを置いて全生徒は自室に戻って言った。しかし、テルはカイに言われた通りに残っていた。問題ごとには巻き込まれたくない、その思いが皆から輝には読めた。
「それで、なんで残らなきゃいけないんだよ(この鎧さえあればな)」
「さっさと、それを脱げって言ってんだよ」
「いやって言ってんだろ!」
「なんだ、俺は貴族でお前は奴隷なんだぞ!」
「お前もだ!」
メイスは焦りながら、ローブを脱いだ。そこから出て来たのは、幼く見える少女だった。黒いかみに、黒い目、日本人のようにも見えるその見た目で、輝は一瞬にして目を取られた。
「(可愛い……)先生にいっていいのか」
「ほら、メイスを見習えよ!」
「カイ……」
輝は鎧を薄く引き伸ばし、メイスを包み込んだ。
「おい、テル、何をしてんのかわかってんのか?」
その瞬間、カイは輝を力のままに殴った。しかし、輝の予想とは裏腹、鎧を薄くした為に、輝の体に伝わるほどの威力であった。
「痛いだろ! 俺の魔法も知らないでこんなばかなことをしてな」
「なんだ? どんな魔法を使うんだ?」
輝は焦りを見せながら、殴られた鎧部の補強を行った。
「なんだ、鎧の薄いところが目に取るように見えるわ!」
そして、次はメイスの腰部を殴った。そう、カイは、輝の魔力が偏り弱ったところをピンポイントで狙っていたのだ。
「これがお前の魔法か?」
「なんのことだ?」
そして、カイの拳は止まることなく続いた。




