第百十一話 鈍足の採光
第百十一話 鈍足の採光
輝は透明な壁を経て、大広間についた。そして、目の前には何も持っていない、あのキリがいる。ローブをまとってあくまでかっこよかった。
「こうして戻ってこれたのも、キリのお陰だよ。でも、絶対に負けないからな」
「いいぜ、かかってこいよ」
輝は体が不自由な上に、重すぎるタンタルの塊があるだけ、速さが自慢の輝の攻撃ができなかった。対して、キリは電気を使う、つまり、ナメクジを狙う隼のような状況だったのだ。
輝は何もせず、いやできずに立ち竦んでいた。
「早くかかってこい」
キリは呆れたように言った。そして、瞬間移動をしながら、輝を挑発した。
「エンターテイメントの心を忘れてたけどな、やっぱり楽しいよな」
キリは嬉しそうに声を上げた。そして、輝への挑発を繰り返した。輝は少し動いて見たが、やはり遅かった。
「おいおい、ナメクジかよ」
「(ナメクジってこんな気分なんかな?)」
でも、動いたとしても遅く、動かなければどうにもならない、輝にはどうすることもできなかった。また、剣などを作ったと思えば、腕の筋肉の衰えによって振ることもまともにできなかったのだ。
「(せめて、カタツムリだったらな。亀とかさ)」
そして、輝は何か閃いたように、タンタルを溶かして体にまとわりつけた。そう、カタツムリの殻や亀の甲羅を真似して見たのだ。
「どうだ!」
輝は自分の閃きに感動を覚えながら自信満々に言った。キリは一瞬困惑を表していたのだが、すぐに何もなかったのかのように、挑発を続けた。
「でも、動けないんだろ!」
「いや、動けるんだよ!」
輝はとにかく言い返して見たのだが、どう動くのかがわからなかった。
「(体を感じるんだよな、なんかあったな、どう体が動いてるかって。そうそう、関節を……って!)」
輝は少し自由そうに体を動かした。そう、輝は体に鎧のようにまとったタンタルの関節部位を溶かしたのだ。
「これで動けるだろ! みろ」
輝は自慢げに体を動かして見せた。しかし、動かせるものの、遅さは遅いままであった。
「でも、遅いんだな」
「あぁ、悪いか? でも、このタンタル・アーマー(なんかカッコよくね)があれば、お前の攻撃なんかへっちゃらだ!」
輝は焦り汗を流しながら、余裕ぶっていた。だが、キリも余裕を感じていなかった。それも、輝の鎧のせいであった。
電気は金属に囲まれた空間内では流れないのだ。つまりは、輝が鎧を纏っている限り、キリの攻撃は効かないのだ。しかし、このようなことを輝は知る由もなかった。が、その無知さがキリをさらに焦らせていた。
「なんだ、もう挑発はやめたって!」
次に挑発を始めたのは、輝だった。キリの異変に気づき、何かしらで自分が優勢であるように感じたのだ。
「仕方ない……」
キリは部屋の出口の方へと歩いて行った。そして、サクラ先生に告げたのだ、己の敗北を。
「負けました、降参です」
全生徒は驚きを表していた。あのキリが負けを認めたと。しかし、このように自分が勝てないと分かっていて挑まない精神は目を見張るものである。そう、サクラ先生は考えていた。
対して、何がおこったかわからない輝は次に部屋に入ってくる生徒を確認した。そう、それは、ケレンだった。
「久しぶりね、別に心配してないけど。まさか、キリが降参するなんて、あなた何かしたの?」
「いや、別に……」
実は、試験の空間内での会話は観客席には聞こえてはいないのだ。
「今回は負けないからな」
「さっきので調子に乗ってるの? どうせ、キリは優しいからあなたの弱さに同情したのよ。あと、私があなたみたいなのに負けるわけがないでしょ。歩くのもトロいのに」
「でも、これを纏ったままでも動けるんだぞ」
「でも、遅いじゃない! 私はキリほど早くはないけど、今のあなたほど遅くもないわ」
「(でも、慣れてこれば速く動けるはず……)」
輝はタンタルを纏ったまま、戦闘を開始した。
「言ってなかったけど、そうやって鎧を作れるのはあなただけじゃないのよ!」
「氷の鎧ってか! 真似したってそううまくいかねーよ」
ケレンが体に纏った氷の鎧は輝きを放っていた。だが、輝は鼻で笑った。
「何よ、あなただって私の右腕を真似て、左腕をなくしたじゃない!」
「これは、仕方ないだろ!」
「そうね、弱いからね」
「言いたい放題言いやがって!」
輝とケレンは睨み合った。そして、相手に隙はないかと見ているのがだ、いくら隙がでるのを待ったとしても、両者の鎧が邪魔をしていた。ケレンは一度、氷の剣を輝に振りかざしたのだが、鎧に傷をつけるどころか、剣が砕け散ったのだ。つまり、この時点で、輝は防御が最強にも近い状況になっていた。もちろん、最強はどうして負けたのかわからない、レイキの絶対零度なのだが……
とにかく、一向に試験が終わらないために、サクラ先生は呆れて両者を照射とした。これには、不平の声もあったのだが、両者を敗者にするには都合が悪かった。そうして、試験は続いてゆき、最終的に、不合格者は出なかった。お互いに有利不利の関係が影響しているのか、どうしようもなくおわったのだ。
「じゃあ、みんなお疲れね。来週までの一週間は、個人で自由にクラス内ランキングなり楽しんでね」
そう、サクラ先生は言い残すと教員室へと姿を消した。しかし、輝には分かっていた。これから、上着を脱いでゲームを始める、サクラ先生のことを。
「(俺、タンタルに頼りすぎてるな)」
「おい、テル! 凄かったな!」
そう話しかけたのは、クラークだった。
「あぁ、んん。それでなんだ?」
「あのさ、クラス内ランキングのこと知ってるだろ」
「あぁ」
「だからさ、俺はお前に申し込むよ!」
「えっと、俺は拒否できるのか?」
「した場合は、不戦勝だけどな」
「でも、俺まだ……」
「だから、言ってんだよ! 馬鹿か」
「じゃあ、勝手にしとけ!」
「よっしゃーこれで俺は三位!」
クラ―クは嬉しそうに消えてゆき、次から次へと、輝の元にきては皆が嬉しそうに去って行った。ついには、九位になった時、サノルとの戦闘拒否で、最下位、十位に落ちた。
「(どうしようもないからな。あと1週間! リハビリですぐに戻って、またあいつらに勝ってやれば良いんだよな)」
輝は部屋に戻るなり、筋トレを始めようとした。のだが、筋トレをする筋力もなく、ウォーキングから始めることになった。




